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Data No. 14

データ:
登頂日: 1986年8月9日
標高 2,932m
場所: 長野・富山県境 (北アルプス)
天候: 晴れ
登頂時の年齢: 32歳
同行者: KSさん

 

白馬岳

三山縦走〜唐松岳

 


憧れの白馬岳へ

8月8日(金曜)〜9日(土曜)

  金曜夜、八王子から23:21発急行アルプス53号指定席に乗車。土曜朝5:19、白馬に到着。駅前から出る猿倉行バスに乗車。天気は良さそうだ。バスは狭い山道を登り、30分程で標高1,230mの猿倉に着く。ここの猿倉荘という山小屋の前で朝食。バスが到着するたびに夥しい数の登山者が吐き出される。この白馬岳の人気は大したものだ。「白馬」という名前が女性にアピールするのか。

  7:50、出発。砂利道の車道を他の登山者と混じってぞろぞろと歩く。とにかく驚くべき人出だ。前を見ても後ろを見ても人の切れ目が殆ど無い。また山小屋の混雑が予想され、気を重くさせる。

  7:50、白馬尻小屋到着。此処からいよいよ有名な白馬大雪渓の登りにかかる。靴に四本爪のアイゼンを取り付ける。巨大な白い生き物のような大雪渓を挟んで、左に杓子岳の岩壁が、右に白馬岳の荒々しい東面が聳え立ち、時折ガスが雪渓を覆う。この大雪渓は標高差600m、延長2km、幅は広い処で100mもある。針ノ木雪渓、剣沢雪渓と並んでアルプス三大雪渓の一つに数えられる。雪渓の末端にある白馬尻付近から見ると、雪渓の厚みは10m程もあるように見える。

   
                 白馬岳大雪渓を登ってゆく。左手は杓子岳

  一歩一歩堅く締まった雪の上を登る。雪渓を吹き渡る風が爽やかで、きつい登りの割に汗は出ない。両側の険しい岩山の姿といい、氷河を歩くような雰囲気といい、青インクを流したような空の青さといい、ヨーロッパ・アルプスに居るようで私は嬉しかった。アイゼンはいくらか役に立つが、これだけ大勢の人が歩くと、踏み跡もしっかりあって、アイゼンは無くても不自由しない。その一列の踏み跡を切れ目無く人が登って行くので、前に足の遅い人が居たり立ち止まったりすると、たちまち渋滞が発生する。自分の後ろがつかえた場合、一歩横に避けて、道を譲るのがマナーなのだが、無頓着な人が多い。雪渓の登りは、終点が見えているのになかなか近付かない。雪渓上部の岩が露出している場所で20分休憩。雪渓で冷したジュースが渇いた喉を快く潤してくれる。左手の杓子岳岩壁からは時折カラカラと落石の音がする。脆そうな岩壁だ。

  雪渓の終点葱平(ねぶかっぴら)でアイゼンを外し、花が咲き乱れる草原の登りにかかる。葱平の上にも小雪渓が現れるが、此処は雪の上を避けて右側を巻いて通る。一番苦しい時である。KSさんもバテ気味なので、無理せず此処でも20分休憩。天気は良いし、今日は登り切った頂上の小屋へ辿り着くだけで良い。漸く村営頂上宿舎が見えた時は嬉しかった。宿舎前のベンチに11:35に到着すると、KSさんはへたり込んだ。今日泊る予定の白馬山荘はガスの切れ間から、もう一段高い所に見えている。

  白馬山荘の上には、右側をざっくりと抉り取られたような白馬岳の尖った山頂が見えている。左の富山側のなだらかさとは極めて対照的な姿である。KSさんを激励しながら最後の登りを20分。12:17に、待望の白馬山荘に到着。でかい山小屋だ。まるで学校のように木造の棟を横に長く連ね、山頂へ向かう道をブロックするように構えている。早速宿泊申し込みし、まだ誰も居ない大部屋に荷物を下ろす。これだけ大きな山小屋でも、山荘の人の話では今晩は畳一枚に3人程度の混雑になるだろうとのこと。山頂に立つのは後回しにして、混雑しない内に昼寝をする。夜行での睡眠不足と、登りの疲れでしばらく気持ち良く熟睡した。

