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Data No. 74 / 75 / 76

 データ:
 登頂日: 2000年12月7日〜9日
 阿蘇山標高 1,592.4m (熊本県)
 祖母山標高 1,756.4m (宮崎・大分県境)
 九重山標高 1,791.0m (大分県)
 天候: 快晴
 登頂時の年齢: 46歳
 同行者: 単独行

 


阿蘇山・祖母山

九重山

 



【二十数年ぶりの九州へ】

  九州は、若い頃、夏休みに国鉄周遊券を使って楽しい旅をして以来、全く訪れる機会が無かった。安く行こうとすれば時間がかかり、速く行こうとすればお金がかかる。ところが最近、全日空が期間限定で全路線片道一万円の超割キャンペーンを始めた。そこで、大分往復の切符を購入し、やまなみハイウェイ周辺の山と温泉めぐりに出かける。
 

12月7日(木曜日)

【到着日に阿蘇山を一気に登頂】

  羽田空港を8:55発のANA191便で飛び立ち、10:35に大分空港着。空の旅は速くて快適だ。早速レンタカーの手続きをして、トヨタ・ヴィッツを借り、国東半島にある大分空港を出発。

  速見ICから大分自動車道に乗り、湯布院から「やまなみハイウェイ」に入る。やがてこんもりとした幾つもの峰を連ね、山腹から真っ白な噴煙を真っ直ぐ天空に立ち上らせる九重山群が行く手に現れた。本州でこれほど顕著な噴煙を上げる山を私は知らない。今日はその九重を通り過ぎ、阿蘇山を一気に登ってしまおうというもの。九重山群を過ぎると、広大なカルデラの平原を隔てて、雄大な阿蘇山群が前方に横たわる。

        
                         九重から見る阿蘇連山

  13:40、阿蘇山仙酔峡ロープウェイ山麓駅に到着したが、ロープウェイは整備点検のために運休中。どうりで人が少ないわけだ。がっかりしたが、駐車場には登山者の車らしいのが数台停まっている。土産物店の登山届を見ると、午後から入山した人もいる。コースタイムを見れば、明るいうちに登頂して戻ってくるのも可能なので、自分の足での登頂を決行。

   仙酔峡駅とカルデラを見下ろす

    樹木の生えていない阿蘇の山肌   

  13:50出発。ロープウェイ沿いとは反対側の仙酔尾根を高岳へ向けて直登する。見上げると黒褐色の山肌は樹木が無く殺伐とした眺めだ。草原につけられた道は、ルートが不鮮明だが、やがて草木が全く無くなり、岩だらけの尾根になると、明瞭なペンキの矢印が導いてくれる。脆そうな岩が多いので、地震が来たら怖いかも。周囲には誰もいない。尾根を登っていると、太陽光が真正面から射し込んで眩しい。片手で目を覆い隠して矢印を見失わないよう歩いた。

  やはり活火山だ。地底から噴出した灰や巨岩が山肌を覆い尽くし、樹木の生育を拒絶する。北アルプスのように岩の隅に高山植物の成長も許さない。ここは、ひとたび火を噴けば、閻魔大王が暴れまくり、灼熱の地獄と化す山なのだ。背後には先刻通過した噴煙を上げる九重山群の眺めが素晴らしい。阿蘇カルデラの底にある平原は、とてつもなく広い。この死の山の麓には、しっかりと人間の住む世界がある。

       阿蘇山、高岳山頂にて

  14:55、阿蘇山最高峰である高岳山頂(標高1,592m)に到着。人っ子一人居ず私だけの貸切状態。周囲は赤茶けた山肌が幾つもの起伏を見せ、中岳からは白い噴煙が立ち昇り、火薬のような匂いが漂う。喘息持ちの人は登るな、と麓の看板に書いてあった。

  
         不気味な泥流の痕、砂千里ヶ浜                     噴煙を上げる中岳火口)

   ゆっくりしたいところだが、日の短い季節なので、先を急ぐ。中岳山頂を経て、仙酔峡ロープウェイ山頂駅へと続く歩道があるので、そのルートで下山する。小走りに下り始めたら、途中でようやく3人連れの熟年登山者に追いついた。中岳の山麓には「砂千里ヶ浜」が、どす黒い氷河のように谷間を埋め尽くしている。

  一般の阿蘇山見物のスポットは、この仙酔峡ではなく、遠く火口の反対側に土産物屋や展望台が見えている付近らしい。火口見物が目的ならば、あちらの方が良さそう。しかし、阿蘇登頂を目的とするならば、私の歩いたルートしかない。しばらく下り続けると、高岳と中岳の山頂が夕日を浴びて赤褐色に輝く。そして、その上には月が出ている。きっと、あの月世界は、この阿蘇山頂の風景と大して違わないのではなかろうか。

