Data No. 59 |
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8月7日(金曜) ウミボウズ号、山へ
Yさんとピッカピカの我が新車ウミボウズ号に乗って夜の東北道を北上する。郡山から出来立てホヤホヤの磐越道を走り、猪苗代ICから裏磐梯を目指す。夜中の2時、檜原湖畔駐車場に到着。後部座席をフルフラットのベッド状にする。パワーは不足気味だが、広い車内は快適そのもので、大の男二人が身体を真っ直ぐ伸ばして横になって眠れる。パノラマルーフから星空を眺めつつ、心地良い眠りに落ちる。 8月8日(土曜) 西吾妻山登山 快晴に恵まれる。朝食後、車を西吾妻スカイバレーに乗り入れる。峠道を登って行くと、眼下に裏磐梯の湖沼群や磐梯山が箱庭のよう。峠を越えると、これまで登ったと同じくらい急降下し、下りきった所が白布温泉だ。午前8時で、天元台ロープウェイは、既に運転開始していた。 早速ロープウェイで天元台へ。テニスラケットを抱えた若者が大勢居た。我々はそこから更にスキー場にかけられたリフトを2回乗り継ぎ西吾妻山へ向かう。リフトの終点に9:20到着。早速登山道に足を踏み入れるが、きれいに整備された「遊歩道」といった感じだ。 中大巓(なかだいてん)の山の斜面を巻くようにつけられた樹林の中を登って行くと、やがて視界は大きく開け、快晴の空の下に明るい緑に包まれて緩やかにうねった広大な平原が足元に見えてくる。これが標高2,000mに達する山上の姿だろうか。行く手の西吾妻山は、極めてなだらかな隆起だ。
中大巓を振返る 快晴と大自然の美しさに気を良くして、足取りも軽く広い湿原に向かって下る。池塘が点在する緑の湿原には純白のワタスゲがまばゆい。黄色や紫の高山植物の花も可憐に咲き誇っている。 やがて道は西吾妻への登り返しとなる。ツガの針葉樹林の中をしばらく登って行くと、標高2,035mの西吾妻山頂上に着く。リフト終点から約90分の行程だった。頂上とはいえ、樹林帯の中で眺望はまるで無し。山頂標識の前で記念撮影を済ませ、展望の利く梵天岩というところまで引き返す。 東へ延びる吾妻連峰を望む 梵天岩は西吾妻山頂への途中にある、どうぞ展望はここでお楽しみ下さい、とでも言うようにゴツゴツした岩が露出した場所だ。眺めは素晴らしい。東側には吾妻連峰が、2,000mのスカイラインとなって緩く大きく波を打ち、太古から変らぬ原生林に包まれている。稜線の彼方には白い夏雲が湧いて流れる。ここで展望を満喫しながら、Yさんと待ちに待った缶ビールを開けて乾杯する。こんな場所でのビールは、どんな高級料理店で飲むよりも美味しい。 西吾妻を下り、湿原を経て、中大巓を再び登り返す。そしてリフトへの道を分けて「人形岩」を目指す。盛夏の陽光に汗を絞られ、先刻のビールの酔いが息を切らす。Yさんがやや遅れ気味になったが、無事に人形岩に到着。その人形岩は、人形といえば人形に見えないこともないが、やや苦しい命名の代物だ。周囲は大賑わいだ。中高年グループや家族連れがリフト終点から続々と繰り出してくる。そしてここを吾妻連峰の最高峰だと誤認している人がかなり居た。この喧騒の中で、お湯を沸かし、Yさんが持って来てくれたカップラーメンを昼食とする。 人形岩から反時計回りのコースでリフト乗り場へ戻り下山。白布温泉はかなり標高の高いところにあるのだが、今日は炎暑で、爽やかな山上から下ると蒸し暑さがつのる。ロープウェイの駅員に教えてもらい、白い湯の花が漂う無料の共同温泉浴場で山の汗を流す。ほとんど貸し切り同然だった。教えてくれた駅員の話では、「混浴だから運が良ければ女性が居るかもしれませんよ...」とのことだったが。 米沢へ下りR13を北上し、16:45に蔵王温泉、紀州鉄道「ホテル蔵王」に投宿し、ゆっくりと休養。夕方から台風10号接近で荒れ模様になった。明日はもともと移動日だから、我々に大きな影響は無い。 8月9日(日曜日) 鳴子温泉へ北上 かなりの強風と雨に見舞われる。台風は日本海側を北上中なので、今日中に天気は回復するらしい。