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Data No. 176

 データ:
 登頂日: 2009年8月23日
 標高: 2,909m
 場所: 長野・岐阜県境 北アルプス
 天候: 快晴
 登頂時の年齢: 55歳
 同行者: 単独行

 

 西穂高岳

 



【久し振りの一万尺へ】

  西穂高岳は、何年も前から登頂を狙っていた山であり、実際登るつもりで車を走らせたこともあった。しかし、翌日の天気予報が芳しくなく、急遽行先を変更したりして、実現していなかった。今年こそ、と思っていたこの夏は思い切り天候不順だったが、8月も下旬になって、ようやく晴天の週末となる予報が出て、勇んでマイカーで出発。

  8月22日夜、新穂高温泉第二ロープウェイ乗場の駐車場に到着。しかし、この施設は大減点。広大な駐車場周囲に、トイレが無い。ゴンドラ駅は翌朝の運転開始ギリギリ前まで閉鎖で、駅舎外や園地内にもトイレが無い。やっとゴンドラ始発の20分前に駅の扉が開き、数百人の客が、短時間に出札窓口で行列し、トイレで行列し、乗場で行列し、あまりにも余裕の無い朝を強いられた。トイレは、人間の集う場所では絶対不可欠の、最も基本的な設備の筈だ。管理者に強く抗議する。

  そんなわけで、釈然としない気持で7:15の始発ゴンドラに乗車。2階建ての巨大ゴンドラは、満員の客を乗せて、1,308mのしらかば平から、2,156mの西穂高口駅まで、7分間で一気に登りつめる。そして、ムカついた気持を一気に解消させる素晴らしい山岳展望が展開した。

  
                 始発のゴンドラで西穂高口へ上る                         スマートな笠ヶ岳
 

  ゴンドラの右手には、荒々しい焼岳が、左手には西穂高から槍ヶ岳への一万尺の岩稜が、そして背後には北アルプスの孤峰、笠ヶ岳が天を突き刺すように、朝日に映える。登山客に混じって、関西訛りの観光客が大きな感嘆の声を張り上げる。登山をしない人にだって、目を見張る大パノラマだ。

  私自身にも久し振りの北アルプス探訪であった。快晴に恵まれて、大いに張り切って、ゴンドラの山頂駅から登山道に向かう。

【岩稜歩きの末、バテバテで西穂山頂へ】

  ゴンドラ駅を7:35出発。観光客用の遊歩道を離れて、西穂高への登山道をたどる。ゴンドラ駅からは至近距離に見えていた西穂山荘へは、一旦樹林帯の中をぐんぐん下り、かなりの登り返しを強いられた。乾いた空気の中の登山で爽快であったが、この日の登山は、私にはかなり辛かった。というのも、春にストレス目一杯の職場を辞してから、大分体重が増えた。具体的に言うと、トシをとった上に、ビールのロング缶10本以上を余分に背負って歩くようなもの。

  数年前まで、山歩きでは、意識せずとも、老若問わず女性に追い越されたことなど決して無かったが、この日は若い女性を含んだパーティに、幾つか追い越された。私には対抗心も無いし、自分が納得できるペースで山頂を目指すのみ。しかし、一旦先に行かせたパーティを、彼らの休憩中に私が再び追い越してしまい、その後でまた彼らがガツガツと追いつく。幾度もそんなことが繰り返され、何だか鬱陶しくて、疲労感を募らせる。体力があるのなら、休憩ばかりせずに、さっさと先に行って欲しいものだ。

      居心地良さそうな西穂山荘

  西穂山荘(8:25〜8:35休憩)は立派なログハウス風建物で、足元には緑深き上高地と霞沢岳、その奥には南・中央アルプスや八ヶ岳の素晴らしい展望が広がる。木造のテラスも居心地が良さそうだ。ここは下山後にゆっくりしよう。

       
                  これから登る西穂高岳の稜線。緑の山の次が独標、中央がピラミッドピーク、左端が西穂高山頂

  西穂山荘からは緑のハイマツ帯の中を登ってゆく。直ぐにたどり着いた丸山からは、独標へ続く緑の斜面が登りごたえがありそうだ。小股歩きで着実に高度を稼いで行く。

  独標までは、足だけで登れた。手を使うことはほとんど無かった。私のイメージでは、「独標」(2,702m)は、かなり際立った岩峰だったが、そこから西穂高山頂方面には、もっとずっと高い峰々が幾つも控えていた。西穂の山頂を目指すには、両手両足を使って、独標の岩峰を一旦下る。独標からは、初歩的なロッククライミングの技術が必要な登山になる。従って、独標迄で引き換えす登山者も多い。

   岩稜を幾つも越えて西穂を目指す

 歩いた稜線、焼岳、乗鞍岳を振り返る 

   山頂へもう一ふんばり!

