Data No. 144 |
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小蓮華山
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8月5日(木曜日) 20:35、小手指でMKさんとFKさんと待ち合わせ白馬を目指す。これまで関東から白馬村へは中央道経由が定番であったが、昨年開催された長野冬季五輪の為に、上信越道長野ICから白馬村に直結する便利な道路が出来た。今回はそのルートを辿ったら、本当に白馬村は近かった。 深夜0:20、白馬村の猿倉駐車場に到着。下界は猛暑の夏であるが、ここまで来れば車の窓を閉めたままでも何とか眠ることが出来た。明日の好天を祈り、ナイトキャップを楽しんで車中仮眠とする。 8月6日(金曜日) 5:50、支度を整えて登山開始。駐車場はかなり車の数が増えた。そして、夜が明けると路線バスや団体バスも到着する。私にとって今日の行程は2度目だ。猿倉からの林道歩き、そして白馬尻小屋を過ぎてから、軽アイゼンを装着しての大雪渓の登行も、昔来たときを思い出して懐かしい。しかし、昔よりも人の数が少なく感じたことと、大雪渓の幅が狭くなったような印象は正確な記憶なのかどうか、よく分からない。大雪渓の上には、特に左側の杓子岳から崩壊してきた土砂岩石の堆積が目立つ。 頭上は青空に白雲が泳ぐ。雪渓を渡る涼しい風のため大汗はかかない。大雪渓の登行中はゆっくりとドリンク休憩もとり、葱平(ねぶかっぴら)付近でもコーヒータイム。杓子岳の岩峰群が日本離れしたアルペンムードを見せる。そして緑の草原一面に咲く花が気持ちを和ませる。辛い登りの連続だが、案じていたような渋滞もなく、メンバー全員元気だ。 11:00過ぎ、後立山連峰の稜線、村営白馬宿舎に到達。稜線は白いガスにまかれていた。白馬岳山頂は全く見えない。そこから更に20分登って白馬山荘に到着。ここで玄関前に重いザックを下ろして、身軽になって山頂を目指す。11:50、約6時間の苦労が報われ、待望の白馬岳山頂(2,932m)に到着。ガスに覆われて景色は見えなかったが、何はともあれ嬉しい。景色を見るチャンスはまだまだある。猛暑の下界と違って冷たい風の吹く山頂であったが、のどはカラカラである。登頂祝いに持ってきたビールを分けて飲む。そして山荘に降りてから、ゆっくり昼食をとる。 山荘では、幸い大部屋ではなく、2.5畳分位に区切られた一角を与えられた。これならばある程度のプライバシーも保てて快適である。チェックイン直後は疲れを癒すために全員が少々横になった。しかし、いつしか目が覚めて、ふと窓外を見やるとすっかり青空が広がっているではないか。全員喜び勇んで山頂では見られなかったアルプスのパノラマ見物に外に出た。 白馬山頂も心地よい青空の下である。杓子岳から南に伸びる後立山連峰の稜線も、黒部渓谷を隔てた立山・剱岳方面も視界に飛び込んできた。晴れてはいても外はとても寒かった。山荘の付帯施設である「スカイプラザ白馬」にて生ビールを飲む。小ジョッキが一杯840円也。べらぼうに高い!しかし、アルプス一万尺の稜線で冷たい風に当たらずに、パノラマを眺めながら下界同様の飲食が出来るので大繁盛だ。 夕食後、夕日が見られるかと期待したが、再び稜線はガスにまかれた。ストーブのある自炊場で暖をとりながら寝酒にウィスキーをなめる。熟年男女のグループもやってきて、リーダーらしきオジさんが「白馬岳登山だから酒はホワイト・ホースに限るよ」と私に向かって赤ら顔で嬉しそうに笑う。なるほど、安い酒も立派に大義名分が立つものだ。 8月6日(金曜) 4:30、ご来光を拝むべく朝食をとらずに山荘を出発。再び白馬岳山頂を目指す。山頂はひどい混雑なので、山頂直下から東の空を凝視する。