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Data No. 111

 データ:
 登頂日: 1984年10月10日
 標高: 1,166m
 場所: 埼玉・群馬県境
 天候: 快晴
 登頂時の年齢: 30歳
 同行者: 単独行

 

秩父 二子山

 



【根性で電車に間に合う】

  体育の日の早朝、目が覚めて慌てに慌てた。寝過ごしてしまい、顔も洗えず、荷物をナップザックに放り込み、登山靴の紐も結べないまま、靴をドタドタと鳴らしながら駅まで全力疾走。ええい、いっそのこと裸足の方が速かったか...。駅の階段を転げるように駆け下り、5:25発の電車に車掌がピーッと笛を鳴らしてドアが閉まる寸前に滑り込みセーフ。何と布団を出てから僅か10分の早業であった。何ごともあっさりと諦めないところが私の長所か...?!息を思い切りゼイゼイハアハアさせながらもホッと一安心。この電車に乗り遅れたら、西武秩父駅から二子山方面に行くバスには乗れず、日帰り不可能だった。保谷始発の為、空いている電車の中で荷物を整理して靴の紐をやっと結ぶ。

  西武秩父駅前から直ぐ接続する6:35発の小鹿野行バスに乗り、小鹿野役場前で30分待ち、7:45発の坂本行バスに乗る。車中は5人のみ。札所巡りだという老夫婦の他は、私と同じようなハイキング姿の男が二人だけだ。バスは谷間の川沿いを登り、8:00過ぎに坂本に到着。三人のハイカーで二子山に登るのは私だけらしい。他の二人は両神山にでも行くのか途中で降りた。
 

【スリル満点の岩山】

  8:40に登山開始。志賀坂峠を越えて群馬県に通じるR299から外れ、仁平沢に沿って畑の間につけられた細い道を15分程登ると再び車道に合流。そして、民宿「登人」の横から二子山登山道に入る。暗い杉林の中を登ってゆくと、漸く巨大な二つの岩峰から成る二子山が姿を見せた。どっしりと均整のとれた美しい山容だ。これから登るのは左側の西峰である。東峰は難路で一般登山道がないから初心者は遠慮するべきだとのこと。

   標高は低いが凄い迫力の岩山 

  鬱蒼とした林の中をひたすら登り、9:30に二つの峰の鞍部にある「股峠」に着いた。此処から道は二つに分かれる。尾根通しの道は岩場のロッククライミングになり、恐いので、おとなしく右手に巻く道をとる。巻き道と言っても、石灰岩混じりの急坂なので油断は禁物。軍手をはめて両手両足をフルに使い、岩の手掛かり足掛かりを探りつつ、木の枝にも掴まりながら奮闘すること約20分。丁度10時に標高1,166mの二子山西峰頂上に辿り着いた。

   
         
二子山西岳頂上にて                       下を見るとちょっと怖い!

  麓から仰ぎ見たどっしりした山容とは打って変わり、頂上稜線はとても狭く痩せていた。頂上には50歳位の男が一人いるだけである。挨拶を交わして見晴らしの良い岩陰に腰を下ろす。ほんの一時間少々で登ってこれた山であるが、頂上から見下ろすと出発点の坂本部落は遥か絶壁の下である。標高の割には眺めもすこぶる良い。ノコギリの歯のような稜線を見せる両神山が一際目立つ。そして奥秩父方面の山々が連なる。高い山の頂上付近は、ハッとするほど鮮やかな紅葉に染まっている。ただ、この付近の山は良質の石灰岩を産するということで、群馬県側には無残に山肌を削り取られた山が見える。この二子山も、遠い将来には石灰岩採掘で姿を変えてしまうかもしれない。人間の私利私欲の為に、この貴重な美しい自然を無造作に破壊することだけは止めて欲しいものだ。この二子山が将来もこのまま安泰であることを切に願う。

  山頂で、昨夜自分で作ったサンドイッチを頬張り、コーヒーを沸かして飲む。しかし、隣のおじさんが啜っているラーメンの方が美味しそうに見えて仕方がない。聞くところによると、おじさんは東松山市のハイキング・サークルの幹事を務めているとのことで、毎週末、一人あるいは大勢を引き連れて何処かの山に登っているとのこと。しかし、奥さんや自分の子供は決して連れてこないと言う。

  
           両神山を望む                               麓を見下ろすと凄い高度感

  しばらくすると、私と同年輩の男が登って来て、三人で話に花を咲かせる。彼は私以上に山の経験は浅いようだ。おじさんの話にやたらと「へえ、それは凄い」などと、頻りに大袈裟に感心して、おじさんにすっかり心酔してしまい、「今度一緒に山に連れて行って下さい」と頼み込んでいる。おじさんは、そこまで言われると、すっかり気分が良くなったらしく、話に更に油が乗ってきた。しかし、根が内気な私は、どちらかと言うと自分の山歴を自慢げに話す「いまどきの中高年」をあまり好きではない。

  二人の熱のこもった話の聞き役をしている内に、昼近くなった。そろそろ潮時と思った私が帰り支度を始めると、おじさんが、「都合の良い処まで車で送りますよ」と申し出てくれて、それでは、ということで三人一緒に下山することになった。登ってきた方向とは反対側に延びるノコギリの刃渡りのような下山路を、おじさんから特訓を受けながら下る。「そうじゃない、そこをそうして、こうしろ...」と足元から指導されながらスリルのある岩稜を慎重に下った。私はかえって調子が少し狂ってしまったが、ベテランの言うことだから良い機会だと思って素直に従った。案の定、後から来た男は、私以上にぎこちない。

  岩場が終わるとホッとした。振り返ってみれば、今下ってきた二子山の岩壁がススキの穂を通して秋空に美しく映えていた。じっと目を凝らすとロッククライミングをしているパーティの姿も見える。カーン、カーンとハーケンを打つ乾いた金属音が静かな山中に響き渡っていた。

       二子山を振り返る

  おじさんを先頭に、歩き易くなった山道をハイペースで下り、13:05、坂本部落の車を停めてある場所に到着。私は小鹿野のバス停まで送っていただくことにした。さすがに車だと早い。バスだとあと1時間以上待たなければならなかったのに、随分時間を節約出来た。小鹿野でお礼を述べて車を降りると、運良く直ぐに西武秩父駅行のバスがあり、まだ陽の高い内に入間に帰着出来た。

  ベストシーズンと云える体育の日だから、もっと大勢登山者がいると思った二子山であるが、交通が不便なこともあり、最後迄この3人だけの山であり、静かな山旅が楽しめた。それにしてもあのおじさんには刺激を受けた。もう一人の素直な男とは違い、私はかすかな対抗意識まで持ってしまった。私が年をとっても、あの位の体力を維持して、いつまでも山を楽しみたいものである。■


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