Data No. 52 |
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北陸地方にあっては、抜群の知名度を誇る名山であり、東京と金沢を結ぶ特急列車にも命名されている「白山」である。各地の名山を登ってみたい私にも、避けては通れない山であった。いろいろ調べると公共交通機関では、登頂が大変であるが、マイカーを使えば、山そのものは登山口から日帰り出来そうだ。免許取得後ようやく一年、これまではなかなか思い切れなかった地へもフットワークが良くなった。どうせならば、滋賀県の伊吹山もついでに登ってみるべく計画を立てた。 7月27日(金曜日) 西へ西へドライブ 朝8:40、入間を出発。中央道〜名神道を延々と走り続け、14:30に関ヶ原で降りる。ところが、伊吹山ドライブウェイの入口まで行ったが、工事中で通行止との表示。せっかくはるばるとやって来たのに、しかも夏休みに入ったというのに、何ということだ。ひどくがっかりしたが、誰にも文句を言えず、仕方無くR365を琵琶湖方面に向かう。 木ノ本から琵琶湖を眺めながらR8を福井へ向かう。敦賀からは日本海を眺めながらのドライブだ。福井市内のスーパーで食事し、R416を勝山に向かう頃、日がとっぷりと暮れた。勝山から更にR167を北上し、白峰温泉から林道に入り、白山温泉に20:30に到着。白山の登山口は、まだずっと奥なのだが、ここで係員に車を停められる。聞くと、この先は夜間通行止めで、駐車場が狭いので明朝8:00のバスまで待てという。そんな規制情報など聞いていなかったし、8時まで、のんびりバスなど待っていたら、日帰りが出来ないと突っ込んで聞いたら、午前4時になれば、上の駐車場に停められる分だけ車を通してくれるとのこと。 仕方なく、そばの駐車場で夜を明かす。ビールを飲んで、後部座席に横になる。真夏の人里ゆえ、窓ガラスを閉め切ると暑い。しかし、窓を開けると大量の蚊や羽根虫がたちまち押し寄せる。灯りを消した後で、そっと窓を開けて外気を入れる。深夜にかけて、この駐車場には夥しい数の車が到着した。マイカー規制をしているのか、していないのか、もっと来る客に周知徹底するべきだ。 7月28日(土曜日) 快晴下、霊峰白山を登頂 車がエンジンを吹かす音で目が覚める。外を見ると、2〜3台の車が前夜まで閉鎖されていた林道を登って行く。私も慌てて寝ぼけ眼をこすり、車のエンジンをかける。予定よりも早く、3:45にゲートが開いたのだ。真っ暗な林道をライトを照らして登って行く。これで充分に日帰りが可能になった。登山口の別当出合の駐車場には、続々とエンジン音を轟かせて車が到着した。空も漸く明るくなってきた。 朝食にパンをかじり、4:45に登山口を出発。天気は良い。駐車場から10分ほど登ると休憩所とバス停があった。ここの標高は1,260mだが、2,702mの山頂までは標高差1,500mも登らなくてはならない。 休憩所から登山道に入り、「観光新道」を左に見送り、階段を下り、別当谷に架かる吊り橋を渡る。「砂防新道」ルートを登り、下りに今分けた「観光新道」を歩くつもりだ。吊り橋を渡るとすぐに樹間の尾根道を登る。朝一番で息は切れるものの、山の冷気が心地良い。次々に先を行く人々を追い越して、快調に登れた。やがて道は一旦車道に合流し、再び「中飯場」というところから山道となる。6:25、甚ノ助ヒュッテに到着。無人小屋だが水場があり、大勢の人が休んでいた。 ピンクのハクサンフウロ カラフルな花畑の中腹 上の方から駈け足で下ってくる白装束の男が居る。丁寧な挨拶と共に私の前で立ち止まり、「白山室堂の者ですが、今日は室堂にお泊りになりますか?」と訊く。