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Data No. 73

 データ:
 登頂日: 2000年8月20日
 標高 1,870m
 場所: 山形県
 天候: 晴れ
 登頂時の年齢: 46歳
 同行者: NSさん、MKさん


朝日連峰

大朝日岳

 


忘れえぬ山行

  MKさん、NS君と、夏山登山をすることになり、山形・新潟県境の朝日岳をターゲットにした。この山行は参加した3人にとって、おそらく生涯忘れることの出来ない体験となった。

  朝日岳は新潟県と県境を接しているとはいえ、私の故郷の新潟県南部には縁が薄い山である。新潟市や下越地方を旅していても、私自身はこの朝日岳や飯豊山を視認したことも無かった。この朝日岳の名前「あさひ」は上越新幹線の列車名に採用されているが、私自身にはどうも馴染めない名前だ。個人的には上越新幹線の列車名は是非「とき」であって欲しい。
 

8月19日(土曜日)

朝日川を遡り、朝日鉱泉に

  朝から、一路東北道を北上し、福島からR13、米沢からR287を経て、山形県朝日町から朝日川をさかのぼる林道をたどり、16:00前に山間に佇む洒落た造りの「朝日鉱泉ナチュラリストの家」に投宿。

  朝日鉱泉は茶褐色で濃厚なぬるめの湯だ。真夏ゆえに、ぬるめの湯も苦にならず、快適入浴。夕食は山小屋の食事としてはまあまあ。長丁場の明日の登山に備え、英気を養うべく早目に床に入ったが、網戸をものともせず侵入してくる羽根虫のど根性には恐れ入った。かといって、窓を締め切ると暑い。
 

8月20日(日曜日)

大朝日岳の大周遊コースを歩く

  3:00過ぎ起床。朝食のおにぎり弁当を半分だけ食べ、ヘッドランプを灯し、朝日鉱泉の脇から朝日川に下り、傾いた吊橋を渡って、漆黒の林の中を歩く。ほどなく、大朝日の直登ルートから右に分かれる鳥原山への道に入る。いきなりジグザグの急登だ。風の無い樹林帯の登りゆえ、早くも汗が滴り落ちる。傾斜が少し緩み尾根道を歩む頃になって、ヘッドランプが必要なくなり、ザックにしまいこむ。この時は、よもやこのヘッドランプを再度使用する羽目になろうとは誰も思っていなかった。

      
                     鳥原山の途中で大朝日岳が姿を見せる

  鳥原山へはひたすら登れば到達すると思っていたが、やがて道は沢に向けて急降下し、折角登った高度をかなり下る。下り切った金山沢の渓流を渡り、鳥原山へ向けて登り直しとなる。これが結構ばてた。それに加えて、持参した昭文社の地図に記載のコースタイムは明らかにおかしい。我々の足が標準より決して遅いとは思えないが、予定時間になっても目的地に到達しない。登りきって、そろそろ山頂か思うと、更にその上に長い登り坂がある。結局、鳥原山へは予定より30分余計にかかった。

  鳥原山山頂は湿原になっていて、居心地の良さそうな小屋があった。ここに泊まった人に話を聞くと、大朝日には行かず、この鳥原山だけを楽しんで、そのまま下るのだという。決して最高点だけをハンティングするのではなくて、そういう山の楽しみもある。こんな小屋で星空ウォッチングでもしながら一夜を楽しむのも一興かも。

     鳥原山から目指す大朝日岳  

     大朝日岳手前にある小朝日岳

  水場で水筒を満たし先に進む。この鳥原山は一体何処が山頂か分からない山だ。なだらかな山頂部には幾つもの起伏があるが、何処にも山頂標識が無い。最後のピークと思われる場所に着いたら目指す大朝日岳がどっしりした山容をようやく現した。思わず感動の声が皆からあがる。今日は雲ひとつ無い快晴だ。ここでコーヒータイムを楽しみながら大パノラマに目をやる。黒々とした山肌のその大朝日は山腹にYの字形の大雪渓を抱えている。日本有数の豪雪地帯の山岳だけに、2,000mに満たないが、その風貌は北アルプスの3,000m級に決してひけをとらない。大朝日の背後には西朝日岳から以東岳などの新潟県境に続く稜線が、明るい緑色の山肌に豊富な残雪をいただいて姿を見せる。それにしても、ここから小朝日岳を経由しての道のりは、途方も無く長そうだ。

