Data No. 186 |
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甲州 蛾ヶ岳 |
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「蛾ヶ岳」と書いて、「ががだけ」とは読まずに、「ひるがたけ」と読む。名前にはいくつか説があるらしいが、昔、武田信玄が、古府中(現甲府市)から眺めて、この山の頂上に太陽が来たときに、昼の合図の太鼓を打ったことから、昼ヶ岳と呼ばれ、それが中国の、形が似た山である蛾眉山の「蛾」に置き換わったのだとか。 手持ちの登山地図を探したが、富士五湖周辺の地図にも、甲府周辺の山地図にも、微妙に外れていて登山コースを探せない。従い、ネットでみつけた他人の案内記や地図を参考にさせてもらう。上記の由来の通り、甲府市の真南に位置し、富士五湖を取り巻く山の一部らしいが、今までは全く気に留めたことも無い山だ。でも、中央道や中央線を数百回も通っていれば、イヤでも視界に入っていた山のはず。 いろいろ調べると、言っては悪いが「凡山」である。しかし、日本アルプスを擁する山梨県でも、長野県でも、そんな凡山が、展望の良さを売り物に、結構ハイカーを集めている。日本全国どこにでも転がっていそうな、見栄えのしない凡山でも、甲府盆地の縁に位置しているだけで、アルプスの、富士山の、素晴らしい展望台になるものだ。登りも楽そうだし、天気もよさそうだし、私自身はかなり期待して、この凡山に出かけた。 ちょっとしたリゾート風 この山に登るには、麓の身延線の市川大門駅から歩く人も多いようだが、中腹の標高が580mを越えた四尾連湖(しびれこ)まではマイカーで登れる。私はもう、あまり気張らずに山を楽しむ人生にしようとしているので、あるものは利用させてもらう。四尾連湖へ登る道は予想していたよりもずっと良い道で、かなり登ったところにも突然集落が現れたりして、驚いた。 車道を上り詰めたところが、四尾連湖畔の駐車場だ。湖畔には2軒の宿があり、貸しボートやキャンプ場の営業も行っている。静かな森に囲まれた、雰囲気の良いリゾート風だ。駐車場は有料で400円払う。早朝7時過ぎで、係員が居ないので、水明荘という宿に、バッジを購入がてら立ち寄り、駐車代のレシートをもらい、マイカーのダッシュボードに置いてから、山を目指す。駐車料金を払うと、レシートの他に、蛾ヶ岳の登山コースと山頂からの展望(見える山の名前)を示した簡単な地図をくれるのがうれしいサービスだ。 素晴らしい登山道 この山の登山道は、実に素晴らしい。岩や木の根っこのデコボコが、ほとんど無い。よいしょと大きく足を持ち上げなければならない大きな段差もほとんど無い。傾斜はあっても、ほとんどスリ足で歩ける。かといって滑りやすい地面でもない。乾いた枯葉をさくさくと踏みしめて登って行く。 登山口から、「大畠山」という地点までは雑木林の斜面をジグザグに登る。ちっとも山の頂上らしくない大畠山から右へ進路を取ると、起伏の少ない道をしばらく歩く。本当に素晴らしく歩きやすい道だ。小さな山と山の、やせた鞍部には、まるで人工的に作った橋のような平坦な道が設けられている。その鞍部の両側も、至極平坦で、鼻唄交じりで歩ける道だ。 道は後半になって一箇所だけ、丸太の橋で沢を渡るところがあるが、それ以外は、手で木の根や岩を掴んで登るようなところは一切無かった。やがて「西肩峠」というところで、V字ターンをして、山頂へのやや急な登りになるが、それも15分足らず。蛾ヶ岳の1,279mの山頂は、標準コースタイムでも90分でたどり着く。 展望は百点満点! 山頂に着いた途端、真っ先に目に飛び込んだものは、大きな逆光の富士山だった。山頂部は僅かに雪化粧していた。その右側には、少し前に登頂した毛無山が見える。そして、回れ右をすると、広い甲府盆地を取り囲む山々がきれいに見渡せる。南アルプスの3,000m峰は、むしろ富士山よりも白く雪化粧している。霞の海の上には八ヶ岳連峰、茅ヶ岳が浮かび、甲府の街の背後には、黒々とした奥秩父山塊が、どっしりとした存在感を誇示する。足元には、秋色に彩られた森の中に四尾連湖が紺碧の瞳のように佇む。 山頂には、男性の先客がひとりだけ。その後、中年夫婦がやってきたが、10分もしないうちに、山頂はまたまた私一人だけの貸切になった。この秋に登った山は、例外なく、その日本晴れのいただきでのひとときを、私一人に貸切にしてくれる。 下山後に四尾連湖畔の駐車場係員から聞いた話だが、山頂での展望が得られるように、毎年伸びた樹木や枝を刈り払いをしているのだとのこと。そういえば、麓から撮影した蛾ヶ岳の写真(上部に掲載)では、樹木に全山覆われた山の山頂部分だけ、少し隙間が見える。そうであろう。そうでもしなければ、景色が何も見えなかったら、この山は、誰も関心を示さない、まさしくただの凡山に甘んじてしまうだろう。 貸切の山頂で、思い切りゆっくりした。周囲の山々を飽くことなく眺めながら、持参したおにぎり、ポテトチップス、チキンカツ、缶ビール、緑茶を広げて、いつものように、ひとり宴会を楽しむ。毛無山では富士山を向いていただいたが、今回は、大好きな八ヶ岳を向いていただこう。 ここから見渡すことのできる、めぼしい山の頂には、ほとんど自分の足で立った。ひとつひとつの山のいただきを眺めながら、そのいただきに立ったときの情景や感動を、じっくりとかみしめる。 そんなタイムスリップの世界から抜け出したのは、後ろから「こんにちは」と、山頂に到着した男性から声をかけられたときだった。もう、1時間近くが経過していた。素晴らしい凡山よ、素晴らしい貸切り時間をありがとう。■
蛾ヶ岳行程 2010年11月5日(金曜)〜6日(土曜) |
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