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Data No. 197


Data: 
白砂山(しらすなやま)
 登頂日: 2011年7月16日
 地域: 群馬・新潟・長野県境
 標高: 2,140m
 天候: 快晴
 同行者: 単独行 


上信越最奥の山
 

白砂山

 



人知れぬ辺境の名山

  白砂山(しらすなやま)は、上信越高原国立公園内にあり、群馬・新潟・長野が県境を接する位置にある。しかし、その姿を見たことのある人は、あまり居ないのではないだろうか。だって、人里からはほとんど見えない山なのだ。登山口の野反湖周囲からでも絶対に見えない。上信越の2,000m級の山々の、そのまた奥の奥に位置し、周囲の山々と共に、平家の落人の里「秋山郷」を数百年間に渡って外部から護ってきた山である。

  私自身は、上越国境や信越の山を登っても、この山を視認したことが無かった。ようやく昨年、すぐそばの花の名所である八間山(はちけんざん)を登頂したときに初めて、この白砂山の姿を視認した。

  故郷新潟県とも接している山なので、いつかは登ってみたいと思っていたが、案内を読むと、なんだか鬱陶しそうで、ずいぶん後回しになってしまったものだ。

  晴天の約束された、海の日の3連休初日、野反湖からこの山を目指す。さすがに連休初日のためか、私が車中で夜を明かした駐車場内には、白砂山を目指すのであろうハイカーの車が10台くらい集まっていた。

             
                  今日のルートは、野反湖上部の登山口から右へ白砂山をピストン
 

幽玄な原生林の中をひたすら歩いて山頂へ

  
             駐車場そばが登山口                    登ったと思ったら、ハンノキ沢へ一旦下り、橋を渡る

  登山口には「クマに注意」との立て札があるが、今日は人も多いし、私はクマ鈴もしっかり付けている。さすがに、先月の北海道の無人の山を、ヒグマに怯えながら登ったときの緊張とは比べものにならない。

  出発点は、既に標高が約1,600mもある。だから2,140mの白砂山までは、せいぜい標高差500m強だから、楽だろうと思ったら、それは大いなる勘違いであり、大いなる落胆となった。白砂山までは登ったり下ったりが、何度も繰り返されるので、累積標高差は、決して1,000mは下るまい。また、標高差1,000mと言っても、ひたすら1,000m登り、それを一気に下山する山の方が、ずっと楽である筈だ。登山口からは一旦ゆるく登り、さっそく、すぐにハンノキ沢へ向けて、もったいないほどの下降となる。

  
      鬱陶しい樹林帯の中の登りが続く                秘境秋山郷への分岐点、平家の落人が通ったルートかも

  沢を渡ってからは本格的な樹林内の中の登りとなる。そしてしばらく行くと、秋山郷への分岐点となる「地蔵峠」に出る。秋山郷は人里であり、野反湖から流れる川の下流であるが、野反湖からの車道は無い。

  昔、平家の落人はどうやってユートピア秋山郷へたどり着いたのだろう。この地蔵峠から分岐する山道(当時は道さえ無かっただろうが)を延々とたどって行ったのだろうか。それとも、越後の津南側から川を遡って行ったのだろうか。そんなことを、そこはかとなく想像させる、静寂の、奥深い山道だ。

  それからは延々と見通しの利かない、鬱蒼とした樹林帯の中を登ってゆく。急斜面が少ない代わりに、ぬかるみがそこいら中に待ち構えている。晴天がしばらく続いていたというのに...。なるべく泥の中に入らないように注意しても、どうしても時々はべチャッと足がはまる。とても鬱陶しい。地形的には稜線を登っているようだが、全く遠望は無い。

  それでも辛抱して、我慢してひたすら先へ進む。やがて、背後の樹間に、ようやく草津白根山や、野反湖が姿を見せるようになった。

  
         草津白根火山(中央)と本白根山(左)が顔を見せる

        
                           野反湖の左上に草津温泉街が見える
       
  この登りは、自分の進んだ距離の目安となる道標も無くて、自分が一体どのくらい進んだかも分からない。秋山郷への分岐点から1時間半もかけて、ウンザリしながら登り着いたところが、標高2,051mの「堂岩山」だった。ここまで来て、初めて目指す白砂山が姿を見せた。すっくと頭をもたげたスマートな山だ。しかし全山緑に覆われていて、名前のように「白砂」が露出したり、甲斐駒ヶ岳のように白い花崗岩に覆われた姿ではない。名前の由来が気になるところだ。

