Data No. 118 |
データ: |
(高尾山・景信山・陣馬山) |
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高尾山と言えば、行楽地として有名だが、「登山」の対象としては、バカにする人も多い。私自身も、わざわざ登りに行く山ではなかろうと思っていた。しかし、ガイドブックをじっくり読むと、この高尾山を起点にした奥高尾への縦走は、歩き応えがありそうだ。ヒマだけは豊富にある無職の時だから、きりっと冷えた冬晴れが続く一日、思い切って出かけてみる。 年の瀬の平日(金曜日)朝、世の中には私のようにヒマな人間は少ない。人気の少ない京王線「高尾山口駅」に降り立ち、土産物屋の居並ぶ参道を進み、今日の長い行程を考えて、迷った末にケーブルカーに乗る。このケーブルカーは、最大斜度31度の急斜面を登る。しかし、ケーブルカーを降りたところは、まだ山頂ではなかった。鬱蒼とした杉林の中を登って行くと、由緒のある寺社がある。 高尾山薬王院で、新年早々から勤めることが決まった会社での無事を祈り参拝。そして更にひと登りしたところが高尾山山頂であった。標高は599m。平坦な広い山頂には、土産物屋、飲み物の自動販売機、子供の遊具などが置かれていて、「山の頂上」という雰囲気ではない。しかし、展望台に立つと、そこが山の頂上であることを認識させてくれる。ここは甲斐、武蔵、相模をはじめとする十三の国が見渡せることから「十三州見晴台」と呼ばれている。数々の山々がうねっているが、富士山以外では目立つ姿を見せる山は無い。晴々とした山頂でタバコを一服し、奥高尾縦走路へ踏み出す。 高尾山を西に下ると、良く整備された尾根道を登り下りしてゆく。途中には桜の名所もある。そして、最初に現れるピークが標高671mの「城山」である。その昔、北条氏の城があったことから城山と命名されたという。今日のコースは歩き始めの高尾山が一番標高が低く、これからたどる山々は次第に標高は上がって行く。 城山を下ると小仏峠を経て、景信山への登りとなる。足元には相模湖が光る。急な登りをこなすと標高727mの景信山。どの山の頂にも、どの峠にも、「抜かりなく」茶店があるが、やはりシーズンオフの平日なので閉まっている店も多い。行楽シーズンはさぞかし大賑わいであろう。 景信山頂上にて 景信山から、なだらかな尾根道が続く。そこで人気の少ない今日には珍しく、一人の男に追いついた。私より少し若い。しかしその小太り男は、私が追いついたら、俄然歩くスピードを上げた。尻の肉をプリップリッと左右に振りながら、絶対に追い越されまいと私の前を歩く。よおし、無職で体力を温存している私は、ストレス解消のため、こうなったら耐久戦を挑む。しかし、私は決して体力以上のスピードは出さずに、男の10m程後ろをピタリと張りついて歩く。そんな状態が数十分も続いただろうか。次第に男の息が荒くなり、焦っているのが手に取るように分る。私は別に呼吸も乱れない。そこまでして他人に対抗意識を燃やし、追い越されたくないという心理状態とは一体何なのだろう。明王峠の閉店している茶屋前で、その男はとうとうベンチにへたり込み、ハンケチで額をぬぐいながら、そのまま通過する私に、物凄い敵意のこもった視線を浴びせた。私も「身の程を知りなさい」と言う意味の温かい眼差しをお返しする。その後、もちろんその小太り男が私に追いつくことは無かった。 縦走最後の峰、陣馬山は標高857mで、これまでの縦走路で一番高い。素晴らしい360度の展望の広がる広々とした山頂だ。新宿の高層ビルも見渡せる。周囲には低山が何処までも広がっていた。この秋から初冬は、目一杯山に沢山登った。勤め始めたら、こんなペースで山には来られないし、他にすることも出来る。もう数日でお正月だ。今年はこの陣馬山で山登りの締め括りだ。私も年が明けたら、あの大都会の雑踏の中に戻る。そんな感慨を胸に、陣馬高原へ下り、バスで八王子に戻る。■
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