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Data No. 53 & 54

データ:
登頂日: 1990年8月12日
薬師岳標高 2,926m
黒部五郎岳標高 2,840m
場所: 富山・岐阜県境 (北アルプス)
天候: 晴れ
登頂時の年齢: 36歳
同行者: 単独行

 

薬師岳

黒部五郎岳

雲ノ平

(北アルプス中庭周遊)


  昨年、北アルプス裏銀座コースを歩いた時に見た「黒部五郎岳」の雄姿と「雲ノ平」ののびやかな平原が印象的だったので、その2箇所を今回のハイライトとするべく恒例の北アルプス山行を計画した。

8月10日(金曜)   旧盆帰省ラッシュの中を北アルプスへ 

  日中、台風11号が関東を縦断し、雨風が暴れまくった。夕方になって漸く天気が回復し、終業後一目散に帰宅。21:30に自宅出発。台風通過を待っていた旧盆帰省の車で、関越道は夜なのに大変な通行量だ。渋滞を避けるべく途中一般道を走ったので、大分時間をかけた。北陸道立山ICを降り、有峰林道入口に着いたのは、空がうっすらと明るみ始めた4:10であった。ところが、ある程度予想はしていたが、林道は朝6時まで夜間通行止め。無休憩で走ってきた身には、丁度良い「休め」の命令だと言い聞かせ、ゲート前の駐車場に車を停めて後部座席にしばらく横になる。10台程の先客がいた。

8月11日(土曜)   太郎平へ登る 

  朝5:50、林道ゲートがバスの到着と同時に開く。\1,230を払い、タクシーに次いで林道に入る。かなりの坂で、くねくねと曲がっている狭い林道だが、対向車が全く無いので楽だ。30分程登って行くと、突然とんでもない立派な道になり、有峰ダムと有峰記念館が姿を現す。途中が途中だけに、別世界に躍り出たよう。登山口の折立は、そこから再び狭い林道を10分程登ったところだ。

  6:40、折立キャンプ場の駐車場に到着。大勢の人が出発準備をしていた。バスやマイカーが続々到着し、夥しい数の人が来る。ラジオを聴くと、富山県地方に雷雨注意報が出た。それが証拠に雨がパラパラ降り出した。台風一過の快晴を期待していたのに...。身体は徹夜運転ですっかり疲れていて、睡眠を要求していた。雨具を付けて歩く気になれず、もう一眠り。

  11時過ぎ、目を覚ますと雨はあがり、空は明るさを取り戻していた。しかし蒸し暑くて身体はねっとり汗ばむ。朝あれほど賑わっていた駐車場は、シンと静まり返り、無人の車が広場を埋め尽くしていた。これからでも充分に太郎平小屋迄は行ける。11:50に漸く私も歩き出す。

  登山口から「太郎坂」と呼ばれるブナ林の中の急坂を登る。本当に蒸し暑い。ここは既に標高が千mを越えているのに、台風の運んできた湿った南風の影響だろうか。タラタラと汗がにじみ出す。

     
                                        
          快適に過ごせた太郎平小屋

  思い切り汗をかきながら約1時間登ると、1,870.6mの三角点に到達。そこからは樹林帯ながらも尾根道となり、心地良い風に吹かれて多少楽になる。やがてその樹林帯も抜けると、更に広い草原状の尾根になり、展望が開ける。左の薬師岳方面は厚い雲に覆われているが、今宵の宿「太郎平小屋」が行く手の稜線に見えてきた。目標が見えてくると足取りも軽くなる。池塘の点在する草原の緩やかな斜面をラストスパートし、15:10に太郎兵衛平と呼ばれる広い稜線に建つ太郎平小屋に到着した。

  小屋は比較的空いていて、寝不足の身体を充分に休められる一夜となった。

 

8月12日(日曜)   薬師岳を往復後、黒部五郎岳へ 

  念願叶い、空はすっきり晴れ上がった。薬師岳、裏銀座の山々がくっきりシルエットになって浮かぶ。薬師岳を目指し、4:50小屋を出発。緩やかな草原を経てカラフルなテントにぎっしりと埋め尽くされた薬師峠キャンプ場を通過し、薬師岳へ向かう樹林帯に入る。しばらく、足場の悪い沢沿いの急坂を喘ぐ。