  日陰の無い稜線を歩く。すれ違う人々の数も増えた。鳥原山からぐんぐん下り、小朝日へ向けての尾根歩きと急登は汗が滴り落ち、辛い。しかし、目指す大朝日の勇姿が、励ましてくれる。9:20、小朝日岳山頂に到着。この頃から大朝日の山頂付近は雲に隠れ気味になる。しかし、西朝日方面は相変わらずの好天だ。15分休憩。MKさんは元気だが、NS君がややばて気味なのが、ちょっと気になる。ヘビースモーカーの彼は登山開始以来、珍しくタバコを吸っていない。

  目で見ると緩く下って、緩く登り返せば待望の大朝日に到達出来そうな稜線であったが、実際には、視界には入らなかった深い鞍部があった。小朝日からうんざりするほど急な下り坂が続いた。この下った以上の標高差を登り返すのかと思うと目の前が暗くなる。

     西朝日岳方面の稜線

   いよいよ大朝日岳本峰にかかる 

  下りきった鞍部が、ダケカンバの巨木が茂る「熊越の鞍部」。そこから、ようやく大朝日岳本峰の登りだ。いつしか、樹林帯は消え、ハイマツと花崗岩の露出した尾根道になる。右手の斜面には巨大な雪田がひろがり、涼風が吹く。そして、花畑が目を楽しませる。ニッコウキスゲの大群落が素晴らしい。そして、大雪田から尾根を挟んで左側に少し下ったところに、ニッコウキスゲや白い花々に洞窟の入口を飾られたような、「銀玉水」と呼ばれる水場があった。美味くてがぶ飲みした。そして、空いたペットボトルも満たしておく。

    
       大朝日岳斜面に咲き乱れるニッコウキスゲ                           銀玉水の水場

  やがて大朝日小屋を過ぎ、最後の踏ん張りで、標高1,870m、大朝日岳山頂にたどり着いた。11:35になっていた。約7時間半もの登行であった。ここでは、もうガスが漂い出し、遠望は利かなくなった。しかし、山頂を極めた喜びに変わりは無い。微風に吹かれて、軽い昼食をとる。朝食のおにぎりの残りを食べ、私はワインを少し飲んだが、NS君が完全にばて気味だ。あの飲兵衛がワインは要らないというし、タバコも吸わない。しかし、MKさんが心配して、おにぎりを熱いスープで流し込むよう促した。

           大朝日岳山頂にて


難行苦行の下山劇

  大朝日岳は登りも長ければ、下りもやはり長い。下山には朝日鉱泉への最短経路となる中ツル尾根ルートをとる。12:15、下山開始。もうひたすら下るのみ。しかし、予定では4時間だったこの下りが大変なことになったのだ。

  
       山頂から辿って来た稜線と大朝日小屋を見る                   尾根道を下山開始

  昔、じん帯を痛めたことのあるNS君の膝の痛みが次第に増幅し、満足に歩けなくなった。最初はゆっくり歩みを進めていたが、途中から痛みがひどくなり、しばしばしゃがみこんで停滞する。持参の塗り薬を頻繁に塗っていたが、それもやがて効かなくなった。尾根を下り2時間半で着くはずの沢に4時間以上かけて下った。そこから少しは平坦になると思った道は全く期待を裏切り、幾つもの枝沢を渡るたびに崖の斜面の急な上り下りを要求された。

  それでも、真っ暗になるまでには朝日鉱泉には着けると思っていた。しかし、歩みは次第に遅くなる。平坦な道ならば、NS君を背負って歩けるが、谷側に傾斜した狭い道では、それも許されない。とうとう日が暮れて、ヘッドランプを全員が再装着する羽目になった。標識を見ると一時間に1kmしか進んでいない。

