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Data No. 88

 データ:
 登頂日: 2002年9月1日
 標高 1,719m
 場所: 北海道利尻島
 天候: 晴れ
 登頂時の年齢: 48歳
 同行者: 単独行

 

利尻山

 


最果ての北の島へ

  曇天の予報だったその日、新千歳空港から乗ったANK491便の進行右側の窓からは、意外にも北海道本土の日本海側の海岸線が良く見えていた。利尻島に近付き、着陸態勢に入っても機内は誰もが無言だった。反対側の車窓からは、きっと山は雲の中なのだろう。機材到着の遅れや計器トラブルで1時間以上も遅れた15時過ぎ、利尻空港の滑走路に静かに着陸した機体は、減速すると滑走路の端で空港ターミナルへ向かうため、180度向きを変えた。そしてその時、私は初めて車窓一杯に広がる利尻山の全容を見て、思わず「わあ、凄い!」と声を上げてしまった。

          
                          
利尻空港から仰ぐ利尻山

  滑走路の直ぐ向うから裾野がせり上がり、天に向かって鋭角に突き上げる山頂、侵食が進み、童話世界の魔女の山のように黒々として、とげとげしい稜線。本当にあんな山の頂に登れるのだろうか...。曇天の予報にも関らず山がきれいに見えていたことの嬉しさと、緊張感が入り混じった複雑な気持ちで、私は利尻山を凝視した。大勢の人々がカメラを向けて、記念写真を撮る。地元の人々より観光客の方が余程多いらしい。それにしても、機内でのあの無感動の静けさは一体何だったのだろう。それとも、進行左手には、この山は最初からずっと見えていたのか...。

         
                
鴛泊港から見る利尻山、入江奥の白い建物が泊った宿

  8月末日の利尻島は意外と暖かだ。送迎車で予約しておいた旅館「雪国」へ向かう途中も、窓を開けた方が涼しかった。道は立派で空いている。利尻島の中心部である鴛泊(おしどまり)の町を過ぎ、海辺を更に500mほど走ったところに今宵の宿はあった。港と大海原を見渡せる心地よい清潔な宿だ。

  旅館には「利尻富士温泉」が引湯されている。夕食は、北海の漁師の宿らしく海の幸が沢山出た。ウニも新鮮で美味しい。ビールを楽しんだ後、冷酒をしこたま飲んだ。こんなに美味しい海の幸を前にして、お酒を飲まずにはいられなかった。しかし、それは翌朝、少し反省することになる。


利尻山に登頂!

  9月1日朝、「ブルルン!」と車のエンジンがかかる音で目が覚め、腕時計を見て飛び起きた。丁度送迎車を出してもらう約束の5時になっていたのだ。慌てて布団を飛び出し、服を着て、冷たい水で顔を洗い、玄関に向かった。やはり夕べの日本酒が効いた。夕食後、歯を磨いたらバタンキューだったのだ。それでも寝る前にほとんど支度はしてあったので、5:10には車を出してもらうことが出来た。送迎車には他の2組と一緒であったが、彼らも、特に待っていた様子もなく、ひとまずは安心。反省しきりである。

  そんな風に利尻島の2日目は始まった。鴛泊口登山口三合目に車で送ってもらう途中、薄曇りながらも利尻山ははっきりと見えていて皆が喜ぶ。天気予報では、道北地方だけ陽が射すとのことだ。

  こんな北の果ての利尻島であるが、日本百名山に選ばれていることもあって、キャンプ場も兼ねる登山口には老若男女を問わず驚くほど大勢の人がいた。混雑して自分のペースで歩けないと鬱陶しいので、早々に5:25出発。

      
             
登山口は三合目のキャンプ場                               途中にあった甘露泉

  この利尻島(礼文島もそうであるが)で特別に嬉しいのは、大形哺乳動物と爬虫類が生息していないことである。すなわち、ヒグマとヘビには絶対に遭遇しない。安心して登山に専念出来る。