         
            一夜を過ごした白馬山荘                    白馬岳山頂にて

感動の山頂

  目が覚めると周囲にはわんさと人が増えていた。時間は4時近い。良く眠って疲れが取れたので頂上に行ってみる。KSさんはまだ動きたくないと言うので一人で登る。山荘から15分程で、標高2,933mの白馬岳頂上に着いた。景色はガスの為、殆ど見えなかったが、信州側の絶壁と大雪渓は凄まじい迫力があった。「白馬」というロマンチックな名前であるが、元々は春先に山の斜面の雪がなだれ落ちて「黒い」馬の形が現れ、麓の農民がそれを苗代を作る時期の目安としたことから「苗代馬=代馬」と名付けたのを、いつしか「白馬」と変えてしまった。「しろうまだけ」と読むのが正しいにも関らず、山を命名した筈の麓の村人が勝手に地元の村を「はくばむら」と呼ぶようになったので、大半の登山者も白馬岳を「はくばだけ」と呼ぶのが非常に耳障りだ。

  頂上の一角には大きな石で作られた風景指示盤が置かれている。これは昭和16年に富士山の強力をしていた小宮山正氏が実際に担ぎ上げたという50貫(165kg)もある代物だ。こんな巨大な石を担いで登ってきたとは想像を絶する力持ちだ。しかし、小宮山氏はその無理が祟って病気になり、命を落としたのだという。この実話は、贔屓の作家新田次郎氏の小説「強力伝」で読んだ。いろいろと感慨にふけり、明日の晴天を願い山荘に下る。

  山荘の夕食は、チキンソテーがメインで、山小屋の食事としては今迄で最高かも。ご飯をたらふく食べた。食後は別棟の喫茶室でコーヒーとケーキを楽しみ、眠る前に仕上げとして冷たいビールを飲んだ。これで風呂でもあれば下界と変わらない。日が暮れると上空の雲が消え去り、夜空に満天の星が、手を伸ばせば届きそうに瞬きはじめた。どんな大都会のきらびやかな夜景よりも素晴らしく、神秘的な眺めだ。人工衛星か、夜間飛行の飛行機か、流れ星のようにゆっくりと、夜空をよぎって行くものがあった。
 

素晴らしいご来光とご来迎

8月10日(日曜日)

  窮屈さを避けて板の間に寝たのは大正解で良く眠れた。しかし、毎度のことながら3時頃から周囲がガサガサして眠れなくなる。自分が早く起きるのは勝手だが、まだ眠っている人のことなど彼らは全く考えない。遠慮無しに足音を響かせ、大声で会話を交わし、人の顔を懐中電灯で照らしやがる。怒鳴りたい程、立腹ものである。登山が大勢の人に楽しまれるのは良いことだし、山小屋が多少窮屈なのは我慢するが、肝心のマナーが伴っていないのは非常に残念なことだ。

  
              白馬岳山頂の御来光                       炭鉱夫?

  4:20起床。KSさんと御来光を見に頂上へ向かう。頂上は物凄い人出だ。我々のようにゆっくり出発しても充分間に合うのに、彼らは3時頃からガサガサ音を立てて人に迷惑をかけ、頂上で長時間寒さに震えているのだから世話が無い。5時丁度、東の雲海をオレンジ色に染めながら丸坊主の太陽が出てきた。顔がぽっと暖かくなる。いつ見ても荘厳な雰囲気だ。今日もまずまずの天気に恵まれそうだ。陽が昇ると共に、西の富山側の谷からガスが湧き出し、ボーッと丸い光の環が浮かび私の影がど真ん中に現れた。「ブロッケンの妖怪」である。私が大きく手を振ると妖怪も大きく手を振る。たった一人で太陽の反対側を向いて何をしているんだろうと不思議そうに見ていた他の人々も、漸くブロッケン現象に気が付き、私の真似を始めた。しかし、それも長くは続かなかった。
 