ルート選定に迷ったが、蔵王越えルートをとる。何も景色の見えない蔵王エコーラインを越え、遠刈田(とおがった)温泉で入浴し、村田ICから東北道を北上する。古川ICで降り、15:25、鳴子温泉郷の山中にある鳴子サンハイツに到着。夕刻には青空が戻ってきた。 8月11日(月曜日) 栗駒山登頂 5:40車で出発。秋田県に通じる国道398号の山道をハンドルを忙しく切りながら栗駒へ向かう。霧が山中に澱んでいて、何となく心細い。栗駒有料道路のゲートで料金を払おうとしたら「7時まではいいですよ。ぎりぎりセーフ!」と係のおじさんににっこり笑われ、時計を見たら6:55であった。とても得した気分だ。 7:05、硫黄の臭いが漂う須川高原温泉に到着。霧は晴れず、展望は無かったが、ハイカーが大勢居る。我々も折角来たのだから、登頂を決意。7:35、出発。ここは岩手県側のルートだ。 旅館脇の湯気が濛々と湧き出す池の傍を過ぎ、ブッシュの中を緩く登って行くと「名残ヶ原」という広い湿原に出る。初夏には素晴らしい花畑らしい。木道の敷かれた湿原を渡り、再び上り坂になると、火山性ガスで樹木が立ち枯れた沢沿いを行く。行く手は厚い雲に閉ざされているが、雲の流れが速いので期待は持てそうだ。 青緑色の水を湛える昭和湖 一旦傾斜が緩むと異様な青緑色の水を湛えた「昭和湖」が現れる。昭和19年の噴火で出来た火口湖だそうだ。この付近から傾斜がきつくなり、汗が吹き出て息が切れる。苦しい登りを辛抱し、やがて頂上への稜線へ続く「須川分岐点」に出る。 分岐点からルートを左にとり、しばし頑張ると、待望の1,627.4mの栗駒山頂上だ。須川高原温泉から2時間弱の登りであった。標識は栗駒山ではなく「須川岳」となっている。山頂は強風で、上空の雲が凄まじい速さで飛んでいる。次第に明るくなり、時折青空も出る。しばらく我慢して頂上で待っていたら、突然足元の霧が吹き飛び、宮城県側の登山道がきれいに見えてきた。そして蟻のように列をなして登ってくる登山者の姿が見える。深い緑の原生林が果てしなくどこまでも広がっているのが見える。もっと晴れるかと期待したが、再び山頂はガスに閉ざされてしまった。 天候は明らかに回復基調だが、強風が耐えがたく昼食を楽しめる状態ではなかったので、下山を開始した。案の定、かなり山を下った頃になって急速に天気が回復してきた。振り返れば、こんもりとした栗駒山頂が眩しいばかりの青空の下に姿を見せてきた。そして我々も暖かい陽射しに身体を包まれる。ガスの中を心細い思いで見た景色が、まるで全く別の場所のようにその色彩を明るく変える。 名残ヶ原と栗駒山の全景を正面に眺められる「日光浴岩」というところでランチタイム。所々岩の隙間から、地熱の蒸気が吹き出ている。緑一杯の風景を眺めつつ、昼寝でもしたくなるような快適な場所だ。 正午に須川高原温泉に帰着し、温泉で汗を流す。白濁した強烈に酸っぱい湯が大きな浴槽に溢れている。浴槽の真ん中に男女の仕切りとなる申し訳程度の衝立があるだけ。浴槽の奥へ行けば、女湯がもろに見えてしまう構造だが、さすがに誰もが遠慮して奥には行かない。 往路を鳴子へ戻る。往路はガスで何も見えなかったが、「湯浜峠」という場所からは見事な栗駒山の展望が待っていた。鳴子へ帰着後、鬼首(おにこうべ)温泉の間欠泉を見物する。この園内には露天風呂があり、それが目当てだったが、生憎清掃中で入浴出来ず。炎天下、ソフトクリームがやけに美味しかった。 8月11日(火曜日) 秋田駒ヶ岳と乳頭温泉郷探訪 鳴子温泉を6:00出発。R108を湯沢市へ出てR13を北上するが、町に入るたびに渋滞し、ひどく時間がかかった。ケチらずに東北道を北上したほうが余程時間の節約になった。鳴子から4時間もかけて10時前に漸く秋田駒ケ岳八合目に着いた。好天は持続しそうだ。 標高1,300mの八合目まで車で入れる秋田駒ケ岳はかなり人気があり、駐車場はほぼ満杯。支度を整えて、10:10出発。明るい緑の笹原に全身を包まれた山が眩しい。その山がこの連山の最高峰「女目岳(おなめだけ)」だ。