  とっぷりと日が暮れた19時過ぎ、重大決断をして、MKさんに朝日鉱泉に救助要請に行ってもらう。道も多少は危険個所が少なくなったので、荷物を下ろし、NS君を背負ってしばらく歩き、適当なところでNS君を下ろし、荷物を取りに戻るということを繰り返した。救助に来てもらうにしても、多少でも先に進んでおいた方がいい。幸いそれまでのような崖下に傾いたような危険個所は無くなった。NS君を励まし、一歩でも二歩でも先に進むべくがんばった。疲れるとタバコをもらって吸った。すると何故か自分自身に元気が出てきて、悲観的な気分が消え去り、何とかなるという希望が沸いてきたものである。

  前方から懐中電灯の明かりが見え、朝日鉱泉のご主人、Nさんの姿を見た時は本当にうれしかった。もう平坦な道だから大丈夫だ、と励まされた。私の荷物を持ってもらった。そうすると、私の立つ瀬が無いので、最後の平坦路では、時間を節約するためNS君を背負い朝日鉱泉手前の吊橋まで小走りした。

  吊橋の反対側では朝日鉱泉の従業員の男性がバイクを用意して待っていてくれた。そして、8時間以上に及ぶ難行苦行の下山劇の末、20:20にようやく朝日鉱泉に生還した。NS君も私も、全身汗と泥だらけ。露出している皮膚は虫刺されだらけ。身も心もへとへと。MKさんがコップに水を汲んで持ってきてくれた。立て続けに2杯飲んだ。

  当初は下山後、何処か麓の温泉旅館に泊ろうと考えていたが、図らずも、もう一泊朝日鉱泉に世話になる。汗と泥で重たくなった衣服を脱ぎ捨て、温泉に浸かった。全身から一皮剥けるような快適な入浴だ。入浴後、玄関の土間を借りてラーメンを作り、ビールを飲む。NS君はビールを飲む元気もなく、ラーメンを部屋に持って帰り、眠りについた。私も疲労は極限だったが、無事に帰ってきた安堵感で精神が高揚していた。部屋に戻ってもワインをチビチビ飲んで、しばらくは眠りにつけなかった。
 

8月21日(月曜日)

谷間の彼方、朝日を浴びた大朝日岳

  朝日鉱泉での朝食は、安堵感で非常に美味しくいただいた。宿の人々に改めて御礼を述べ、ご主人N氏の著書「朝日連峰・山だより」を購入し、サインもいただく。

          
                       朝日鉱泉から仰ぐ大朝日岳

  朝食後、NS君がベランダでタバコを吸っているので私もMKさんも一緒に出た。谷間の奥に、すっくと聳えるスマートな山が見える。N氏に何という山かと尋ねたら、あれが大朝日岳だという。これには驚いた。鳥原山から眺めた大朝日岳は左右に大きく根を張ったどっしりとした山容だったが、ここから眺める大朝日岳はあまりにもスマートで非常に気高い姿を見せていた。見る角度によってこうも山の姿というのは違うものか。そして、大朝日の右肩にあった大朝日小屋は、ここから見るとものすごい急斜面に建っているように見えるのもとても不思議であった。

             朝日鉱泉ナチュラリストの家の前で

  ハイな気分ではしゃぎ気味の私とMKさんをさておいて、NS君はタバコをくゆらせ、大朝日岳を眺めながら無言だ。あんなひどい目にあった本人だから、黙って考えていることが分かるような気がする、などと言ったら傲慢か。こればかりは本人でなければ心の中を知る由も無い。朝日に燃える大朝日岳は、そんな人それぞれの心の葛藤を鷹揚に見下ろしていた。■

 

大朝日岳登山行程

8月19日(土曜日)
入間7:30===桶川駅8:30===(東北道)===福島12:00===R13===米沢=== R287===15:45朝日鉱泉ナチュラリストの家

8月20日(日曜日)
朝日鉱泉4:05---7:05鳥原小屋7:15---7:40鳥原山頂(1,430m)8:05---  9:20小朝日岳(1,648m)9:35---11:20大朝日小屋‐--11:35大朝日岳山頂(1,870m)12:15‐‐‐16:30三階滝出合‐--20:20朝日鉱泉

8月21日(月曜日)
朝日鉱泉8:15===長井市地場産業センター===11:00栗子温泉12:00===福島===東北道===17:10桶川駅===19:00入間

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