       高岳と中岳を振り返る

  月世界のような阿蘇山頂を後に、ロープウェイ沿いの道を早足で下り、15:55駐車場に帰着。客が誰もいない土産物屋でバッヂを購入し、そこのおばさんの奨めてくれた「地獄温泉」を電話予約する。

  仙酔峡を下り、再びやまなみハイウェイに戻って阿蘇噴火口見物へのルートを登り、草千里を眺め、道標に従って17:25、地獄温泉「清風荘」に到着。東京より日暮れが遅いので、真っ暗な山道を運転せずに済んだ。

  地獄温泉はまさに秘湯であった。泉質や趣の異なる露天風呂が各所にあり、ハシゴ風呂を楽しめる。久しぶりに白濁した湯に浸かった。夕食は囲炉裏焼で、すずめまで焼いて食べた。冷たいビールを飲み、露天風呂を楽しみ、秘湯の一夜はあっという間に過ぎる。

 

12月8日

【高千穂、祖母山に登頂】

  山の朝はひどく冷える。ゆっくり朝風呂を楽しもうと思ったが、でっかいカメラで、浴客に断りもせず、しつこく露天風呂の写真を撮りまくる無神経な女性写真家に辟易する。こういうことはTPOを考えるべき。男性写真家が同じことをやったら決して許さないだろうに。

       阿蘇の草千里

  8:40、宿をチェックアウト。今日も素晴らしい快晴。阿蘇の山並みを見物しながら、カルデラの南側に下り、高千穂方面に車を進める。途中、高森町付近でコンビニを見かけたが、まだこの先にもあるだろうと思ったのが間違いだった。その先は商店が無くなり、昼食を買うことも出来なくなった。  

  五ヶ所高原を経て、国道を離れ、心細い砂利道の狭い林道を延々と走り、10:20、祖母山の北谷登山口に到着。昨日は、時間を惜しんで登山靴を履かずに阿蘇山を登ったが、今日はじっくりと歩きたいので、登山靴をしっかりと装着し、10:25出発。

    祖母山を目指す

      阿蘇山は寝仏そのもの  

  見晴らしの利かない樹林帯の登りだ。しかし、傾斜は比較的緩やかで足元も楽である。ここの登山道には約520mおきに「合目」標識がある。それが等間隔で、ペース配分も楽であり、山頂までの所要時間を知る目安になり、気の利いた設備だ。登山道はいつしか尾根道を行くようになるが、樹林帯の中は冬枯れしていても鬱陶しい。盛夏の登山だったらうんざりするだろう。途中、ようやく展望の利くところで阿蘇山が見えた。お釈迦様が仰向けに寝転んだ姿そのものである。

  傾斜が一時的に緩んだのが「茶屋場」というところ。昔、延岡藩士が登山の途中に茶を立てたところであり、宮崎、熊本、大分の県境となっている。道は一旦ゆるく下り、再び登り返したところに「国観(くにみ)峠」という芝の草原があった。ここで、初めて他の人を見る。行く手には、祖母山の三角形の山頂が初めて姿を現した。

  
            祖母山頂上下の草原                         人気の無い祖母山頂上

  相変わらず、特徴の乏しい山道を登り続け、12:05、祖母山頂上に到着。ここも私の貸切状態。阿蘇、九重の山並みを遥かに見渡し、近くには宮崎県の傾山の連山が広がる。たどり着いた山頂のその先は断崖絶壁であった。この山を反対側から眺めたらどんな景色なんだろう。

    祖母山から傾山方面を見る
 

  私自身、この山には特別な魅力を感じなかったが、この温かみを持った「祖母山」という名前に、一頻り懐旧の情が湧く。谷を隔てて「親父山」という山まである。今の自分には、祖母も親父もいない。昔、幼少期に自分を溺愛してくれた祖母や、早くに他界した父を想い出し、誰もいない山頂で、そのあまりにも寂しき山頂ゆえに、センチメンタルな物思いにふけった。

  陽溜りの山頂を楽しんだ後、避難小屋を経由するルートで下山する。13:45、駐車場に帰着。登山記念バッヂを探しに高千穂方面に車を走らせたが、全く土産物屋らしいものは無く、途中で諦めて引き返す。

  熊本県に戻り、高森町の「月廻り温泉館」で入浴。ここは、阿蘇山の眺めがまことに素晴らしく、地元の老爺達と一緒に阿蘇山を眺めながら汗を流す。その後、お釈迦様の頭の部分になる阿蘇山の根子岳の山麓を巻いて一ノ宮に出て、やまなみハイウェイを北上。このやまなみハイウェイは全く眺めの素晴らしい道路だ。

  
          地熱発電所のある九重筋湯温泉                  夕食は思いがけないご馳走が出た!

