Data No. 191 |
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伊豆大島、三原山 |
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伊豆大島は、昔から行ってみたかった。しかし最近主流の日帰りでは、せわしない。とはいえ、「おひとりさま」を受入れる宿は少なく、あってもかなりな割増料金をとられるものだ。ところが、大震災後の「自粛災害」で、観光地は、たいそう苦しかろう。ネットで、東海汽船が\15,800で、高速ジェット船で往復し、系列の大島温泉ホテルに二食付で泊れるパックを販売しているのを見かけた。そして、「1名様でも同料金、出発保証!」という文句に目が留まった。内容を見ると、悪くない。とってもオトク。 初めてお邪魔します、伊豆大島 そんなわけで、勇んで伊豆大島に乗り込んだ。高速船は途中浦賀水道付近で翼走を中断し、30分近く着水航行したので、定刻から15分遅れ、10:45に岡田港に到着。私の目指す三原山行の路線バスは、すぐに発車。乗客は、たったの3人。隣の島巡り観光バスも、2人しか乗っていない。あらあら、平日とはいえ、これでは本当に大変です。 目を見張る巨大なカルデラ火山 バスは椿のトンネルをくぐりぬけ、三原山へ向かってグングン登って行く。やがて樹木が低くなり、広大な溶岩台地が現れる。港のある海辺はすぐに山が迫った傾斜地で、人の住める平坦な場所は少ない。しかし、山の上は、ビックリするほど広大な平原だ。黒い溶岩が流れた痕も生々しい。1986年に全島避難を強いた山腹噴火の痕も、バスがしばし停止して見せてくれた。三原山の山頂は大きな南部鉄瓶のように聳える。 この火山島の外輪山の縁が、バスの終点「三原山頂口」だった。数軒の茶屋や土産物屋があるが、半分は閉鎖されている。開いている店も、客はいなくて、店内ではおばさんが退屈そう。三原山のバッジはないか、と訊ねたら、「もう10年以上前に扱うのを止めました」だって。11:20、三原山へ足を踏み出す。 地球の息吹を感じるハイキングコース ここから三原山を目指すには、一旦外輪山を下り、平坦な溶岩台地を渡り、そして内輪山を登り返す。山頂のお鉢までは観光客が歩きやすいように、道はきれいに舗装されている。今は山が鎮まって平穏だが、真っ黒な広大な溶岩流は、それが流れているときなんて、山が怒り狂って、全てのものを焼き尽くしてしまう真っ赤な悪魔の舌先であり、地獄の光景に違いない。でも、そんな光景を一度見てみたい、なんて思うのは不謹慎かしらん? 内輪山へは、ジグザグにつけられた舗装道を登る。登るにつれて、海の向うには伊豆半島と天城山が大きく見えてくる。内輪山の縁、三原神社と展望台まで、バス停から約40分だった。途中、5人とすれ違ったが、展望台は誰も居なかった。 展望台に上がると、噴火口を囲む内輪山が黒々と迫ってくる。そして、ところどころ、白い噴煙を上げている。しかし、意外と臭いはしない。阿蘇や草津と違って、有毒ガスは少ないのだろうか。 噴火口周囲のお鉢巡りコースをゆっくり歩く。内輪山の起伏を登ったり下ったりするのだが、最高点の三原新山の山頂には道が無く、巻いて通る。そして、その次に高いと思われる次のピークに登っても、山名の看板や標高の表示はどこにも無かった。ミーハーのわたくしとしては、山頂標識と一緒の写真が撮れず、ちょっと残念。 三原山の噴火口は、凄い迫力だ。ちっぽけな人間なんて、軽く吸い込んでしまわんとばかりに、巨大な、しかも深く壮絶な口をパックリとあけて、底までは完全に見えない。これは地球の呼吸口であり、たまった灼熱の内部エネルギーの吐き出し口なのか。内輪山の南側にも、驚くほど広大な平原が広がっている。しかし、ひとたび山が火を噴けば、人間達の営みを決して許す場所ではない。この三原山は、何という大きな火山だろう。所詮ここは「島」だと思っていたが、人間達が貼り付いて住んでいる海辺の狭いエリアなどは、この三原山という火山そのものの巨大さに比べて、あまりにも貧弱なものだ。というよりも、海辺の町や集落を含めた伊豆大島そのものが、ひとつの巨大な火山なのだ。 火口一周を終えて、展望台に戻るまで、誰にも会わなかった。