道は女目岳をぐるりと反時計回りに登るようにつけられていて、子供連れなどで喧しいほど賑わっている。 カンカン照りの上り坂は、容赦なく汗をしぼりとる。時折吹くそよ風が汗ばんだ身体を冷してくれる。足元には大きな鏡のような田沢湖の円形の湖面が光っている。しかし、田沢湖は湖周がすっかり観光地化されていて、大自然の絶景とは呼べない。田沢湖の遙か彼方には白神山地の輪郭も浮き出ている。 田沢湖の湖面が光る 女目岳を半周して登りついた所が、男岳と横岳との3つの峰に囲まれた山上の池「阿弥陀池」だ。静かな湖面に周囲の緑の山を映し出し、湖水は見事に澄んでいた。池の畔に付けられた木道を歩いて行くと女目岳本峰の登り口だ。 麓から見ると隙間無く緑に被われていたこの山は、登山道の所だけが無残にも、かなりの幅で禿げている。人間が足を踏み入れると、どうしても自然破壊になる。登山者としては定められたルートを守り、これ以上自然を破壊しないように心掛けなければならない。土砂の流出防止の為に階段状に無粋な木柵が設けられているが、一旦禿げた斜面は復元が容易ではない。 秋田駒ヶ岳の女目岳山頂にて ゆったりとした八幡平の山稜 八合目から約1時間で、絶景の広がる女目岳(1,637.4m)に到着。360度の大展望が待っていた。幾つもの峰を隆起させる、まろやかな広がりを見せる秋田駒ケ岳の山頂台地、東には八幡平、岩手山、栗駒山の姿、麓には田沢湖の湖面。周囲には峻険な岩山は無く、ことごとく優しくゆったりとした起伏に囲まれている。そして山々の麓は、濃い緑の広大な原生林が、人間の侵略から気高い山々を護っている。東北の大自然の素晴らしさに感嘆を禁じえない。 こんなに楽に登ってしまえる美しい山が、都会から遠い場所で本当に良かったと思う。奥多摩、秩父、丹沢の凡山でも、あれだけ大勢の人々に踏まれているのだから、この山がもっと東京に近かったらと思うとぞっとする。 この山を極めたければ、女目岳だけでなく乳頭山方面にでも縦走するのだが、我々はゆっくりと景色を楽しむひとときを選ぶ。阿弥陀池へ下り、池の畔でランチタイム。炒飯にボンカレーをかけたもので腹を満たし、薫り高いコーヒーを淹れる。女目岳が湖水に映り幻想的である。
まだ時間も早いので、一番奥から「大釜温泉」、「黒湯」、「孫六温泉」の3箇所を探訪した。それぞれがひなびた一軒宿で異なる湯質の温泉を持つ。 下山後は、乳頭温泉郷の湯巡りを楽しむ 今宵の宿は田沢湖高原温泉に宿を取ったのだが、予約した宿の手違いで、隣の別の宿に泊ることになった。「ホテル鷲駒」という食堂も兼ねている民宿である。予約した宿より、ずっときれいで新しいので、まあいいか。他に客は無し。あまり喋らない南方系の風貌の男が経営していた。しかし、この宿の夕食は素晴らしかった。キリタンポ鍋、山盛りの焼肉、その他色々出て、二人とも腹がはちきれそうなほど食べた。 日の長いこの季節、食後に部屋で横になって窓の外を見ると、秋田駒ケ岳が夕空に映えていた。 8月12日(水曜日) 故郷へ向かう 9:20に宿を出発。最後の温泉「鶴の湯」を探訪。ここは乳頭温泉でも一番有名な所で、風呂の数も規模も最大である。人出も群を抜いている。ひなびた和風長屋のような建物の傍に大きな露天風呂が幾つもあり、それぞれに泉質が違う。浴客はいろいろな浴槽をハシゴする。お日様の下で何も遮るものの無い大きな池のような露天風呂は、ほのぼのとした開放感が漂っていた。 鶴の湯を堪能したあと、一路新潟へ向かう。大曲からR105を西進し、羽後本荘からR7を日本海沿いにひたすら南下。途中、仁賀保で昼食休憩した他は、ひたすらハンドルを握っていた。浦佐駅でYさんを降ろし、夜9時過ぎに十日町の実家に到着。快晴に恵まれた東北の山旅にピリオドを打つ。■
'92 東北の山と温泉巡り行程 8月7日(金曜) 8月8日(土曜) 8月9日(日曜) 8月10日(月曜) 8月11日(火曜) 8月12日(水曜) 8月13日(木曜)〜
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