Data No. 195 |
藻琴山(もことやま) 同行者: 単独行 |
雄阿寒岳
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深田氏は、逆に雄阿寒岳は登頂したが、雌阿寒岳は、当時の火山活動のため、登頂していない。それは別として、私自身は、阿寒湖の背景として聳えるスマートな雄阿寒岳も、何としても登ってみたかった。以前より、その姿に大いに惹かれてもいた。 昔、雌阿寒岳を登頂した際、阿寒湖畔温泉を出発時は重苦しい曇天だったのに、雌阿寒岳登山口に着いたら、山は雲の上だったのが強烈な印象として残っている。そして山頂に立ったとき、大原生林の法衣をまとったペアの阿寒岳は、仙人が空を飛んできても、そのまま信じてしまいそうな、まさしく神々の住む世界であり、俗世間から完全に隔絶されて、雲の上に浮かんでいた。 悩んだ末に、神々の領域に入り込む 6月17日(金曜日)の早朝5:40、私は雄阿寒岳登山口で、車に乗ったまま悩んでいた。この季節の北海道は、午前3時で明るくなり、5時を過ぎれば、かなり陽も高い。しかし、登山口駐車場には、他の車は一切無く、登山届ポストを見ても、この日に入山した人はゼロである。そしてその傍には、熊出没に関する注意書きが大きく目立つ。今日は天気も良いし、いくらなんでも、6時くらいになれば、1台や2台の登山者の車くらいは来るだろうと思っていた。しかし、来なかった...。 せっかくの願ってもない好天なのに、熊が怖くて今日の登山を止めたら、もう永久に雄阿寒岳に登るチャンスは来ないかもしれない。6:05、一大決心をして、登山道に足を踏み込んだ。ストックに熊鈴を垂らして、鈴がストック本体にぶつかってなるべく大きな音を立てるように歩いた。それでも、胸はずっとドキドキしていた。 登山道は最初は阿寒湖の湖畔を水平に歩き、太郎湖、次郎湖の畔をたどるので、高度はあまり上がって行かない。やがて、次郎湖への下降分岐点を過ぎた頃から、ようやく本格的な登りが始まり、鬱蒼とした暗い樹林帯の中を息を切らせて登る。とにかく気味が悪い。神様や熊が住む北の山は、人間は「よそ者」であり、侵入者なのだ。 登山口から40分も歩いた頃、ようやく一合目の標識があった。それからは私の足で20〜25分間隔で、二合目、三合目と続く。ところが、四合目から五合目が、とてつもなく辛くて長かった。事前の情報で、この山の合目標識は全く等間隔ではないと知ってはいたが、どうしても「次はまだか、まだなのか...」という徒労感に苛まれる。 無人の原生林の中の気味悪さ、そして熊に対する恐怖心、それらは、苦しい登りの疲労感で、次第にマヒしていった。 五合目の看板にようやくたどり着き、「8割クリア」という文字に安堵するが、本当に本当なのか、という猜疑心も捨てきれない。しかし、樹木の背丈は次第に低くなり、ハイマツ帯になると、見通しもそれまでよりはずっと利いてきて、気味悪さは次第に緩和してゆく。 急登も終わり、行く手には雄阿寒岳の頂稜が姿を見せてきた。そして五合目までは、あんなに苦しかったのに、次の六合目は10分で、七合目も10分でたどりついた。こんなひどいばらつきは放置せずに、もっと実態に即した合目標識に変えてくれれば良いんだが。 七合目付近からは、背後に、箱庭のような、阿寒湖と雌阿寒岳のすばらしい大展望が広がった。湖面の青さはひときわ目を惹く。 苦労の報われた素晴らしい山頂 ここまでくれば、山頂火口の縁のような稜線を鼻歌交じりで歩ける。八合目は昔観測所があった場所らしい。九合目もあっという間にたどり着き、噴火口の縁にあるコブを二つほど越えて登ったところが、雄阿寒岳の頂上(1,371m)であった。 登山口から約3時間の闘いであった。言うまでもなく、素晴らしい展望が広がる。 と、私がカメラで方々の写真を撮っているとき、チャリンチャリンと音がして、熟年男性がひとり登ってきた。そして到着して、挨拶を交わすなり、「あ〜気持悪かったぁ〜!」とため息をつく。聞くと、私より10分ほど後に登り始めたらしい。やはり、思うことは同じだったのだろう。お互いに人に会ったので、緊張がほぐれたようだ。しかし、この日の行程中で、出会ったのは、彼が最初で最後だった。 そんなわけで、ゆったりした気持で景色を楽しむ。昨日訪れた大雪山連嶺が、雲の上にうっすらと白く輝き、斜里岳から知床方面の山は指呼のうちだ。足元にはパンケトーの湖面が青い。しかし、ここでは阿寒湖は前山に隠れて見えない。 山の神様ありがとう、そして出るのを遠慮してくれたヒグマさん、どうもありがとう。 下山は、もう怖さは無かった。それでも熊鈴は大げさに鳴らしながら、往路をそのまま、2時間で下山した。(この雄阿寒岳には、別の登山道は無い。) 屈斜路湖の展望台、藻琴山へ この日は、もうひとつの目標があった。昨日通って来た東藻琴への道を約70kmも逆戻りして、屈斜路湖の眺めが素晴らしいという藻琴山(もことやま)に登ってみたかったのだ。 それは屈斜路湖から芝桜で有名な東藻琴へ抜ける途中の峠にある、ハイランド小清水725という展望台から、約1時間(距離2km)で登れる、標高ジャスト1,000mの山だ。 しかし、山の天気は気まぐれだ。雄阿寒岳では快晴で、ふもとの屈斜路湖もきれいに晴れていたのに、藻琴山の山頂部は、ハイランド小清水の位置から上が、すっかり雲の中であった。1時間弱かけて登った頂上では、見事に何も見えなかった。しかし、日本列島で一番遅く咲く桜であるチシマザクラをはじめ、花がとても多い山道をそれなりに楽しめた。 雄阿寒岳と藻琴山を登頂して、汗だらけ、くたくたになった身体は、屈斜路湖畔にあるコタン温泉共同浴場で、さっぱりとさせる。その後、再び阿寒湖畔を通過して、足寄〜池田〜大樹を通過して、日高の浦河まで、長距離ドライブだ。 翌日の目的は、襟裳岬の近く、花の名所、アポイ岳の登頂だったが、浦河のホテルに投宿後、どっと疲れが出て、翌朝も身体がすっかりバテていたので、完全休養日とした。そして、その翌日のハイライトである富良野岳登頂のために、英気を養う。■
雄阿寒岳・藻琴山 行程 6月17日(金曜日) 阿寒湖畔温泉 5:30 === 5:40 雄阿寒岳登山口駐車場 6:05 --- 6:40 一合目 --- 7:45 四合目 --- 8:20 五合目 --- 8:42 七合目 --- 8:50 八合目 --- 9:05 雄阿寒岳頂上(1,371m) 9:25 --- 9:45 五合目 --- 11:20 登山口帰着 登山口 11:25 === 弟子屈 === 12:35 ハイランド小清水725 12:40 --- 13:25 藻琴山 13:40 --- 14:05 ハイランド小清水駐車場 14:10 === 14:45 コタン温泉共同浴場 15:10 === 阿寒湖 〜 足寄国道 === 16:50 足寄温泉 17:25 === 池田 === 大樹 === R236 === 20:10 浦河、ホテル浦河イン宿泊 (この日のレンタカー走行距離 390km) |
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