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Data No. 116

　データ：
　登頂日：　１９８６年１２月１７日
　御岳山標高：　1,077m
　大岳山標高：　1,267m
　場所：　東京都
　天候：　快晴
　登頂時の年齢：　32歳
　同行者：　単独行

奥多摩

御岳山・大岳山

【展望の師走の低山】

　　気を紛らすための山登りが、この秋以降はやたらと増えた。低山の連なる奥多摩や奥武蔵に近い場所に住んでいる利点は存分に生かしている。また、晩秋から初冬にかけてのこの山域は雪も降らず、木々の葉が枯れ落ちて眺めも良い。

　　通勤ラッシュの終わる９時前に家を出る。青梅に向かうバスの車窓からは、カラッと澄み渡った空の下、奥多摩の山々が気持ち良さそうに鎮座していた。青梅駅から奥多摩行電車に乗り、御嶽駅で下車。歩いて滝本のケーブルカー乗り場に行き、ガラ空きのケーブルカーで山頂駅に。のんびりと参道をたどり、御岳神社に向かう。

　　御岳神社近くの売店は、正月の準備で多忙らしく、今日のような平日は皆店を閉めていた。それでもバッヂが欲しかったので、入口が半分開いていた店に顔を出すと、おかみさんが「どうぞどうぞ」と招き入れてくれた。バッヂ２個、500円ばかり購入しただけなのに、「お茶も差し上げず済みません。どうかご利益がありますように」と御岳山のしゃもじをプレゼントしてくれた。御岳神社参拝後、大岳山登山道に踏み込む。

　　　　御岳神社を後に、男具那ノ峰を目指す

　　御岳神社の標高は929mであるが、もう少し奥の「奥ノ院」がある男具那ノ峰は標高が1,077mである。折角だから御岳山の最高点に立つべく、登山道をそれて立寄る。杉林に囲まれ見晴しの利かない奥ノ院頂上は、見事に静まり返り、ここが東京都の一部とは信じられないような幽遠な雰囲気が漂う。

　　初冬の尾根道は足元の枯葉の下で霜柱がサクサクと鳴り、クッションが効いている。大岳山へ向かう道はよく整備されている。大岳山の登りになると傾斜も急になり、岩がゴツゴツした所を通るようになる。しかし、それも僅かで、発電機の音が聞こえ出し、大岳山荘の前に出る。小屋の前で、犬が人恋しそうに尻尾を振っていた。

　　ここから東京の都心が良く見える。池袋や新宿の高層ビル群が澄んだ空の下にあった。あの大都会では何百万人という人々がうごめいている。本来ならばこんな平日は私もあの中に居た筈である。私は、あの都会の雑踏が羨ましいのだろうか。都心で毎日働いていると、無性に山に憧れた。今こうして誰も居ない平日の山に来ていると、一時的に無職の私は妙に都会が恋しい。

　　　　　　　　　　大岳山頂上にて

　　山荘前から神社の横を通り、僅かに急坂を登ると標高1,267mの大岳山頂上だ。頂上には東屋があり、座って休むに都合の良さそうな岩が沢山転がっている。周囲は奥多摩の山々が背比べをしていて、隣の御前山が特に堂々としていた。頂上では、いずれも単独行の男達が三名居て、それぞれがあさっての方向を向いて休憩していた。こんな平日にヒマなのは私だけではなかった。手頃な岩に腰を下ろし、コーヒーを沸かして昼食とする。風も弱く、気持ちの良い山頂だった。

　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　東京方面の眺め

　　下山は奥多摩駅へ向けて鋸尾根を進む。ひとしきり急降下の後、のんびりとした緩やかな尾根道を散歩気分で歩く。御前山が始終目の前に黒々と立ちはだかる。やがて御前山への縦走路を見送り、鋸尾根の急登となり、その名前の通りノコギリの歯のように小さな岩の突起を幾つか越しながら、氷川の町に向かって下る。北斜面の尾根なので、霜柱が夥しく出来ていて、それが日中に陽が当たって融けると、赤土の斜面は滑り易い。

　　　　　　どっしりとした御前山　

　　氷川の町はずっと足元に見えていたが、意外と高度が下がらずに、遠い行程である。谷間を挟んで正面に本仁田山が聳えている。「大天狗、小天狗」と呼ばれる岩のピークを過ぎた辺りからようやく本格的な急降下が始まり、一気に麓の町が近付き始めた。神社の鳥居前から登計の部落に出ると、舗装道路になり、奥多摩駅はもう僅かであった。

　　奥多摩駅前の食堂で下山祝いにビールを飲み、炒飯を食べて家路につく。汗が引いた身体には、暖房がゆるく効いたガラ空き電車の中は、かえってこの季節の寒さを身に沁みさせた。■