  何はともあれ百名山を踏破した自分にとって、西穂山頂までの岩稜歩きは決して怖いものでも危険なものでもなかったが、非常にバテた。足だけで登るにも、岩場で三点確保で登り下りするにも、身体の重さが大いなる負担であった。独標から西穂山頂までの1時間余りの岩稜歩きは、その数倍に感じた。

  ゴンドラ山頂駅から3時間10分をかけて、バテバテでたどり着いた西穂高岳(標高2,909m)からの眺望は、それまでの辛さを一気に忘れさせてくれた。遠景の素晴らしさは言うに及ばず、ジャンダルムを経て奥穂高へ続く岩の殿堂の迫力が度肝を抜く。奥穂高の山頂には大勢の人が見える。3,190mの奥穂高は、ここより標高が300m近く高いのだが、その標高差とボリュームの差は、圧倒的に大きい。この西穂高岳なんて、大親分に寄り添うチンピラ子分のようなもの。その稜線の左奥に聳える槍ヶ岳の鋭鋒は、そんな背比べをせせら笑うように天を突いている。

   
                                    ジャンダルム、奥穂高岳から吊尾根を経て前穂高岳(右)

   
                                                              天を突く槍ヶ岳

  穂高岳は本当に日本では無比の岩山だと改めて実感する。標高を凌ぐ南アルプスの北岳は、岩の迫力ではどうしても穂高に劣る。穂高岳は、日本で私が一番好きな山である。

  穂高岳主峰に遮られて、北の視界は利かないが、今日の山頂は他の方角には見えざるものは無し。深い谷を隔てた笠ヶ岳のずっと奥には加賀の白山が聳え、南には焼岳、乗鞍、木曽御岳、そして八ヶ岳と南アルプスの奥に富士山の三角錐が際立つ。足元には梓川の流れと上高地の緑の森が目にまばゆい。

   焼岳と大正池、そして乗鞍岳

        
                西穂高岳山頂にて(背景は笠ヶ岳)         圧倒的なジャンダルムから奥穂の岩稜、左は涸沢岳

  こんな素晴らしい展望の山頂では是非ともゆっくりしたいものだが、下山には幾つもの厳しい岩稜のアップダウンが待っている。従って、缶ビールはここでは開けずに、ペットボトルのお茶だけで我慢する。

  下りもバテバテで岩稜を越え、両手を使う必要の無くなった独標の下へ降りて、軍手を外し、ようやく缶ビールを開けた。おつまみのピリカラせんべいと共に、五臓六腑にしみわたる美味だった。

  上空には、朝よりもずっと青空が広がった。登山は、やはり晴天下が一番だ。もう今後の自分の人生では、雨や嵐の中の登山なんてする気は全く無い。トシをとって、身体も重たくなってしまった自分を反省し、日本で一番大好きな穂高岳を実際に登り、また眺められる山行を末永く続けられるよう、また体力維持とシェープアップに励もうと、晩夏の爽やかな陽光の下で、ほろ酔い気分でしみじみと想う。■

 

西穂高岳登山行程:

2009年8月23日(日曜)
新穂高第二ロープウェイ(しらかば平)始発便7:15 === 7:23山頂駅(2,156m、西穂高口)7:35 ----- 8:25西穂山荘8:35 ---- 9:35 西穂独標(2,702m) ----10:00 ピラミッドピーク ---- 10:40 西穂高岳(2,909m) 10:55 --- 11:35 ピラミッドピーク --- 12:00 独標 12:05 --- 12:10 大休止 12:30 --- 13:10 西穂山荘 13:45 ---- 14:35 山頂駅 14:45 ==== 14:55 しらかば平帰着



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