  静かな森の中に、石畳が敷かれた道を緩く登って行くと、ほどなく名水「甘露泉」の湧き出る沢に出る。しかし、今のところ水分は豊富にあるので、下山時に賞味することにしよう。

  甘露泉を過ぎると本来の登山道らしくなる。針葉樹の目立つ森の中を登る。今日は気温が高く、風がそよとも吹かない。先に出発した人々を次々と追い越す。この山は合目標識があり、目安にはなるが、5合目は、まだ1,719mの山頂の標高に対し、あまりにも低過ぎる場所にあった。繁みの中の登りは猛烈に蒸し暑い。今年の北海道は冷夏だというニュースを聞いて厚手の長袖を着てきたが、早くも汗でびっしょり。樹林帯の中は無風で湿気が多く、時折陽も射すので蒸し風呂のようなものだ。

  時折ブッシュがガサゴソと動いてびっくりすると、小さなシマリスが姿を現す。人間が居たからといって、特別に逃げ回るでもなく、マイペースで生活している。

     
                          眼下に見える鴛泊港

  初めて視界が開けたのは六合目の第一見晴である。足下には青い大海原が広がる。そして緑にびっしり覆われた山の斜面の下った先に鴛泊港が見える。利尻空港も見える。そして礼文島が霞んで見えていた。本州の主なる山は、こんなに海辺(標高200m)から歩くことなどは無い。見晴しが利くと、ようやくそよ風に体温上昇を抑えてもらえた。

  標高が上がれば森林限界を過ぎるかと思ったが、ハイマツは背が高く、登山道はえぐれた溝の底を歩くので、相変わらず蒸し暑さから逃れられない。7合目にかけてはジグザグに切られた急斜面の登りで一番の我慢どころ。しかし、6合目を過ぎたら、パタリと人の数が減り、人のペースに影響されることが無くなった。

     八合目からの利尻山頂

  急斜面をあえぎながら登りきった処が八合目の長官山。そこで初めて利尻山の山頂が姿を現した。雄々しい展望を得られた感動と共に、あの急峻な稜線の登りを慮るため息が出る。八合目から上の利尻山の姿は、見事にすっくと天を突いていて、それは利尻山全体のほんの一部であるのに、写真で見慣れた利尻山の姿そのものを現しているように感じた。
 

大感動の山頂!
 

  
          
礼文島も海原に浮かぶ                         稚内から宗谷岬も見える

  八合目からしばらくは水平に近い稜線を歩き、避難小屋を越えると、本格的な山頂部の登りになる。登山道の左手斜面は初夏には見事な花畑になるとのことだが、この季節には、ほとんどの花は終わっていた。大きなシシウドの残骸が目立つ。花の見頃は7月中旬らしい。

  やがて非常に歩きにくい火山礫のざらざらした急斜面をロープにすがって登る。登りと下りは別ルートになっていた。一歩登ると、その半分をざらざらと滑り落ちるような極めて歩きにくい斜面だ。そんな不快な個所を越えて、痩せた岩稜を登り切った所が待望の、標高1,719m、利尻山の山頂だった。8:50、予定より一時間以上早く、3時間半で登頂した。

     
             利尻山頂上にて                           大きなロウソク岩の岩峰

  狭い山頂には祠が祭られていて、南側以外の大展望が開けていた。南側の展望が無いのは、その南側の展望を遮る利尻山の最高点である南峰(1,721m)が崩落が進み、立入り禁止のためである。北方には細長い礼文島がくっきりと大海原に浮かぶ。北海道最北の地稚内は、宗谷岬もノシャップ岬も地図の通りに見える。大雪山連峰もぼんやりと見えていた。そして感動したのは、山頂にいた他の人々が指差す方向に、サハリンがおぼろげながら水平線に見えていたことだ。