  
         
       広々とした薬師平付近                          薬師岳への登り

  樹林帯を抜けると薬師平に出る。行く手には薬師岳が堂々と聳え、深い谷を挟んで雲ノ平、水晶岳方面がすっかり見渡せる。でも、何かおかしい、何故だろう...。陽が高く昇り、山肌が明るく見えるようになって漸く分った。残雪が無いのだ。例年ならば、北アルプス高峰の沢筋や圏谷には豊富な残雪があって、黒い岩山と白い残雪のコントラストが美しいのだが、今年は山肌が黒々としている。暖冬と空梅雨、それに加えてこの夏の猛暑が、一万尺の北アルプス稜線にも大きな影響を与えている。昨年はたっぷりと中腹に残雪を乗せていた薬師岳も、見渡す限り灰白色の「砂利山」である。高山植物の花も、今年は心なしか乏しい。

    彼方に槍穂高連峰  

     黒部五郎岳の後ろに笠ヶ岳   

     
                    薬師岳の氷河圏谷                        薬師岳山頂にて

  この砂利山の急斜面をジグザグに登る。やがて鞍部に薬師岳山荘が現れ、更に30分登ると待望の薬師岳頂上だ。午前6:30。標高2,926mの山頂からの眺めは素晴らしい。昨年歩いた裏銀座の山々が手に取るように見渡せ、南東には雲ノ平を挟んで槍ヶ岳が天を突く。これから辿る黒部五郎岳への稜線も明るく気持ち良さそうだが、距離は相当ある。ただ、立山へ続く北側は雲の中だ。足元には、太古の氷河が残した圏谷群が見下ろせる。その中で最も大きな金作谷圏谷の底に、僅かに残雪が白く光っていた。

  頂上の薬師如来にお参りし、ごく簡単に朝食をとる。今日の長い行程を考えると、憧れの黒部五郎岳には、是非とも天候が崩れない内に辿り着きたい。30分程で山頂を後にして、太郎平まで往路を戻る。

  陽は高くなり、テントの数はすっかり減っていた。8:25、太郎平小屋を通過し縦走路に入る。小屋のすぐ裏の太郎山を通過。北ノ俣岳に続く広い稜線は明るい緑と花に包まれ、池塘の点在する美しい草原だ。草原を過ぎ、一頻り登ると北ノ俣岳頂上(2,661.2m)だ。振り返ると、先ほど登ってきた薬師岳が大きく根を張り圧倒的に巨大な山容を誇る。行く手には黒部五郎岳が黒々と聳えている。

   太郎山を越え、北ノ俣岳を目指す

         北ノ俣岳から薬師岳を望む  

  緩やかな稜線歩きかと思った黒部五郎岳への道は意外と起伏が多くて、しかも長くて辛いものだった。やはり朝一番の薬師岳往復でかなり体力は消耗した。黒部五郎本峰の登りを控えた中俣乗越で大休憩をとり、パイナップルの缶詰を食べる。

   黒部五郎岳山頂を目指す

  黒部五郎岳の圏谷を見下ろす 

  黒部五郎岳の大斜面をジグザグを切りながら登る。とうとうガスが発生してきて、頂上が隠れ始める。黒部五郎の肩に出ると、ここで初めて大きなスプーンで抉り取られたような東面の圏谷を見下ろせる。多くの人はここに荷物を置いて山頂を往復する。待望の山頂迄は15分足らずだった。大きな岩の塊がゴロゴロしている標高2,839.6mの山頂からは、足元にスパッと切れ落ちた巨大な圏谷を見下ろせる。縦に幾つもの筋が入った岩壁が、屏風のような絶壁を形成している。ガスが時折晴れると、対岸の雲ノ平山荘が見え隠れする。遠くの視界は利かなくなったが、迫力のある頂上でのひとときを楽しんだ。

    
         ガスが湧き出してきた黒部五郎岳山頂で               雲ノ平が時折姿を見せる

  山頂から肩まで引き返し、そこから屏風の縁をしばらく進み、右側の圏谷に下る道をとる。雪渓の残る圏谷の底に立つと、豪壮な黒部五郎の岩だらけの山容に思わず見惚れる。雪渓から流れる清流はきりっと冷たい。「羊群岩」と呼ばれる大きな岩がゴロゴロ点在する圏谷の底を、川に沿って黒部五郎小屋を目指す。何処から振り返っても、黒部五郎岳の姿は超然としていて魅力的だ。

