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Data No. 125

 データ:
 登頂日: 1993年10月9日
 標高: 1,585.5m
 場所: 新潟・福島県境
 天候: 快晴
 登頂時の年齢: 39歳
 同行者: 単独行

 

越後 浅草岳

 



【奥越後の知られざる名峰】

  以前、尾瀬の帰りに田子倉湖の遊覧船から、浅草岳(あさくさだけ)を見た。眩しいばかりの緑に山腹を包まれて、こんもりとした穏やかな浅草岳と、対照的に鋸の歯のような岩壁をむき出しにした鬼ヶ面(おにがつら)山が並ぶ姿に、非常に感動したものだった。

  この山は、中腹まで車道があるので、夜行せずとも、早朝に入間を出れば充分に山頂を日帰り往復できる。関越道小出ICから会津へ抜けるR252を経て入広瀬村に入り、途中から大白川方面に左折する。浅草岳国民宿舎脇から山道を進み、砂利道の林道をぐんぐん登る。最初のネズモチ平という登山口を見送り、林道の終点にある、もう少し標高の高い「桜曽根」登山口に8:20到着。

  広大な原生林が足元に広がっていた。民家も、池も、川も、畑も全く見えず、緑の森だけが眼下を埋め尽くす。頭上は曇天であったが、予報を信じれば今日は全国的に快晴になる。
8:30に登山口を出発。

 

【ぬかるみに悩まされながら、素晴らしい紅葉の真っ只中へ】

  先週の山行で足にマメが出来たので、スニーカーのままで登ることにしたが、これは大失敗だった。最初は歩き易い道だったが、しばらくするとぬかるみの連続になった。越後の山は湿気とぬかるみが多いという特徴を失念していた。膝から下はすぐさま泥で汚れ出す。

   鮮やかな紅葉に覆われた山腹


  ブナ林の中を登って行くと、次第に視界が開け、見事な紅葉に彩られた山腹に目を奪われる。そしてその鮮やかさは山頂に近付くにつれて、どんどん華やかさを増していった。行く手の小ピークは、炎を上げて燃えているかのよう。登山道はその炎に向かって突入する。私もあの炎の中に飛び込んだら一緒に燃え尽きてしまうのではないか...。

  途中でゴム長靴姿の中年夫婦を追い越したら、「本当にゴム長で正解だったな」、「本当にそうね」と囁いているのが聞こえた。さぞかし、スニーカー履きで、泥だらけの私を無謀な初心者と思ったであろう。

  ようやく山頂が見えてきた 

  急登しきりで「嘉平与ボッチ」(カヘヨノボッチ)、あるいは前岳と呼ばれるピークに立つ。ここでようやく目指す浅草岳の山頂が姿を現した。見事に絶頂まで秋の色に彩られていた。前岳を一旦下り、最後の登りにかかる。山頂付近では木道が敷かれてあり、ようやくぬかるみとの闘いから開放された。

  
             浅草岳山頂にて                         尾瀬の燧ケ岳


  9:50、標高1,585.5mの浅草岳山頂に立つ。山頂は十数人の熟年グループで占領されていた。しかも、彼らは山頂標識を囲むようにして居座っている。続々到着する他の登山者も記念写真を撮るに撮れず困惑している。いくら「どうぞご遠慮なく」と言われても、見も知らぬジジババに囲まれた写真なんて撮りたくない。逆に「その場所で休憩はご遠慮ください」と言いたい。全く、無神経な奴らだ。しかし、私は、その山頂標識が「取り外し」できることを発見し、ジジババから離れた場所で念願の登頂記念写真を撮った。 もちろん標識は、他の人にもパスしてあげる。

   
                    田子倉湖を見下ろす

      
                            
   浅草岳の隣は豪壮な鬼ヶ面山  

  到着時はまだ風が冷たく、遠望が利かなかったが、次第に雲が飛ばされて、やがて超快晴になった。足元には田子倉湖が光り、遊覧船が白い航跡を残している。彼方に尾瀬の燧ケ岳の双耳峰が一際高い。至仏山、平ヶ岳、越後三山も背比べをしている。北側には守門岳の彼方に新潟平野が緑色のカーペットのよう。

  田子倉湖方面からも熟年団体が登ってきた。それぞれに山座同定をしているが、団体のリーダーらしい老人が越後三山を指差して、大きな声で「皆さん、あれが有名な出羽三山ですよ!」と叫び、他のメンバーが、「まあ、あれが出羽三山ですか!」と感心している。何ということだろう。彼らは越後(新潟)と出羽(山形)の区別さえも出来ないのか。見かけはベテランらしき服装だが、山頂標識を囲んでいたグループといい、最近のジジババ達は、知識にも、マナーにも、問題が多い。私は訂正してやりたくてウズウズしたが、頑固そうなリーダーに恥をかかせてもいけないので、黙っていた。

   紅葉の中の登山道

    福島県の只見町が眼下に  


  約1時間を山頂で過ごし、下山にかかる。山頂直下の草原に立つと、鬼ヶ面山の絶壁が凄い迫力だ。谷底には、こんな紅葉の季節になっても残雪があった。暖冬が続く近年で、このような季節の残雪は非常に珍しい。周囲の山々は本当に素晴らしい秋色に彩られ、見事な芸術だ。この山は、深田久弥の百名山にも、二百名山にも入っていない。しかし、私に言わせれば、深田氏が選んだ関東近辺の凡山の幾つかを確実に凌ぐ素晴らしさを、この浅草岳は持っている。

   背景は守門岳

     燃えるような山頂を背景に 


  下山は往路をそのまま戻る。言うまでもなく、下半身は泥だらけになった。下山後は浅草岳温泉の洞窟風呂で汗を流し、十日町の実家に向かう。■

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