4:45、地平線に浮かぶ雲がオレンジ色に染まってきたものの、昇る太陽そのものは残念ながら見えなかった。 白馬岳山頂に再び立つ。驚くべき光景が待っていた。ふるさと越後の日本海岸を目で追っていたら、大海原に佐渡ヶ島が浮いている。そして能登半島までも見渡せる。思わず驚きの声を上げた。しかし、山頂のほとんどの人達は反対側の雲に覆われた内陸方面ばかり向いていて、佐渡や能登半島が見えていることに全く関心を示さないのには、これまた、私は驚いた。 いよいよ北へ向けて縦走を開始する。白馬山頂から岩稜を下ってゆくとほどなく長野、富山、新潟の県境となっている「三国境」。左へ進路を取ると北アルプスの稜線が一気に日本海に落ちる親不知海岸へ連なる新潟・富山県境の稜線である。右に進路を取ると小蓮華山、白馬大池を経て蓮華温泉に下ってゆく新潟・長野県境ルートになる。今回は右ルートを取る。 小蓮華山から白馬大池へ向かって下る ガレた稜線を緩やかに登り続けると、新潟県最高峰の小蓮華山(標高2,769m)山頂である。6:10に到着。ここに来たことは、他の誰よりも私にとっては感慨深い。山に登り始めて25年もの歳月が過ぎ、45歳にして初めて故郷新潟県の最高峰を踏んだ。しかし愛想の無い山頂である。「小蓮華山」という山頂標識はかすれていて、「蓮華」の文字は見えず、「山」の文字も底辺が消えているので、通り過ぎる登山者は「ああ、ここは小川(おがわ)というのか」とつぶやいて通り過ぎて行く。小川なんていう山の名前があるわけねえだろうに!大概の登山者は白馬岳が目当てで、こんなピークには関心を払わない。 それにつけても新潟県というのは、自身が持つ優れた自然環境の価値を知らない県である。県内最高峰の扱いがこんなではどうしようもない。私一人ぶつぶつ言いながらも、ようやく暖かい陽が射してきたので、ここでようやくコッヘルを取り出して朝食をとる。今日は気持ちの良い快晴である。 小蓮華山から白馬大池は指呼の内に見えていた。高山植物の花に囲まれた稜線を緩やかに下って行くと、その山上の湖の姿は次第に大きくなっていった。そして谷を隔てた稜線には豊富な残雪を抱いた雪倉岳がとても美しい姿を見せる。北アルプス南部の岩稜を剥き出しにした山とは異なり、角のとれた稜線と明るい緑の山腹に純白の残雪が目にまばゆい。今見えているあの稜線のこちら側全部は新潟県なのだ。故郷にこれほど美しい景色がありながら、この景色を見たことのある新潟県人はどれほどいるだろう。登山を嗜むごく一部の人しか見ていないに違いない。誠にもったいないことである。小蓮華を下って振り返ってみれば、これまたこの山も堂々とした山容で、朝日を浴びてとても美しい。 8:15、白馬大池の畔に到着し、改めて熱い料理を作ってゆっくりとブランチ休憩。山荘で冷たいビールも調達した。しかし、残念なことに、記念すべき新潟県最高峰の小蓮華山のバッヂは無かった。山上の湖を渡る風は爽やかである。そして限りなく静かだ。心地よい酒の酔いが下界の猛暑と喧騒を忘れさせてくれる。9:50までのんびりと過ごした。 この白馬大池を境にめっきりと登山者が減った。白馬登山を目指す人のかなり多くが大糸線白馬大池駅からこの池に達するルートを登下山に使っているらしく、ここから蓮華温泉に下るルートはあまりポピュラーではないらしい。 大いにがっかりの蓮華温泉 大池から蓮華温泉へはひたすら下るのみだ。下るにつれ樹木の背丈も高くなり、鬱陶しさが増した頃、待望の秘湯、蓮華温泉に到着。それでもまだ昼前の11:45だ。山を登っていると本当に一日が長い。 早速チェックインしたが、大きな二段ベッド部屋の窓側の畳3枚敷きの一角をもらえた。小ぢんまりした快適な一角であったが、窓を開けると便所の臭いがツンとくるのが難点である。