展望台で、ようやく熟年夫婦連れを一組だけ見た。どこか風の当たらないところで腹ごしらえをしようと思ったが、風を避けられる場所がほとんど無い。コンクリート製展望台の建物の陰に入ったら、何とか風は避けられるが、便所の匂いがぷんぷんしていてダメ。 私はここから、バス停には戻らず、お鉢の縁から、北側に伸びる「裏砂漠ルート」を、「大島温泉ホテル」まで歩く。そこが今日の私のゴールなのだ。そのルートに向けて内輪山を下ってゆくと、ところどころにテーブル付きベンチがあった。風も当たらない。ここでようやくランチタイムとし、船の中で飲めなかったビールと紙パックワインをゆっくり飲む。目的地である彼方の温泉ホテルの建物以外、人工物は何も無い。ここは本当に日本の国なのか。見知らぬ遠い無人の惑星にひょっこり迷い込んでしまったような気分だ。 温泉満喫、食事も満喫! 広大な、平らな砂漠から草原をひたすら歩いて、午後2時過ぎに大島温泉ホテルに到着。フロントで聞いたら、もうチェックインOKとのことで、早速部屋でゆっくりさせてもらう。標高500mの宿は、まだ暖房を使っていた。部屋からも、温泉大浴場からも真正面に、歩いてきた三原山が見える。火山真っ只中の温泉だが、クセの無い湯で、匂いもほとんどしない。貸切り同然の露天風呂で、思い切りリラックスした。 露天風呂からは三原山が真正面に! 待望の夕食は、サクサクして美味しい明日葉(あしたば)のてんぷらと、魚のアラが入った為朝鍋の2種類が「食べ放題」だが、最初からたっぷり盛られていて、他にもキンメダイのしゃぶしゃぶや、煮魚、サザエのつぼ焼き等、おいしそうな料理が沢山あるので、お替りどころではない。地の焼酎「天上」のストレートをちびちびやりながら、夜の帳が降りてゆく三原山を眺めつつ、ゆっくりと島の夜、天上の晩餐を楽しむ。今宵の客は、私の他には、2組4人だけ。 「天上」のストレートはしっかり効いた。部屋に戻り、歯を磨いて布団に入り、テレビを消すのも忘れて爆睡。大震災後、一番ぐっすり眠った夜だった。 元町散歩して、温泉でリラックス 翌朝、ホテル周囲は濃いガスに閉ざされ、三原山は全く見えない。昨日、しっかりと三原山を堪能できたので、幸運だった。島の中心地である元町港は地形上、波と風の影響を受けやすいので、今日も船は岡田港とのことだが、午前10時にチェックアウト後、元町の火山博物館や温泉巡りをしたいという私ひとりだけのために、元町まで車で送っていただいた。私には大いにありがたいが、本当に客が少なくてもったいないことだ。人々が、早く「自粛」という呪縛から抜け出して、観光地を潤す世の中になって欲しい。既に、震災後の人出激減のため、被災地ではないのに、廃業する老舗旅館や観光業者が続出している。 元町も、連絡船が来ないせいもあるが、ゴーストタウンのように人影が少なかった。 火山博物館を1時間かけて、じっくり見学。昨日、その火の山をこの目で見てきただけに、とても興味深いものだった。 昼過ぎ、元町浜の湯の露天風呂も、私一人に貸切だった。ここは混浴で、水着を着用しなければならない(貸出しは無料だった)。また、洗い場も無い。仕上げは、そのすぐ近くにある御神火温泉センターで。ゆっくり入浴して身体をさっぱり洗った後、休憩室で昼食。観光客よりも、地元民の利用が多いようだ。この2箇所の温泉施設は、それぞれ400円、1,000円だが、温泉ホテルで、あらかじめ半額券を購入しておいたので、割安で楽しめた。 午後2時過ぎのバスで岡田港へ行き、15:20発のジェット船で帰京。帰路は極めて快調に翼走し、竹芝に定刻の17:05帰着。 あっという間の2日間だった。あ、そういえば、「あんこさん」の姿を、一度も見なかった。あんこさんも、観光客があまりにも少なくて、寂しい思いをしているんじゃないかな。私自身は、念願の伊豆大島を大いに楽しめた。観光客が少ないのは残念なことだが、逆に、こんな震災不景気で出た激安パックだからこそ、「ひとり旅」でも、割安に楽しめたし、歓迎してもらえたのだろう。やや複雑な心境です...。■
行程・旅程 4月26日(火曜) 4月27日(水曜) |
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