三山縦走〜不帰ノ険通過

  御来光と御来迎を楽しんで山荘に戻り、朝飯をたらふく食べ、6:30に白馬三山から唐松岳への縦走に出発。稜線は一時朝霧に覆われて視界が利かなくなったが、それも僅かで再び展望が戻る。振り返れば白馬岳の尖った山頂が、信州側に雲を抱え込んで天高く聳え、白馬山荘も既に小さい。起伏の少ない縦走路の両側には綺麗な花が一面に咲き誇る。一晩ぐっすり眠って元気を回復したKSさんは、大いに感激している様子で、盛んに私を呼び止め、「ほら、あれ凄い」、「ほら、あっちが凄く綺麗だ」と繰り返す。

   
 
                白馬岳を振り返る

                    
                                   白馬鑓ヶ岳を目指す

  杓子岳は山頂を通らず、水平な富山側の中腹を巻いて行く。行く手には白っぽい鑓ヶ岳がどっしり構えている。鑓ヶ岳は比較的穏やかな山容で、白い砂山という感じ。きつそうに見えたこの山の登りは、二日目で身体が慣れてきた為、楽に登った。鑓ヶ岳の頂上は標高2,903mで、杓子岳を挟んで白馬岳とほぼ肩を並べ、行く手には唐松岳へ続く稜線が坦々と延びる。黒部谷方面もいくらか視界が利いてきたが、立山・剣の山頂は姿を見せなかった。

  
           立山方面の眺め                 鑓温泉分岐からはしばらくなだらかな稜線歩き

  鑓ヶ岳を10分下ると、鑓温泉への分岐点。鑓温泉は標高2,100mの露天風呂があり気持ち良さそうだが、折角休暇をもらってきたので、予定通り、縦走路を歩く。分岐点を過ぎると登山者の数はめっきり減った。ようやく雑踏から開放され、のんびり歩けるようになった。ほどなく天狗山荘に到着。ここは近くに大きな雪田がある為、水には不自由しないと言う。水筒の水を補給して、コーヒータイム。コーヒーの苦さと甘さが疲れている身体に快くしみわたる。先はまだまだ長い。

  緩やかな稜線漫歩がしばらく続いた。しかしそんな稜線漫歩は、約一時間後に突然終わる。あれだけ緩やかだった稜線が何の予告も無く突然ガクンと切れ落ちる「天狗の大下り」にさしかかった。底部の不帰キレットを挟んで、今回の最大の難所である不帰ノ険が不気味な岩峰を天に突き上げている。一番不安で緊張した瞬間だ。

  天狗の大下りは所々に鎖が架けてあり、細かい岩屑の滑り易く歩きにくい斜面だった。一気に300mの高度差を下ると、最低鞍部不帰キレットである。ホッとするのも束の間、いよいよ不帰ノ険の岩登りが始まる。最初の不帰I峰は見かけほど恐くなかったが、II峰からが岩登りになる。初心者のKSさんが居るので、非常に心配した。私が先に立って10 歩進んでは待ち、また10歩進むというように慎重に行動し、KSさんも意外と恐がらずについて来た為、思ったよりもスムースに行動出来た。岩自体がかなり丈夫であり、手掛かり足掛かりも充分にあったのが幸いだった。場所によっては下手に鎖に頼らない方が身体が安定して楽だ。岩は登る時よりも、水平にトラバースするときの方が恐い。

     
              急峻な天狗の大下り                        不帰ノ険に突撃!

  最後の鎖場と梯子を登り切ると、やっと穏やかな稜線が現れてホッとした。誰もが此処で緊張が解けて休憩をとる。知らない人同士で、どちらからともなく声を掛け合い、不帰ノ険の無事通過を喜んだ。しかし、此処で唐松岳方面から来たトランシーバーを持った捜索隊員と出会う。聞くところによると、誰かが一人転落しているとのこと。KSさん一人だけが、途中で崖の下に白い帽子が落ちているのを気付いたらしい。そんな恐い話は不帰ノ険を通過前に聞かなくて本当に良かった。
 

