Data No. 89 |
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中央アルプス 空木岳
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中央アルプスは、10年間勤めた会社の工場が飯田市にあった為、工場への道すがら何度も眺めた。木曽駒ケ岳は中腹までゴンドラが通じていて有名だが、もうひとつの百名山「空木岳」(うつぎだけ)は、山登りを嗜む人でなければ聞いたこともない山であろう。 私自身は、この山の名はかなり前から知ってはいたが、なかなか足が向かなかった。しかし、中部山岳で登り残した名山はさすがに少なくなり、必然的にこの空木岳登頂も、私のターゲットになった。 9月下旬、秋晴れが三連休初日まで持続するとの予報に、急遽決断して金曜日夜に車を出す。駒ヶ根高原に深夜到着し、地図で入口を確かめ、全く人気のない漆黒の林道に踏み込む。午前1:30林道終点到着。駒ヶ根の街灯りが眼下に広がり、空には満月が輝いていた。 9月21日(土曜日) 【快晴に恵まれた空木岳】 予報通り、快晴の朝だ。夜が明けてからマイカー2台とタクシーが上ってきた。タクシーの運転手が「よくこの道を分かったね」と感心する。 好天の連休初日の割には、登山者が少ない。麓で「熊出没注意!」という看板をいくつも見たので、あまり淋しいと困る。2組が出発するのを見送り、5:50に出発。道は「池山遊歩道」という表示だ。しかし、観光客がわざわざ来るような場所だろうか。「遊歩道」と表示するだけあって、歩きやすい樹林帯の中の道だ。早朝の山の空気はきりりと冷えて、汗っかきの私には有難い。 展望台のあるタカウチバを過ぎ、池山小屋入口の水場でノドを潤し、薄暗い森の中を登る。わざわざ「登山道」と「遊歩道」に分かれているルートだが、どちらを通っても合流するらしい。私は登山道を通った。再び道が合流してしばらくすると、ようやく「遊歩道」という表示は消えた。一般の人にとって、何を楽しむ遊歩道なのか、最後まで分らなかった。登りが急になり、ぐんぐん高度も上がる。時折視界が開けると中央アルプスの核心部、宝剣岳への稜線が見渡せる。アルプスの高峰は、周囲の低山と色が全く異なる。 やがて道は痩せ尾根をハシゴやロープを使って登るようになる。しかし、手持の地図上の地名と実際のルート上の表記が一致せず、場所の確認が難しい。地図には「マセナギの頭」、「大地獄」、「小地獄」などのポイント表示があるが、歩いていてそのような表示は見当たらず、代りに「尻無」、「迷尾根」などを見た。人間の安全に関ることだから、こういうことは地元も地図作成者も、一貫性を持って欲しい。 大自然の造形美、山頂はもう少し 苦しい登りも3時間を経過した頃、空木平への分岐に到着。予定より2時間早い。登りには右側のルートを取る。それは大正解だった。森林限界を越え、空木岳の山頂が行く手に姿を現す。私にとって、初めての「空木岳」との対面だ。純白で巨大な花崗岩が堆積した美しい山容で、ギリシャの古代神殿遺跡を彷彿とさせる。山肌は既に色付き始めている。この頃から小屋泊まりして下山する人々と続々すれ違う。好天に恵まれ、皆満足そう。 下山者とのすれ違いもやがて無くなり、再び人気のない世界となった。花崗岩の斜面をゆっくり山頂を目指す。山頂直下の駒峰ヒュッテは既に客は皆無で、管理人や大工が小屋の補修工事に専念していた。私がバッヂを買うため、ほんの一時、手を休めてもらった。白木の香りがとても良い小屋だ。 9:55、待望の空木岳山頂に到着。標高は2,864m、堂々たる日本アルプスの山である。白い花崗岩と白砂に飾られた山頂では絶景が待っていた。東側の長大な南アルプス山脈は逆光を浴びて黒々とシルエットになり、富士山がその上に頭をのぞかせる。自分が立っているのは木曾駒ケ岳から始まり、男性的な風貌を見せる南駒ケ岳へと南北に連なる中央アルプス稜線のど真ん中だ。西には恵那山、木曾御岳が、北には北アルプスの一部も浮かぶ。ひとしきりパノラマを楽しんでいるうち、一時4〜5人居た山頂は私一人だけになった。熱いワンタンスープを作ってブランチを楽しむ。アルプス一人占めの贅沢な気分である。 10:40、下山を開始。登りのルートとは別の、空木平経由のルートを歩いてみる。しかし、登山開始直後に私を追い越した筈の男が、私より随分遅れて山頂に到着した理由が分かった。風の当らない窪地を歩くので汗をかくし、歩きにくい石の上を延々と歩かされる。途中の空木平避難小屋からは、分岐点へ向けて長い上り坂となる。そして結局、山頂から分岐点への所要時間は、登りの時間と変わらなかったし、ずっと辛かった。わざわざ通ってみるほどの場所でもなかったが、紅葉が盛りになったら良さそうな場所だ。 その後は、往路をピッチを上げて下る。連休初日とあって、これから山頂を目指す人々とのすれ違いが多くなった。今日の山頂ヒュッテは賑わうだろう。 この日往復で歩いた距離はかなりなものになる。やせ尾根を過ぎて「遊歩道」を下るときも、かなりピッチを上げたが、山頂からの下山所要時間も優に3時間を越えた。13:55に林道終点に帰着した時は、くたくたであった。 駒ヶ根高原に下り、早太郎温泉「こまくさの湯」で身体を休める。「アルプスが二つ見える町」というキャッチフレーズの駒ヶ根で、このようにゆっくりしたのは初めてである。マイカーを持っていなかった若かりし頃は、汗まみれの身体で列車に乗ってそのまま東京に帰るしかなかった。露天風呂からは千畳敷と宝剣岳を飽くことなく眺めた。将来、日本百名山の全山登頂を達成できたら、今度は自分の気に入った山を、じっくり味わいながら歩いてみたい。あの宝剣岳と木曾駒ケ岳も、そして今日山頂に立つことの出来た空木岳も、いつかまたベストシーズンに訪れたいものだ。■
【空木岳登山行程】 9月20日 (金曜日) 9月21日 (土曜日) |