  17:20、地熱発電所の煙が立ち昇る九重筋湯温泉、八丁原(はっちょうばる)ヴューホテルに投宿。一泊二食8,000円であったが、夕食はなんと13品の料理がずらりと並んだ。これまで、この料金でこれほどのご馳走が並べられた旅館は記憶に無い。豊後牛の陶板焼きや牛刺もあり、熱燗酒を飲みながら大いに楽しんだ。風呂も貸切状態で、快適な一夜を過ごす。
 

12月9日

【九重連山を探訪】

  朝食後、8:15にホテルを出発。九重山は筋湯温泉からぐるりとUターンした長者原(ちょうじゃばる)というところが登山口だ。駐車場の水溜りはカチカチに凍結していて、うっかり上を歩けない。8:35、土産物屋の脇から登山開始。

  しばらく草原の中のコンクリート道を真っ直ぐ進む。週末なので登山者の姿は一昨日、昨日よりずっと多い。手が冷たくて、軍手をはめて歩く。時折、治山工事の大型トラックが工事現場へ向かうのを避ける。行く手にどっしりとした山が見えるが、これは久住本峰ではなく、三俣山。いつしか林道を離れ、冬枯れの草原を行く。草原の中の道は霜柱がすごい。シャリンシャリンと丈の長い霜柱を踏み潰しながら歩く。振り返ると長者原の平原がなだらかに広がる。

      長者原を振り返る

  再びコンクリート道に合流し、やがて治山工事現場の谷間へ下り、反対側の斜面に取り付く。右手には星生山の真っ白な噴煙が立ち昇る。ペンキの矢印を目当てに岩がガラガラの斜面を登り、登り切った所が「スガモリ越」という鞍部であった。ここでようやく久住本峰や中岳が谷を隔てて姿を現す。久住本峰へは、この鞍部から一気に谷間へ下る道をとる。

   
          治山工事用道路沿いに歩く                     盛んに噴煙を上げる山肌

      千里ヶ浜を進む

  下り切った処が、砂で平らに埋め尽くされた「北千里浜」である。「ガス滞留に注意!」との看板もある。火山ガスも危険だが、霧にまかれたらもっと怖い場所だ。矢印を見失わないように、広大な「浜辺」を右手に進んで行くと、いよいよ本峰への急登にかかる。太陽はまだ斜面の裏側にあり、陽光は射さない。従って汗もそれほどかかない。登り切ったところが「久住分れ」の分岐点。そこから久住本峰へは左手に進む。「本峰」とはいえ、背丈の同じような峰がいくつも並んでいるので、道標が無ければ、どれが久住本峰か分らない。

       久住山頂上にて

     彼方に由布岳の双耳峰 

  人の列が見える方に登って行き、10:20、久住山頂上に到着。標高は1,786.2m。山頂は岩の堆積した狭い場所だ。山頂で真っ先に目立つのは南の阿蘇連山だ。どこから見てもお釈迦様の横臥で神々しい姿だ。九重連山は、同じような形をして角の取れた山が背比べをしている。煙を吐く星生山のみが硫黄で変色した荒々しい姿を見せる。北の彼方には猫の耳のような双耳峰、由布岳が姿を見せる。そして、昨日登った祖母山を探したが、阿蘇山の左奥にあるシルエットの山並みの中で、どれがそうなのか視認出来なかった。

  
                       最高峰の中岳から久住山と阿蘇山を見る

  中腹を見下ろすと、数十人の団体が見えたので、混雑しないうちに先に進む。来た道を僅かに引き返し、分岐点から九重連峰最高峰の中岳を目指す。中岳の手前には全面結氷した山上の池があった。池を右側に廻りこんでも中岳に行けるが、他の人は左側の天狗ヶ城へ登るルートをとって行くので、私もそのルートを取ったが、痩せた岩稜をたどるので、やや緊張。

    
      九州本土最高峰の九重中岳山頂で                  結氷していた山上の池

  11:20、九重連峰最高峰、そして九州本土の最高峰である「九重中岳」山頂(標高1,791m)に到着。見える景色は大して変わるものは無いが、足元に坊がつるが見えた。ちょうど尾瀬ヶ原の雰囲気だ。