          
                                                        圏谷の底にある巨大な落石跡

   
                      圏谷の底から山頂部を仰ぐ                                 残雪豊富な谷底

  黒部五郎小屋への道は長かった。15:40、ようやく明るい草原の中に建つ小屋に到着。人が少なくて、のんびりとした雰囲気だ。荷物を降ろし、小屋の前で黒部五郎岳を眺めながら旨いビールを飲む。大阪から来たという50歳位のおじさんと山談義に花を咲かせる。彼は三年前から百名山を目指して山登りを始めたそうで、現在は15山を達成したそうだ。百名山全部を達成するには約200万円の交通費がかかるとのこと。

    黒部五郎小屋前で   

  私自身にも百名山登頂は「夢」であるが、高額な交通費をかけて遠い離島の山まで登るのは無理であろう。それでも既に54山登ったことは、おじさんには言わなかった。深田久弥氏個人が選んだ百の山ばかりを狙うのは、山登りの楽しさの本質を見失いそうで私は疑問を感じるが、人生の盛りを過ぎた中高年の人が、こんなに目を輝かせて目標に向けて意気込んでいるのを見ると、それはそれで好ましいことではないか。夕食後も、このおじさんにコーヒーをご馳走になり山談義を続けた。この小屋の親父さんは、仙人ヒゲを生やした温厚な人で、泊り客の話に気軽に加わってくる好もしい人だった。

8月13日(月曜)     憧れの雲ノ平を一気に踏破 

  早朝目を覚ますと、空は曇っていた。天気予報では大きく崩れることはないとのことだが、やはり気が滅入る。自炊で軽い朝食をとり、予定よりも遅れて5:35に小屋を出発する。目標は雲ノ平だ。

   晴れ渡った空の下、三俣蓮華岳

           雲ノ平の祖父岳  

  三俣蓮華岳への樹林帯の中の急坂に取り付く。無風の樹林帯の中は、ハエや羽根虫が顔の周りにまとわりつき、息の切れる登りの不快さを増長させる。やがて樹林帯を抜け、周囲がハイマツに変わってくると視界が開けて、空にも青さが増してきた。風に吹かれるとうるさい虫も姿を消す。既に登頂した三俣蓮華岳山頂は敬遠し、三俣山荘への巻き道を下る。空は見る間に晴れ上がり、黒部五郎岳も姿を見せてきた。行く手には鷲羽岳の姿も雄々しく、雲ノ平の草原は明るい緑色に輝く。滅入っていた気分はすっかり晴れた。

  7:25、三俣山荘に到着。槍ヶ岳を眺めながら小休止。7:40、雲ノ平へ向けて出発。黒部川源流に向かって勿体無いほどに下り、冷たい源流の水で喉を潤し、再び急峻で滑り易い坂を登る。あごが出そうな辛い登りだった。逆方向から来る客が多く、道の譲り合いを繰り返し、ペースも乱れる。

           
                                               
第一雪田から槍ヶ岳を見る

       
                                                                       雲ノ平から見る黒部五郎岳

  傾斜が漸く緩むと、雲ノ平の第一雪田だ。カンカン照りの日差しに焼かれた首筋や腕を雪をすくって冷やす。祖父岳登頂は割愛し、雲ノ平山荘を目指す。「○○庭園」といろいろ命名されている雲ノ平であるが、登山道はぬかるみがやたらと多かったり、靴底に不快な岩の上歩きが続いたりで決して快適ではない。救いは目の前に聳える水晶岳の偉容と、昨日登った黒部五郎岳の引き締まった姿に見守られていることだ。楽しみにしていた雲ノ平そのものには、不思議と感動しない。

