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Data No. 90

 データ:
 登頂日: 2002年10月14日
 標高 2,143.6m
 場所: 栃木・群馬県境
 天候: 快晴
 登頂時の年齢: 48歳
 同行者: 単独行

 

皇海山

 


ずっと敬遠してきた近場の名山

  関東の近い場所にありながら、登り残している百名山の一つ。それが皇海山(すかいさん)だ。登山案内を見ると、昔は修験道の山で、いかにも登るのに時間がかかり、苦労しそうな山だ。そしてその案内書にも、「山頂の展望は利かず、深田久弥の百名山にでも選ばれていなければ、わざわざ来ない山だろう」との先駆者のコメント。それが近年、群馬側から、ずっと短いルートが拓かれたのだが、肝心のその登山口へ行く長い林道が悪路で、しかもいつ問い合わせても通行止めだった。近いがゆえに、楽に登れるチャンスを待とうと思っていて、年月が経過した。

  この秋、10月に入って好天が続く。3連休初日は自宅静養したが、2日目に急遽皇海山に行ってみようと決心した。もう、こうなったら従来の修験道ルートで登るしかない。「辛くてつまらない」山は、せめて好天が保証されているときに限る、などと失礼な気持ちを持って登ってはいけないだろうが。
 

10月13日(日曜日)
庚申山の山懐へ

  正午前に家を出発し、北関東道伊勢崎ICを経て、大間々から日光へ向かう国道を北上。足尾町から分岐する山道をたどり、銀山平に14:50到着。登山口駐車場には、夥しい数のマイカーが停まっていた。

  15:00、林道ゲートをくぐり庚申山荘へ向かう。車が沢山あった割には人が少ないと思っていたが、しばらくするとポツリポツリと下山してくる人々に出会うようになった。なるほど、朝一番で山小屋を出発しても、こんな午後遅くの下山なのか...。

  約1時間林道を歩いて「一の鳥居」をくぐる。「猿田彦神社」と書いてある。そこから沢沿いの山道となるが、傾斜は緩く石畳や階段で、よく整備されている。伝説の残る巨岩巨石を眺めながら、しかしあまり気にも留めずに、暗くなる前に山小屋に到着するべく急ぐ。その間も、続々と下山する人々に会う。夕べの山荘はさぞかし混雑したであろう。幸い連休二日目の今晩は空いているらしい。

      庚申山の岩壁を背景にした庚申山荘

  16:40、背後に岩山が聳える庚申山荘にようやく到着。二千円の料金と宿泊者カードを料金箱に投入し、荷物を下ろす。先客は十数人か。楽に寝場所を確保できそうだ。管理人も不在、電気も無いこの大きな山小屋で、暗くなる前に熱いカレーうどんを作って食べた。その間もまだ下山してくる人々がいる。もう林の中は真っ暗であろうに。

  食後、19時で周囲は静まり返った。眠気は無かったが布団に入る。一階の大部屋は私を含めて5名だけ。他の部屋にはもう少し大勢いたようだ。一旦寝入ったものの、案の定時間が早過ぎて夜中に目が覚めた。時刻はまだ23時だ。屋外のトイレに行くと、林の中にがさがさと動くものが居て、びっくりした。目玉が二つ光っている。シカであろうか。部屋に戻ると、「ヒ〜ン!ヒ〜ン!ヒ〜ン!」と甲高い鳴き声がした。その後も、しばらくその鳴き声が聞こえた。同室のおばさんは熊ではないかと心配する。
 

10月14日(月曜、体育の日)
心底くたくたになった皇海山登頂

  結局は熟睡できず、4:00過ぎ、周囲が動き出すのを待ち床を上げた。同室のの5人が、ほぼ同時に起床。玄関傍のテーブルで、雑炊を作って食べ、東の空が明るみ始めた5:15に懐中電灯を灯して出発。