長かった今日の行程をねぎらい、しばし休憩後、登山靴を再び履いて露天風呂巡りに出かける。 露天風呂は山荘からしばらく坂道を登った露地に点在している。一番高い所にあるのが「仙気ノ湯」で白濁した湯が木造の湯船にあふれている。FKさんと缶ビールを持参で入浴。二日間の山の汗を流して、湯に浸かりながら眺める雪倉岳の眺めが素晴らしい。貸切状態のこの露天風呂に、ひとりの中年男がやってきた。我々が入浴中も下る仕度をしている間も、もじもじとためらっているので、「どうぞご遠慮なく」と声をかけたら、ようやくパンツを下ろし、もじもじと浴槽に入った。我々は別の風呂に入るべく坂道を下り始めたら、さあ大変、女性のグループが登ってきた。でも、男性が入っているのを見れば諦めて(気を遣って)戻るだろうと思ったのが大違い。 下の別の浴槽で案じていたが、あのシャイな男性も女性のグループもどちらも下りてこない。あの男性は同性がいてもあんなに恥ずかしがったのだから、とても浴槽を出られないだろうに。こんな時には女性のほうが図々しいものだ。この二つ目の露天風呂「薬師ノ湯」でも中年夫婦が居たのだが、奥方の態度が鼻につくほどに図々しい。いかにも通ぶった態度が気に入らない。FKさんはこの風呂には入ろうとしなかったが、私は意地で入った。その夫婦とは口を利かなかった。もうひとつ最後に森の中の露天風呂に入って打ち止め。 蓮華温泉の夕食には思い切りがっかりした。便所の臭いのする大部屋泊で、一泊二食8,200円も払っての食事が、まるで稜線の山小屋と同レベル。車道が通じ、バスもマイカーも登ってくる場所にあるのに、貧弱なトンカツだけがおかずの超粗食だ。6,000円の民宿料理よりはるかに劣る。夏山シーズンなのに、「日本秘湯を守る会」の会員宿なのに、空いている理由が分かった。地元新潟県人は、この料金で、こんな貧弱な食事では絶対に二度と泊りに来ない。ここは海の幸、山の幸などは簡単に安価で入手できる筈である。工夫次第では、登山客以外に一般客だって充分に呼べる環境である。 食事に加えて、あの混浴露天風呂の運営の仕方も問題だ。野趣豊かなのは結構であるが、お互いに図々しい異性がのさばっていたら、とても入れたものではない。時間帯で男女を分けるとか、女性が遠慮無く入れるような覆いを設けた専用露天風呂くらい設ければ良いではないか。何だか本当に配慮の欠けた宿泊施設だ。その後、私もFKさんも入浴は館内の内風呂だけにした。露天にはもう行く気がしなかった。 ぶうぶう文句を垂れながらも山の目的を果たした充実感だけは捨てがたい。温泉で汗を流し、全身の衣服をさっぱりと着替えて布団に眠る感触は、やはり最高である。3人分の食料と水分を背負って二日間歩いたので肩はパンパンに張っていたが、温泉入浴で大分ほぐれたようだ。 8月8日(日曜) すがすがしい朝だった。朝風呂を楽しんだら、何だか満足してしまい、この際は粗食も許そう。早朝の蓮華温泉の上空には真っ青な空があった。雪倉岳も優しく朝日を浴びて我々を見下ろす。これから登山をしようというグループがラジオ体操をしている。 7:10の路線バスで大糸線平岩駅に下る。車内では山談義に花を咲かせる熟年男性の声が止まなかった。ほぼ満席のバスは途中の乗り降りは全く無く、ノンストップで8:05に平岩駅に到着。 平岩から大糸線に乗り、南小谷で再度乗り換え、白馬で下車。山談義に花を咲かせていたオジさん達と私一人がタクシー相乗りで猿倉に行き、車を取りに行き、白馬駅前で待つFKさんとMKさんを乗せて帰路につく。下界はウンザリする猛暑が続いていた。■
初めての白馬岳山行(1986年8月、白馬三山縦走〜不帰ノ険〜唐松岳縦走)は、こちら。
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