宿泊者の数を調べているようだ。「いえ、日帰りの予定です。お疲れ様です」と答えてやり過ごす。ゆっくりしたいのはやまやまだが、信仰登山の山は木曽御岳で懲りているので、長居はしない。それにしても、礼儀正しい男の態度には好感を持った。 やがて登山道は森林限界を過ぎ、行く手に「黒ボコ岩」が見えてきた。眺望も良くなった。「十二曲り」の急坂をジグザグに登り、「延命水」の清水で喉を潤す。黒ボコ岩の上に出ると、初めて目指す白山御前峰が弥陀ヶ原の彼方に姿を現した。火山地形でアルペンムードは乏しいが、どっしりした山容だ。花が咲き乱れる弥陀ヶ原の水平道を突っ切り、ひと登りすると室堂だ。 8:00、室堂に到着。大きな宿舎と白山比(しらやまひめ)神社に囲まれた広場は、夥しい数の登山者で賑わっていた。神社に参拝し、お守りを買った。晴天に恵まれたので、少しは神仏に感謝したい。 早速、御前峰の登りにかかる。ハイマツに覆われた砂利道の斜面を約30分で頂上だ。8:50に到着。信仰登山の山らしく、小さな神社が祀ってあり、再び感謝の気持ちを込めて参拝。絶頂には「霊峰白山頂上」と厳しく書かれた標識が立っていて、360度のパノラマが待っていた。白山は幾つもの山頂ピークの総称であり、この最高峰の御前峰をはじめ、剣ヶ峰、大汝峰などが火口池群を囲むように高さを競い合う。いずれにしても、火山性の地形は殺風景なグレーの世界だ。残雪の白さが、その殺風景さにいくらかアクセントを添える。一時間ほど、この頂上で食事がてら休憩。 9:50、火口池巡りに出発。剣ヶ峰方面に急斜面を下り、まん丸な紺屋池に出る。空の青さを映したきれいな水は、周囲の雪渓から絶え間なく補給されるので、山のてっぺんでありながら枯れることが無いらしい。冷たい風も当たらず、しばらく昼寝して睡眠不足を解消したい誘惑にかられる。剣ヶ峰を巻くように歩いて行くと、一番大きな翠ヶ池(みどりがいけ)が現れる。神秘的な雲上の池だ。 荒涼としたこの付近から室堂方面に向きを変えて進むと、次第に温かな緑色が復活してきて、可憐な高山植物の花に目を奪われるようになる。血ノ池、千蛇ヶ池等と物騒な名前の池が続く。「千蛇ヶ池」は、日本では唯一の温帯性寒帯湖だそうで、真夏でも湖面が万年雪で覆われて、滅多に水面を見せることが無いとのこと。伝説によると、大昔、泰澄大師という偉いお方が、千匹の悪蛇を万年雪に封じ込めたのだそうだ。 翠ヶ池(旧火口) 万年雪を抱く山上の池 花に慰められながら室堂に戻る。絵葉書を買い、山頂郵便局で暑中見舞いのスタンプを押す。さすがにここで便りを書く気にはなれないので、麓に着いてからにしよう。 千蛇ヶ池付近から仰ぐ大汝峰 11:05、下山にかかる。黒ボコ岩までは往路を戻る。そこから往路と分かれて尾根伝いの「観光新道」を行く。頂上の小さな高山植物群と違い、山腹にはニッコウキスゲなどの比較的大きな花がきれいに咲き誇っていた。尾根伝いの為、いつまでも高度が下がらないと思っていたが、殿ヶ池ヒュッテを過ぎてしばらくすると、ようやく直線的にぐんぐん下るようになった。赤土の斜面なので、雨上がりには滑り易そうだ。 13:00、別当出合の駐車場に帰着。久し振りの登山で、しかも約1,500mもの標高差を日帰りで往復したので、かなり足が疲れた。林道を白山温泉に引き返し、昨夜の駐車場傍の旅館で温泉に浸かり汗を流す。浴槽の檜の香りが疲れた身体を癒した。外は猛暑だった。入浴のためにほんの30分車を停めておいただけなのに、車内は熱地獄であった。下界の更なる猛暑が思い遣られる。 さっぱりした気持ちでハンドルを握り、R157を北上し、金沢から北陸道に乗る。上越ICで降り、高田の姉夫婦宅にその夜は泊めてもらう。■
白山登山行程 |