  庚申山の登りは急峻であるものの、ハシゴや鎖がかかっているので、特に心配することは無いが、両手両足をフルに使わされる。傾斜が緩み、針葉樹林の中を進んで行くと、標高1,892mの庚申山であった。樹林帯の中で展望は利かない。しかし、山頂を過ぎてしばらく平坦な道を歩いたら、一気に展望の開ける場所に出た。ピューッと音を立てる早朝の冷たい風に吹かれて、青空の下に手品のように突然、皇海山がその全容を私の目の前に現した。深い紅葉の谷間から急峻な角度でせり上がるその姿は、針葉樹林に覆われ黒々として、僧侶のような姿だ。この時、目指す皇海山は、鋸山の稜線を経て、意外と近く感じた。しかし、それは大いなる錯覚だった。

  
                          錦秋の皇海山を見る

  皇海山の右奥には日光連山が威容を誇り、奥白根山がひときわ気高い。しかし、私自身があの奥白根山に登頂した際、男体山、中禅寺湖や上信越方面の山々に気を取られて、すぐそばにあった筈のこの皇海山は視認した記憶が無い。快晴だったので、見えていない筈は無かったが、当時の私にはこの皇海山は眼中に無かった。大変失礼なことであった。

  庚申山から鋸山への稜線は、最初は歩き易かったが、後半が大変だった。笹薮に覆われたり枯葉で埋もれたりで、ルートが明瞭でなく、時々道を失う。目印となる木の枝を縛った紐も間隔が疎で安心して歩けない。そして鋸山が近付くと、いよいよ絶壁を鎖で下る場所が現れた。鎖にぶら下がっても足場が非常に悪い。事故を防ぎ、安心して歩けるようにするには、もっと足場を深く水平に切って欲しい。下ってほっとするのも束の間、また同じような壁を登らなければならない。そして登り切ると再び岩場の下りが現れる。それをいくつも繰り返す。文字通り鋸のような岩稜を、巻道も無く忠実に上下させられた。

  緊張の連続だった鋸尾根を無事に越え、狭い鋸山山頂に立った時、出発から既に3時間が経過していた。目指す皇海山はここから急降下を強いられる、深い鞍部を隔てた先である。

   
             
岩場の辛い上り下りを強いられた鋸山                   鋸山頂上にて

  鋸山から鞍部へ向けての急降下だが、もはや危険個所は無かった。この鞍部付近も道があいまいで、時折ルートを見誤り、時間の短縮にはならなかった。群馬県側の林道が通じていれば90分で楽にここまで登って来られた筈の「不動沢のコル」では、出発から4時間近くが経過していた。林道が通行止めの今、もちろんこのルートを登ってくる人は居ない。

  あとはひたすら皇海山本峰の登りだ。コメツガやシラビソの針葉樹林帯の急斜面をじっくりと登る。この途中で今日初めて人とすれ違った。山小屋を余程早く出発したのだろう。

  登りもようやく緩み、9:20にようやく皇海山頂上に到着。庚申山荘から4時間5分だった。意外なことにまた先客が居た。先生らしき中年男性と高校生の若者が6人だ。夕べは同じ小屋に泊り、今朝は3:30に小屋を出発したという。あの真っ暗な闇の中、私よりも2時間近く早く出発したのか。

       待望の皇海山頂上にて

  皇海山の山頂は、樹木に囲まれて、展望は利かない。鎖場の上り下りで、腕の筋肉ははっきりと凝りを示していた。山頂の一角で、ようやく腰を下ろして休憩し、念願の缶ビールを開ける。ピーナッツと柿の種をつまみにゆっくり飲んだ。その間に若者達のグループは下山を開始して、山頂は私一人に貸切になった。何だか面倒くさく、ガスコンロを出しての食事は止めた。それでも栄養とスタミナは補給の必要があるので、ビールが空になった後、甘いチョコレートをかじった。