ホッとした唐松岳から八方尾根を下山

  ガスに覆われて視界の利かないハイマツの稜線をひたすら我慢で登り続けると、突然目当ての唐松岳頂上(2,696m)に出た。思わず「やったあ!」と喜びの声が出る。頂上の直ぐ下で疲れてぐったりしている人に、此処が頂上だよと教える。山頂に到着すると、誰もが半信半疑で木製の「唐松岳」の立て札を覗き込む。そしてにっこりと微笑んでへたり込む。景色が見えなくても、もう良かった。ここまで頑張って歩いて来れた満足感で充分だった。

  唐松岳から少し下った唐松岳頂上山荘で飲んだビールは最高に旨かった。ガスが時々晴れると、黒々とした五竜岳が姿を見せる。素晴らしい貫禄の山で登高意欲をかきたてられるが、この続きはまたの機会にとっておこう。この日は此処の山荘に泊まっても良かったのだが、風呂に入ってゆっくり眠りたかったので、小屋の人に麓の八方の旅館を紹介してもらい、電話予約した。時間も充分にあるし、KSさんもあと二時間位下るのは平気だと言うので、早めに休憩を切り上げて出発。

  
        五竜岳が黒々とした姿を見せる          八方尾根から、緊張して通過した不帰ノ険を見る

  八方尾根の下りは楽だった。ガスが晴れると苦労して通過した不帰ノ険の稜線が彼方に見える。八方池迄下ると、ゴンドラでやって来た観光客の姿も目立つようになる。この付近からは、もう登山道と言うよりも遊歩道という感じ。観光客が大勢屯する八方池山荘のリフト乗り場に16:15到着。またビールを呷って、しばらく休憩し、長かった今日一日の縦走をしみじみと振り返る。何だか、こんなに苦労して登り、苦労して縦走してきたのに、リフトとゴンドラで一気に楽をして下ってしまうのが罪深いことに思えるほど。

  麓の八方に一気に下り。予約しておいた「丸北旅館」に投宿。山小屋と同じ料金で、遥かに豪華な夕食にありつけ、山小屋よりも遥かに安い値段で良く冷えたビールを飲み、お湯をザブザブ使い全身の汗を流して風呂に浸かり、ふかふかの布団に包まってぐっすりと眠れた。ここは天国だ。

  夜半、凄い音を立てて、雷鳴と共に、大雨が降った。

8月11日(月曜日)

  ゆっくり朝食をとり、バスで白馬駅に。駅前で土産物を物色し、大糸線で松本に出る。松本より特急あずさ12号自由席に乗り、夕方帰宅。■


ルート略図(筆者自筆)

二度目の白馬岳登頂(小蓮華山〜白馬大池〜蓮華温泉探訪)の記録は、こちら。

 

白馬岳登山行程

8月8日〜9日
八王子23:21 ==(急行アルプス53号)== 5:19白馬5:40 ==(バス)== 6:13猿倉(朝食)
猿倉(1250m) 7:00 --- 7:50 白馬尻 (1540m) 8:00 --(大雪渓)-- 9:45葱平 --- 11:35 村営頂上宿舎 12:00 --- 12:17 白馬山荘(2850m) 15:50 --- 16:03 白馬岳頂上(2933m) 16:15 --- 16:25白馬山荘

8月10日
5:00頂上で御来光見物 --- 白馬山荘 6:30 --- 7:00 丸山 --- 8:05 鑓ヶ岳(2903m) 8:20 --- 8:35鑓温泉分岐 --- 8:55 天狗山荘 9:20 --- 10:45 不帰キレット --- 不帰ノ険通過 --- 13:35 唐松岳(2696m) 13:55 --- 14:10 唐松岳頂上山荘 14:30 --- 16:15 八方池山荘(1900m) == (リフト、ゴンドラ) == 17:30 八方 (丸北旅館に宿泊)

8月11日
八方 9:30 ==(バス)== 9:35 白馬駅10:58 ==(大糸線)== 12:39 松本 13:34 ==(特急あずさ12号)== 15:53 八王子 ==八高線、西武== 17:30 入間、帰宅

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