  利尻島は、そのまま利尻山であることをこの目で実感した。この山頂から麓へ伸びる裾野は、そのまま緩むことなく大海原へ落ちている。人間の住める場所は、この利尻島の海に沿った縁のほんの一部でしかない。フェリーの発着する鴛泊港が良く見える。この山頂部は、今は比較的風が弱いので安心していられるが、風が強かったら恐怖のどん底に落とされる地形だ。それだけ山頂部は狭く、切り立っていた。ふざけて足を踏み外せば、奈落の底へまっ逆さまに落ちて、この世とおさらばであろう。南峰と並んで聳えている「ロウソク岩」も壮絶な姿を見せる。普段から風が強いという当地のこの山頂で、このようにのんびり寛げるのは、極めて幸運だと言って良い。

        
                 利尻山の最高点は、あの南峰だが立ち入り禁止

  山頂で寛ぐ間、他には4〜5人の人々がいたのみである。そろそろ帰ろうかと思い始めた頃から、山頂に到着するハイカーの姿が増え出した。すれ違いラッシュに遭遇しないよう、9:30に下山を開始。ロープに頼りながら火山礫の歩きにくい斜面を何度かしりもちを突きながら下り切り、九合目を過ぎた頃から本格的にすれ違いが多くなってきた。

  この日は下りでも目一杯汗が吹き出た。何だってこんな最北の山で、これほど暑いのか。往路を戻り、甘露泉にたどり着いた時は、冷たくて美味しい名水を1リットルも一気に飲んだ。登山口には12:30に着いた。宿に電話をすれば直ぐに迎えに来てもらえるのだが、私は感動の余韻を味わいながら、海抜0mまで歩くことを選ぶ。そして、もう一つの目当ては、利尻富士温泉だ。

  12:55、鴛泊の町外れにある利尻富士温泉センターに到着し、湯船に浸かったときは心底ほっとした。露天風呂からは利尻山が見える。しかし、山頂部はやがて雲に覆われてきた。私はとても嬉しかった。日程のゆとりもなく、飛行機代を払ってやってきた最果ての地で、好天下に名山の登頂を果たせたのだ。運が悪ければ、悪天候で登頂出来ない人もいるだろう。登っても、何の景色も楽しめない人も多いだろう。今日の私はとても幸運ではないか。入浴後、のんびり鴛泊の町を歩き、15:40旅館帰着。その頃からポツポツと雨が降り出した。

         
        ウニやカニなど、北海の幸がふんだんに取り入れられた夕食。同宿の人達と時間を忘れて楽しむ。

  夕食時には、昨日同じ飛行機便で到着し、この日に同じルートを歩いた東京の女性二人(私と同年代)と同席し、ビールやワインを飲み、山談義をしながら、楽しいひとときを過ごした。女性の一人は既に百名山を完登したとのこと。気が付くと、食堂の他の客は全て引き上げていた。しかし、大きな目的を果たした私は、今宵がいつまでも続いて欲しい気がした。
 

稚内へ渡る
9月2日(月曜日)

  昨夜一緒に盛り上がった女性達と礼文島見物しても良かった。しかし、9月2日の朝はひどく蒸し暑く、上空には青空が見えていたものの、湿った強風が吹き荒れ、海は白波が立つ。最大の目的を果たしてしまった私には欲が消えてしまい、礼文島はまたの機会ということにした。11時のフェリーで稚内へ渡って、のんびりと居酒屋で美味しいものを食べよう。

   
                    
宿の部屋から見える鴛泊港とペシ岬

  9:30過ぎに宿を出て鴛泊港へ車で送ってもらう。先に礼文島へ向かう船の出発を見送り、土産物屋で名物のウニの瓶詰めを買った。港のそばに聳えるペシ岬に登ってみようと思ったが、強風が止まず、何と利尻山はどす黒い雲の中に隠れて見えなかった。

  稚内行きのフェリーは空いていて快適だった。揺れも少なく、ごろ寝をしてすごした。出港時、波止場と船のデッキでは、ユースホステルの若者達が別れを惜しみ、手拍子をとりながら歌をいつまでも元気に歌っていた。若さってやっぱり良いなと思う。