 
                           日光連山を望む

  この山は、辛い登りに加え、下山が強烈に長いことも特徴だ。山頂で30分間休んだ後の9:50、腰を上げる。なるべく早く下山して、温泉でゆっくりしたい。

  山頂からの下りで最初にすれ違ったのは、全く意外なことに、私と同時刻に出発したオジさんでもなく、私が途中で追い越した同年輩の男でもなく、シカの鳴き声を熊ではないかと怯えていた華奢なオバさんとそのご主人であった。人は見かけによらぬもの。夕べ庚申山荘に泊っていた20人程度の人々とは、鋸山山頂までの間にほとんど全てすれ違ったようだ。鋸山までに私とすれ違わなければ、帰着は日没後になる。

  鋸山から、往路とは別のルートをとる。六林班(ろくりんぱん)峠を経て、鋸尾根の中腹を巻いて庚申山荘に戻る。このルートはウンザリするほど長かった。六林班峠まではあっけなく着いたが、そこから庚申山荘までがひどく遠い。急峻な登り下りは無いが、標高をあまり下げずに、いつまでもいつまでも入り組んだ山の中腹をトラバースして行く。途中で沢も8箇所くらい渡る。ダケカンバの紅葉がせめてものお慰みだ。

    長い下山途中の紅葉

  六林班峠からの2時間20分のコースタイムは、早足でも2時間にしか短縮出来なかった。13:40、庚申山荘にたどり着いた時はへとへとだった。しかし、ここが終点ではない。昨日歩いた約7kmの道を銀山平まで更に下らなくてはならない。もう他に何の関心も無い。一刻も早く温泉で汗を流して身体を休めたい。一の鳥居を過ぎて平坦な林道に出た時はほっとしたが、そこからの4kmも残酷なほどに長い。一度右足のふくらはぎが攣ってしまった。心身とも、へとへとになって15:15、ようやく銀山平に帰着。

  何はともあれ、すぐそばの国民宿舎かじか荘で、温泉入浴する。ぬるめの浴槽で疲労困憊の身体をとろけるほどゆっくりと休めた。しかし、残念なことは、ここは宿泊施設であるので、他の日帰り温泉施設と違って休憩室が無い。せめて一時間でも昼寝をしたかったのだが。

  疲労が完全に取れない身体でハンドルを握り帰路につく。連休最終日で道路は各所で渋滞した。帰宅したら改めて近所のサウナに行こうと思っていたが、21時過ぎに帰宅した私には、最早その元気は無かった。途中でラーメン大盛をペロリと平らげて来たが、体重はいつもより2kg減っていた。本当に心底疲れた。名峰、皇海山には申し訳無いが、私自身は死ぬまでに、もう一度は登らないだろう。何はともあれ、快晴の山旅を提供してくれた皇海山には、「ありがとう」と言おう。■

 

【皇海山登山行程】

10月13日(日曜)
入間11:50 ===R407、関越、北関東道=== 伊勢崎 === 14:50 足尾銀山平15:00 --- 15:45 一の鳥居 --- 16:40 庚申山荘(自炊宿泊)

10月14日(月曜)
庚申山荘 5:15 --(1:00)-- 6:15 庚申山(1,892m) 6:20 --(1:40)-- 8:00 鋸山(1,998m) 8:05 --(0:40)-- 8:45 不動沢コル --(0:35)-- 9:20 皇海山(2,143.6m) 9:50 --(0:30)-- 10:20 不動沢コル --(0:35)-- 10:55鋸山 11:00 --(0:40)-- 11:40 六林班峠 11:45 --(1:45)-- 13:30 天下ノ見晴入口 --(0:10)-- 13:40 庚申山荘 13:45 --(0:45)-- 14:30 一の鳥居 --(0:45)-- 15:15 足尾銀山平、国民宿舎かじか荘にて足尾温泉入浴 16:40 == R122, R120, 伊勢崎=== 本庄(夕食) == 寄居 == R254 == R407 == 21:20 入間


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