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Data No. 168

Data: 
登頂日: 2008年6月22日
地域: 青森県、白神山地
標高: 1,235m
天候: 快晴
登頂時年齢: 54歳
同行者: 単独行

 

みちのく 白神岳

世界遺産のブナ原生林に憩う



梅雨の季節、乾いた北東北

  東京では雨がしとしと降っている梅雨時の週末、八戸行東北新幹線に乗り、弘前へ赴く。もちろん期間限定のジジババ専用の激安フリー切符を使ってである。JRが盛んにPRするので、会員が増えて最近はずいぶん列車が混雑するようになった。

  北国は梅雨前線の影響を受けず、良く晴れていた。そして、空気も乾いていた。

  白神山地は青森県と秋田県にまたがる、日本海に面した標高1,235mの白神岳を主峰とした山々が寄り添う山地で、美しいブナの原生林とその貴重な自然で、世界遺産に指定されている。遠くから眺めても、決して形が目立ったり、その姿で自己主張をするような顕著な峰があるわけでもない。どこにでもある平凡な形の山々の寄せ集まりである。従って、その魅力をさぐるには、実際に自分の足でその山地に踏み込むしかない。

  6月22日、早朝4時に弘前をレンタカーで出発し、午前6時、深浦町黒崎登山口駐車場に到着。先客は7〜8台の乗用車だけで、快晴の日曜の割には人出は多くない。と思って支度を始めたら数十人の団体ハイカーが乗ったバスが到着したので、急いで出発する。


世界遺産の山の主峰を目指す

  駐車場から先の舗装された道はゲートがあって、車が進入できないようになっている。登山口はゲートから約5分歩いた場所にあった。登山道は良く整備されていて、要所には木製の階段などが設けられていて、ぬかるみの少ないのが有難い。山麓付近から、関東周辺の山々と違って、杉などの針葉樹林ではなく、明るい緑の広葉樹林帯の中を歩く。標高のまだ低い場所では、ブナよりもヒバ(ヒノキアスナロ)が多い。

   
          白神岳黒崎登山口                             明るい緑の森の中を登ってゆく

  早朝の新緑の森の中は、小鳥のさえずりが賑やかだ。ヒグラシのようや鳴き声の鳥、ウグイス、そのほか、幾種類もの小鳥たちが合唱する。初夏の新緑の季節を謳歌しているのだろうか、近所同士のお目覚めの挨拶なのだろうか、それとも求愛の声なのか、あるいはエサのありかの情報交換なのか、空気の澄んだ森の中で、他には何の雑音も無く、驚くほどクリアなさえずりの声だ。ヒーリング用に小鳥の鳴き声のCDが売られているが、きっとこんな環境で録音したのではないだろうか。

  しかし現実問題として、山の登りは苦しい。しかも、風の全く吹き通らない山の斜面を登って行くので、北国とはいえ、汗が吹き出る。道は良く整備されていて危険箇所は無いが、登山口から山頂までの標高差1,000m以上は、やはり相当な汗をしぼりとる。

   
           美しい原生林                              日本海を見下ろす

  
途中で沢沿いの直登ルートとマテ山経由ルートが分かれる二股分岐に出るが、ガイドブック推奨のマテ山経由ルートに入る。そこからも、ひたすら広葉樹林帯の中を登る。「最後の水場」という標識のところで、しっかりと水分補給しておこう。「最後の水場」を過ぎると山道の傾斜が増してくる。マテ山分岐地点までの急登が一番辛かっただろうか。それも明るいブナの原生林、小鳥のさえずり、そして上空の青い空が癒してくれた。時折樹林帯が途切れると、深浦町の日本海の海岸線が見えてくる。

  マテ山分岐からしばらくすると、森林限界を越して、山頂稜線が見えてくる。そして行く手には山頂に立つ三角屋根の避難小屋が現れる。稜線に出ると、そよ風が火照った身体を冷ましてくれる。

   
        下界は雲海が広がる                         山頂稜線から白神岳山頂(右)を見る

   
               森林限界を越すと、高山植物の花が出迎えてくれる

  起伏の緩やかな山頂稜線を辿り、午前8:45に、待望の白神岳山頂(標高1,235m)に到着した。約3時間弱の登行。先客は同年輩の男性二人のみ。やがて2人は山頂を去り、しばし白神岳山頂は私一人に貸切となる。北東側の下界には墨絵のような雲海が広がり、山々が入り江の小島のよう。西の日本海側はカラリとよく晴れている。景色を堪能しながら、避難小屋前のベンチで、登る途中はそればかりを楽しみにしていた良く冷えた缶ビールを呷りながらカレーパンの朝食をとる。こんなとき、とにかくビールは最高に旨い。

  周囲に高い山は無い。岩木山の三角錐がボウッと霞の中に浮かぶ。耳鳴りがするほどの静けさの中で、初夏の陽だまりの中に眠るような山頂のひとときを楽しんだ。

   
         白神岳山頂にて                           明るい山頂稜線を振り返る

  ちらほらと、途中で追い越した人々が山頂に到着しだし、山頂貸切時間が過ぎたのを機に、下山にかかる。途中、バスで着いた数十人の団体などともすれ違い、早起きは三文の徳を実感する。大都会からは遠く離れた白神山地なので、ウンザリするほど大勢の人は来ない。やがて、静かな下山道中となった。早朝に登る途中は、あれほど賑やかだった小鳥たちのさえずりは、陽が高くなるとすっかり静かになっていた。彼らは陽だまりの中に、昼寝をむさぼっているのだろうか。天敵のいない平和な白神山地のけだるい怠惰な緑の森の中で、静かに静かに時が過ぎてゆく。

   
      眠ったように静かな下山時の森                 海に面した不老不死温泉露天風呂


地の果ての、めでたい湯に浸かる

  下山後は、海沿いを北に戻り、かねてから立寄りを決意していた、黄金崎「不老不死温泉」で山の汗を流す。もちろん宿舎内に内風呂も有るが、海に面した露天風呂が売りものの温泉である。濃い鉄さび色で、塩辛い湯が少し日焼けした肌にぴりぴりと刺激を与える。「不老不死」という名前を聞いただけで一度は行ってみたくなるし、入浴後は、縁起の良い名前にあやかって、妙に満足してしまうものである。でも、こんな名前の温泉が都会の近辺にあったら、押すな押すなの大繁盛かも。

  りんご畑の中をドライブして弘前に戻り、レンタカーを返し、列車の中でひとりつつましく祝杯をあげる。■



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