      
                         坊がつるを見下ろす

  中岳から坊がつるへのルートでは、全く人が途絶えた。道を間違えたのでは、と心配になるほど。足場のあまり良くない谷間の中腹につけられた道をぐんぐん下る。谷底に水は流れていない。しばし下り続けると、ようやく傾斜が緩み、穏やかな草原に出た。坊がつるである。最初に現れたのが法華院温泉山荘。ここで一浴するのが夢だった。300円払って入浴。ここも貸切状態。木造の浴室にある温泉は、ぬるめで硫黄の香りが漂う白濁した湯で、気持ち良かった。

   
        坊がつるの法華院温泉で入浴                 坊がつるを眺めながら休憩

  法華院温泉山荘前で、暖かい冬の日差しを浴びながらランチタイム。今朝、旅館で用意してくれた弁当はボリュームたっぷり、おかずも豊富で、別途用意した缶ビールと赤ワインと共にゆっくり楽しんだ。目の前に広がる坊がつるは、暖かい陽光を浴び、限りなく静か。この広大な湿原は6月頃、ミヤマキリシマの咲く時期には、山肌の色がピンクに変わるほどに花でいっぱいになるそうだ。機会があれば、是非一度そんな風景を見たい。

  ランチ後、坊がつるを散策しながら長者原への道を歩く。尾瀬と違うのは、今のこの湿原に「水気」がないこと。道は木道ではなく、コンクリート舗装されている。情緒は尾瀬に劣るかもしれないが、坊がつる賛歌を思い出し、「四面山なる坊がつる」の真っ只中に歩を進める。久住山頂に居た人々のほとんどは、坊がつるには来なかった。

    九重連山を後に、長者原へ戻る 

  坊がつるを抜けて樹林帯に入ると、猛烈なぬかるみとの闘いが始まった。やはりここは湿原だった。地中に水分があるので、夜間の冷えで形成された霜柱が陽光で融けて凄まじいぬかるみになる。そのぬかるみを避けるように潅木帯の中に細い道がある。こういう所には是非、尾瀬のような木道が欲しい。ぬかるみを避けるために他の場所が踏み荒らされないためにも。

  14:35、長者原に帰着。九重の山旅は終わった。車を出発させて途中で振り返れば、九重連山は初冬の陽を浴びて、名残惜しそうに私を見下ろす。ここはいつか、季節を変えてきっとまた訪れよう。

  この日は由布院を経て別府に向かう。途中、由布岳の中腹を走るが、その由布岳の夕日を浴びた素晴らしい貫禄のある姿には感動した。この山も将来はきっと訪れたい。

  別府では安いビジネスホテルに泊まり、数々の温泉名所を巡り、身体が浮く泥湯や砂湯も体験した。快晴続きの登頂成功を祝い、夕食は「チョロ松」という居酒屋で名物の「そば入りカモ吸」で一杯。その夜は、旅行に出て以来、初めて雨が降った。これまで三日間、本当に良い天気に恵まれ快適な山旅が出来た。お天道様と全日空様に心より感謝したい。■

 

やまなみハイウェイの山旅、行程表

12月7日(木曜)
入間6;35===8:10羽田空港8:55===(ANA191)===10:35大分空港
11:10レンタカーで空港出発===速見IC===湯布院IC===やまなみハイウェイ===13:40阿蘇山仙酔峡ロープウェイ駅13:50---(仙酔尾根)---14:55高岳(1,592m)15:00---15:10中岳(1,506m)---15:55仙酔峡ロープウェイ駅16:15===16:25一ノ宮温泉入浴16:45===17:25地獄温泉清風荘投宿

12月8日(金曜日)
地獄温泉8:50===高森町===10:20祖母山北谷登山口10:25---11:05五合目---12:05祖母山頂上(1,758m)12:30---13;45北谷登山口13:50===高千穂町へ往復===15:30高森町月廻り温泉16:00===17:20九重、筋湯温泉「八丁原ヴューホテル」に投宿

12月9日(土曜日)
筋湯温泉8:15===8:25長者原8:35---9:35すがもり越---9:40北千里浜---10:10久住分れ---10:20久住山(1,786.8m)10:30---11:10天狗ヶ城(1,760m)---11:20九重中岳(1,791m)11:30---12:20坊がつる法華院温泉13:10---14:35長者原14:40===16:05別府血の池地獄16:20===16:30鉄綸温泉やまなみの湯16:50===17:00明礬温泉別府保養ランド17:50===18:20ビジネスホテル、スターに投宿

12月10日(日曜日)
別府7:30===7:50別府亀川温泉8:15===9:10大分空港10:00===(ANA192)=== 11:30東京羽田空港===14:15入間、帰宅

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