   稚内と利尻・礼文島を結ぶフェリー

  12:40、20数年振りに稚内の地を踏む。稚内駅の「日本最北の駅」という看板が懐かしい。安いホテルを探し、マツダレンタカーで軽自動車を借り、宗谷岬を訪れ、猿払村まで往復した。強風と雨で台風のような天気になった。

  やがて雨は止み、夜は稚内の町に出て、郷土料理の居酒屋「網元」のカウンター席で夕食。寂しい町だが、この居酒屋では主人が客同士の会話を取り持ち、自分もいろいろと客に満遍なく話し掛けてくる。大きな帆立貝の貝殻に24種の具を入れた海鮮鍋が美味しかった。ビールで酔い、ホテルに帰ったらもう眠るだけ。この日、北海道はフェーン現象で今夏一番の暑さらしい。ホテルでは窓を開け放ち、布団をかけずに眠った。だって、エアコンも扇風機も無いのだから。こんな北の地で珍しい高温に遭遇すると、ひどく不快な思いをする。
 

思い出の利尻を荒海の彼方に見て
9月3日(火曜日)

  旅行最終日は快晴に恵まれたが、相変わらず風は強い。この日はかねてから決めていた通り、稚内温泉「童夢」に出かける。駅前ターミナルからバスに乗り、ノシャップ岬を西側に回りこむと、白波の立つ海の向うに、懐かしき利尻山が聳えていた。海の中に山だけが見える。ここから眺めても、まさしく利尻島は利尻山そのものだった。

     
                               
 稚内から荒波の彼方に見る利尻島

  バスを降りても、直ぐには温泉に入らず、海べりに歩き、利尻をじっくりと眺めた。強風で波飛沫が飛んでくる。快晴なのに、利尻の山頂部には白雲が湧いている。今あの山頂は猛烈な風が吹いているに違いない。今日登山をする人は山頂に立てるだろうか。モダンな温泉センターの大浴場からも利尻山は正面に見えていた。飽くことなく利尻を眺めて過ごした。有難う、きっといつかまたお邪魔します。その時もまた、元気な姿を見せて下さい。そして美味しいウニと海の幸を食べたいな...。■
 

【利尻島行程】

8月31日(土曜日)  天候: 薄曇り
入間7:29 ==(西武レッドアロー)== 8:03池袋==(JR、モノレール)= 9:10羽田空港10:00 ==(ANA59)== 11:35札幌14:50(75分遅れ) ==(ANK491)== 15:30利尻==(送迎車)==15:50鴛泊、旅館雪国

9月1日(日曜日)  天候: 薄曇り時々晴、後雨
旅館5:10 ==(送迎車)== 5:20 利尻山鴛泊コース三合目登山口 5:25 --- (0:10)--- 5:35 甘露水 ---(1:00)--- 6:35 六合目第一見晴 ---(1:00)--- 7:35 八合目、長官山(1,218.3m) 7:40 ---(1:10)--- 8:50 利尻山頂上(1,718.7m) 9:25 ---(0:55)--- 10:20 八合目、長官山 10:30 ---(0:40)--- 11:10六合目第一見晴 ---(0:50) --- 12:00 甘露水12:10 ---(0:05)--- 12:15 三合目登山口12:30 ---(0:25)--- 12:55 利尻富士温泉(入浴休憩) 15:20 ---(0:20)--- 15:40 旅館雪国帰着

9月2日(月曜日)  天候: 晴〜雨〜曇り〜雨〜曇り、強風
利尻、鴛泊港 11:00 ===(東日本海フェリー)=== 12:40 稚内
昼食後14:00マツダ・レンタカーで出発。宗谷岬、猿払村、ノシャップ岬へドライブ 〜17:40。18:00ビジネスホテル21に宿泊。

9月3日(火曜日)  天候: 快晴、強風
駅前バスターミナル9:43 ==(バス)== 10:00 稚内温泉、童夢 12:20 ==(バス)== 12:35 稚内駅前バスターミナル 13:35 =(バス)= 14:00 稚内空港 14:50 ==(ANA574)== 16:40 羽田空港 ==(モノレール、JR、西武)== 19:00 入間帰着

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