    
                         堂岩山から、ようやく目指す白砂山が姿を見せる

  辛い登りだったが、目標が見えるとホッとする。しかし、そこからも、決して鼻歌交じりの稜線歩きではなかった。稜線にあるいくつかのピークを登ったり下ったりしなければならない。しかも地面を隠すほどの笹薮が鬱陶しくて、朝露に濡れているので、既に泥で汚れまくっている私の下半身を思いっきり濡らす。スパッツを装着しなかったのをひどく後悔する。

  そんな無聊を少しでも慰めてくれるのが、稜線に咲き乱れる花々だった。鮮やかな黄色のキスゲ、淡いピンクのハクサンフウロ、シャクナゲ、その他目立たぬ花々を入れたら数えきれないほどだ。

   
                                山道で出会った可憐な花々
   

  幾つものピークを息を切らしながら越えて、最後の白砂山本峰の長い登りを踏ん張り、ようやく標高2,139.7mの白砂山頂上にたどり着いたのは、登山口から3時間強の午前9:00ちょうどだった。先客は男性ひとりだけだった。

  周囲は見渡す限り山また山。人里は全く見えない山頂だった。それもそのはず、人里からは見えない山だから。

    
      歩いてきた堂岩山(右)から尾根続きに見える八間山(左)、奥は浅間山方面

        
                      一番奥には故郷の苗場山がクジラのようにどっしりと横たわる

  
  山頂で。泥と笹薮の露と汗で、思い切り汚れた!               秋山郷を守る鳥甲山(とりかぶとやま)

  下山時に、またあの起伏の多い稜線を歩くことを考えれば、悩みどころだったが、どうしても登頂祝のビールを飲みたかったので、プシューッと栓を開けた。もう最高の美味さ。故郷の苗場山が見えていることがうれしい。秋山郷の鳥甲山も尖っている。絶好の晴天に恵まれての山頂の憩いに、往路の辛さの記憶は、いっとき、すっかり吹き飛んだ。

  その後、単独行の男性ばかりが数人登ってきて、山座同定を皆で楽しむ。群馬の沼田市からやってきた熟年男性の話だと、沼田市郊外の高台からだと、この白砂山が見えるのだという。ひとりで悦に入る山頂も良いものだが、人と感動を分かち合えるのもまた楽しいものだ。
 

感動、しかしリピーターにはなれないか...

  さあ、それからの下山が思いっきり退屈で、疲れて、ウンザリだった。堂岩山までの稜線を再び登ったり下ったりを繰り返し、それだけでもバテるのに、堂岩山からの延々と続く、鬱蒼とした樹林帯の中の下山が、心底疲労感を募らせた。下山であるが、ぬかるみを避けたり、そろりそろりと歩いていると、登山時に比べても、それほど時間は短縮できない。

  正午過ぎに登山口にたどり着いた時には、へとへとで、もうこの山は二度と登るまいと思った。もう日当をもらっても登りたくないかな。こんなことを思った山は、私の40年近い山登り歴でも、そうは多くない。でも、考えてみれば、こんな人をウンザリさせる山道の奥だからこそ、平家の落人の住む秘境秋山郷が、数百年間にわたり、外敵から彼らを守り、戦国の世からも、封建時代の世の中からも、完全に縁を切っていられたのではないだろうか。そんな悠久の昔を、私に勝手に彷彿とさせる山旅ではあった。■

 

[ 白砂山登山行程 ]

2011年7月15日(金曜)
入間22:00 === 関越道渋川IC === 長野原 === 1:00 野反湖駐車場(車中仮眠)

2011年7月16日(土曜)
野反湖畔登山口 5:57 --- 6:10 ハンノキ沢 --- 6:30 地蔵峠(秋山郷分岐) --- 7:55 堂岩山(2,051m) --- 9:00 白砂山(2,139.7m) 9:35 --- 10:30 堂岩山 10:35 --- 11:40 地蔵峠(秋山郷分岐) 11:45 --- 12:00 ハンノキ沢 --- 12:15 登山口帰着 12:30 === 13:10 六合赤岩温泉入浴 14:00 === 長野原 === 嬬恋村 === 上田(別所温泉入浴後、市内の温泉付サウナ宿泊)  

翌日は菅平の根子岳を登頂



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