   
             庭園の中にある雲ノ平山荘                            雄大な水晶岳

  10:00、雲ノ平山荘でひと休み。ここも人で溢れていて、のんびり休めない。小休止のみ。正面に太郎山と太郎平小屋を眺めつつ、丸みを帯びた岩がゴロゴロ転がっている「アルプス庭園」を歩く。この付近はなかなか良い雰囲気だ。しかし、この時既に強行軍だが、今日中の下山を決意した。足をひたすら交互に動かし先を急ぐ。針葉樹が点在する不思議な眺めの「アラスカ庭園」を過ぎ、脳天までズシリと来る鬱蒼とした樹林帯の急下降が始まる。これでもか、これでもかと容赦無い木の根をからむ滑り易い急斜面の下りが延々と続いた。

  
           
    雲ノ平からの太郎山                            雲ノ平山荘と薬師岳

  へとへとになって、12:25薬師沢の河原に到着。体力を考えれば、ここの小屋で一泊した方が良いのだが、既に目標を失った私は下山しか頭に無かった。一息ついて、薬師沢に沿って再び太郎平への登りにかかる。途中までは沢沿いの緩やかな登りだったが、最後の太郎平への急登には本当にへたばった。稜線の縦走に比べたら、今日は標高差がとても大きな上り下りの繰り返しだ。太郎平小屋の発電機の音が聞こえ出しても、なかなか到着せず、本当に苦しかった。14:35、ようやく小屋に着いた時には、もう一泊しようという誘惑につい負けそうになった。しかし、同じ小屋に泊まるのも面白くない。ビールを飲んで元気を取り戻す。

  出発準備をしていると、俄かにゴロゴロという雷鳴が遠くで響いた。疲労で冷静な判断力を失っていた私は、すぐに駈け足で下り始めてしまった。しかし、雷雨時に何の陰も無い広い草原の中を歩くことの危険性に、しばらくしてから気付いた。雨がとうとう降り出した。雨なんて怖くないが、やはり雷は恐ろしい。今更戻るわけにも行かず、一分一秒を惜しんで一目散に下った。幸い雷は近くに来なかったものの、雨が止んでも、いつまでも遠雷の音が絶えず、私を安心させなかった。

  稜線から離れて、折立への急坂を下るようになり、漸く安心。あれだけ疲れていた身体に、よくもこんな力が残っていたものだ。16:35、足を棒のようにして折立キャンプ場に帰着。休憩所の自動販売機で、ジュース類を3本立て続けに飲み干す。こんな阿呆みたいな強行軍は、もう二度と止そう。

  自然保護精神に反するようだが、やはり車は便利だ。乾いた衣服に着替え、バスの時間を気にする必要もなく山を下って来れる。その気になれば、雨露をしのいで眠ることも出来る。当然、この日の下山バスはとっくに終っていた。

  あまりにも慌しい最終日であったが、ゆっくりと林道を下り、その日の内に十日町の実家に帰省する。久し振りに旧盆の墓参りが出来た。■

 

北アルプス中庭の旅行程

8月10日

入間21:30 === 関越道、月夜野 == R17、R253 === 2:10 上越IC === 北陸道 === 3:40 立山IC === 4:10 有峰林道ゲート前

8月11日
林道ゲート前 5:50 === 6:40折立キャンプ場11:50 --- 12:55 [1,870.6m三角点]13:05 --- 15:10 太郎平小屋、宿泊

8月12日
太郎平小屋 4:50 --- 5:05 キャンプ場 --- 5:55 薬師岳小屋 --- 6:30 薬師岳(2,926m) 7:05 --- 8:15太郎平小屋 --- 8:25 太郎山(2,373m) --- 9:40 北ノ俣岳(2,661m) 10:00 --- 12:30 黒部五郎岳肩 --- 12:40 黒部五郎岳(2,839.6m) 13:10 --- 13:50 圏谷 14:10 --- 15:40 黒部五郎小屋、宿泊


8月13日 
黒部五郎小屋 5:35 --- 6:30 分岐点 --- 7:25三俣山荘 7:40 --- 8:05 黒部川源流 8:15 --- 8:45 雪田--- 10:00 雲ノ平山荘 10:15 --- 12:25 薬師沢小屋12:35 --- 14:35太郎平小屋 14:40 --- 15:40 三角点 --- 16:35折立キャンプ場 16:50 === 18:00立山IC ===北陸道=== 19:20 上越IC === 20:35 十日町に帰省、墓参

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