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Data No. 178


Data: 
登頂日: 2010年5月1日
地域: 埼玉県秩父
標高: 626.5m
天候: 快晴
同行者: 単独行


秩父 破風山
 


春らんまんの山里から

  GWの5連休初日だった。さぞかし熟年登山者で混み合うだろうと覚悟はしていた。案の定、飯能を過ぎてからの国道299号線は秩父の芝桜見物を目当てのマイカーが列をなしていたが、早朝に出発したおかげで、渋滞だけは避けられた。横瀬からは勝手知ったる裏道を利用して秩父市内の通過を避け、皆野町で荒川を渡り、破風山(はっぷざん)のハイキングコースのひとつである風戸(ふっと)コースの入口、秩父満願の湯の温泉スタンドに、8:20に到着。

  温泉スタンドの係員に、どこか車を停めて良い場所はないかと尋ねたら、登山口直ぐ傍の従業員用の駐車場に特別に停めて良いとの、ありがたいお言葉。下山後は、必ず満願の湯にお世話になります!

  
    秩父満願の湯、温泉スタンド傍から山道に入る                  春の花が咲く山道

  良く晴れて、各所に花が咲く山里は、春らんまんで、うららかだ。「破風山」の標識に導かれて、登山道へ入る。空気もカラリと乾いているので、登りも快適だ。この季節はまだ、樹林帯も下草も、鬱蒼としていないのがうれしい。しかし「熊に注意」という立て看板が、ドキリとさせる。あれ〜、こんなところでも熊が、やっぱりいるのか...。

  
                      春の花が咲き乱れる山間の風戸集落、そして静かな新緑の森
  

  しばし登って行くと、一旦車道に合流して、風戸(ふっと)集落を通過する。こんな山奥でも、しっかりと人間の営みがある。昔は豪雪地帯の私の郷里でも、山奥にいくつも集落があり、自給自足の生活を営んでいたが、今はほとんどが消えてしまった。大雪の降らない埼玉の山奥は、まだ集落を維持できるのだろうか。俗世間から縁を切ったように、陽だまりの中で、春の花に彩られて、集落はひっそりと佇んでいた。老婆が音もたてず、のんびりと畑仕事をしていた。

  やがて再び山道を歩くようになり、尾根筋をひたすら登ってゆく。山の斜面を、山桜や黄色のヤマブキが鮮やかに彩る。しかし、今日は誰にも会わない。静かな静かな登行だった。左手には、秩父盆地を隔てて、武甲山や奥武蔵の山々が対等の位置にせり上がってくる。
 

展望を独占の破風山頂上

  破風山山頂(標高626.5m)には、登山口から1時間で到着した。単独行の男性がひとりだけ居た。山頂からは秩父盆地と奥武蔵の山々が、きれいに見渡せる。山ツツジも咲いていた。しっとりと汗ばんだ身体に爽風が心地良い。この山はハイキングのターゲットとして人気は無いのか、人が少ない。しかし、低山とはいえ、展望はなかなかのもの。

            
                          秩父盆地と武甲山(右側)の展望

  山頂にひとりだけいた40代位の男性は、話し好きで、地元秩父の人だという。こんな晴天に恵まれた連休に、山頂を貸切同然で楽しめるなんて、ラッキーだ。他の山へ行けば、ウンザリするほど人だらけだろうに、と喜んでいる。もう子供は一緒に遊んでくれないから、いつも一人で山に来ているんだと。でも、まだ山はキャリアが浅いのか、私が付近の宝登山、蓑山、丸山、武甲山などを登ったとか、今日渋滞を避けて来たルートなどを説明すると、「えっ、なんで入間の人がそんなに知っているの?」とキョトンとされた。すみません、もうかなり良いトシをこいているものですから、キャリアだけは長いんです。

  
           破風山頂上にて                          あんな山の中腹にも集落が見える

      
                             山を彩る春の花

  いろいろと彼から話しかけられ続けたもので、持参のおにぎりをなかなか食べられなかった。ましてや、楽しみにしていた、ささやかな缶ビール1本も、彼が立ち去るまで、出すのをはばかった。
 

水潜寺経由の回遊コースを下山

  やがて、彼は私が登ってきた道を下っていった。私は一人になってから、秩父盆地を見下ろしながら、ゆっくりと缶ビールを開けて、おつまみ、おにぎりを楽しむ。そして、彼が登りに使ったという、札立峠〜水潜寺(すいせんじ)経由の道を下ることにする。

  
       可愛らしい水潜寺の道標                      静寂の中に佇む三十四番札所、水潜寺

  下山に使った道は、札立峠からは「札所三十四番コース」という谷間の清流に沿った巡礼道だった。このルートでも、ほとんど他のハイカーには出会わなかった。三十四番札所、水潜寺も、全くひと気がなく、眠ったような静けさの中に鎮座していた。宗教心の薄い私には、札所巡りには関心は無いが、それでも道中で出会う神社仏閣は、むげに素通りはできない。今日の晴天に感謝し、世界の平和を祈願する。

           
                       もう誰も通ってこない谷間の廃校

  水潜寺からは川沿いの車道を歩いて下る。もうマイカーも行き来できる舗装道路で、民家も点在する。しかし、途中、のどかな川の傍にあった立派な学校の建物は、廃校だった。人はどんどん都会に出て行き、農村は寂れてゆく。これからの日本は、人口が急激に減ってゆく。高度成長を支えてきた団塊の世代も、一気に定年退職の時代だ。日本はこのままで良いのかな、あの元気だった日本は、将来甦ることはあるのかな、なあんて、ちょっとセンチメンタルな気持で、秩父の山里をあとにする。■


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