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Data No. 48

データ:
登頂日: 1989年10月8日
標高 2,568m
場所: 群馬・長野県境
天候: 晴れ
登頂時の年齢: 35歳
同行者: 単独行


浅間山

 


今も活発な火の山、浅間

  この日は社内旅行の日だったが、折角の秋の登山ベストシーズンに酒浸りのバス旅行は、気が乗らなかったので、理由をつけて不参加にした。

  頂上から白い噴煙を絶やさない活火山である浅間山は、リゾート軽井沢には不可欠な背景であり、信越線はもとより、上越線列車に乗っていても一際目立つ山だ。しかし、同僚のH君から話を聞く迄、こんな活火山には登れないと信じていて(実際登山は禁止されている)、私の登山予定リストには無かった山だ。この山は、いつまた活動が活発になるかも知れず、永久に浅間山に登る機会は無いかもしれない。そう考えると、普段見慣れている山だから、どうしても禁を破って挑戦したくなった。

  10月7日夜、車で出発。碓氷峠を越え、軽井沢を抜け、峰ノ茶屋に深夜到着。毛布を被って後部座席に横たわり、朝までゆっくり眠った。

  5:30に目を覚まし、しっかりと朝食をとり、身支度を整える。時折車がこの峰ノ茶屋の駐車場に入ってくるが、登山者は全く居ない(当然のことだが)6:20出発、天気は良好だ。

  直ぐに東大火山観測所の建物前を通過。林の中を20分登ると「馬返し」と呼ばれる浅間山と小浅間山の鞍部に出る。ここまで来ると、もはや背の高い樹木は姿を消し、ざらざらの砂礫の道になる。浅間山頂上は雲なのか噴煙なのか判別出来ない白い帽子を纏っている。その中腹には明瞭な一本の道筋が斜めに真っ直ぐ引かれている。火山観測の為に、時々ジープでも走るのか。極めて明瞭な道だ。ジグザグを切っていないので、息は切れるものの、ぐんぐんと高度を稼ぐことが出来る。

      
                                                            浅間山を仰ぐ

  やがて樹木は姿を消し、オレンジ色に枯れた草が灰色の砂地を覆っている。普通の山では見ない不気味な草の枯れ方だ。それにしても、煮えたぎった鉄瓶のような火山の中腹で、よくもこのような植物が根付くものだ。麓の視界が次第に広がり、鬼押出しの黒い溶岩流が見下ろせるようになった頃、「火口まで2km、立入禁止」の看板があるが、鎖や柵などで積極的に禁止していない。ここは自己責任で山頂を目指す。

  道は相変わらず真っ直ぐだが、東前掛山にさしかかると斜面を真っ直ぐに登るようになる。ザクザクと砂を踏んで行くと、噴火の際に吹き飛ばされたのであろう、巨大な岩が点在するようになり、そして草木が全く途絶えた「死の世界」となる。東前掛山をぐるりと巻いて行くと、いよいよ頂上への登りだ。頭上には真っ青な空が広がっているが、白い噴煙がフワリフワリと漂っている。そして独特な火山臭も鼻をつく。

        火山礫に覆われた山頂付近
 

驚愕・絶句の山頂風景

  巨岩の間を縫うように登り詰めると不意に視界が開け、思わず驚嘆の声をあげてしまった。自分の直ぐ足元から、凄まじい断崖絶壁に囲まれた火口がポッカリ口を開けて、数百メートル下の火口底からごうごうと煙を噴き上げる。全ての「生」を飲み込んでしまおうと、空気を震わせて唸るその巨大な噴火口は、正しく「地獄」である。周囲に人っ子一人居ないこの噴火口の縁で、誤って足を滑らせたり、強風に煽られて転落したら、永遠に誰にも発見されずに灰になってしまうだろう。火山ならば当然のことであったが、何度も遠くから眺めた浅間山の山頂に、こんな巨大な噴火口がパックリ開いているなど想像したことも無かった。浅間山は生物にとっては死の世界だが、この大地が、地球が、生きていることをまざまざと思い知らせてくれた。

    
                           壮絶な山頂火口

      
                                  大地の底から熱と煙を放出する、まさに地獄の火口
 

  この風景を見ながら、いつもの「山頂の憩い」を味わおうという気分にはなれない。今すぐドカンと爆発するのではないかという恐怖感はさすがに無いが、気持ちの良い場所ではない。軽食とコッヘル一式は用意してきたが、取り出す気になれず。しばらく、この地球内部の息吹に見惚れた後、早々に下山する。

  
                                                        浅間山山頂の火口縁にて

  往路をそのまま下る。富士山の砂走りほどではないが、一歩勢いよく踏み出すと50cmくらい余分にザザーッと進める。お陰で随分時間を短縮出来るが、調子に乗ると膝が笑い出す。中腹まで下ると、私同様に禁を破った数組の登山客とすれ違う。合計で10人位は居ただろうか。しかし、残念ながら、私が麓に着く頃、すなわち彼らが山頂に着く頃には、山頂はすっかり雲に覆われた。下山は僅か70分だった。

             
                                                         
鬼押出し、嬬恋村方面を見下ろす

  
                                               
 小浅間から北軽井沢方面

  浅間山は花が咲いている訳でも、岩場がある訳でもない。日本で有数の活火山であり、山頂の憩いを楽しめる山でもない。そんなことをして、登山禁止の山に登ったことを他人に吹聴したら、バチが当たりそう。しかし、私は非常に複雑な感慨を味わった。越後に帰省の都度、スキー場へ通う都度、天気が良ければ関東平野から必ず見える煙吐く山、かつては山頂に立つなど、決して想像もしなかった活火山の頂に立ってしまったのだ。この体験を文章に残すことにも、やや良心が咎める。

  下山後、伊香保温泉の町営露天風呂にて汗を流す。日本は温泉が多い。しかし、この国の地底には、あの煙吐く浅間の火口につながる灼熱地獄が、ほんの薄っぺらな地層を隔てただけで、新しい出口を見つけようと、とぐろを巻いているのではないか。そんな地底の熱で地下水を温める、大地の恵みである伊香保の湯に浸かりながら、今までは想像したことも無かった、名状しがたい気持ちにとらわれた。■

 

浅間山登山行程

10月7日(土曜)〜8日(日曜)
入間21:00 ==(R17 R18)== 1:15 峰の茶屋 6:20 --- 6:40 馬返し 6:45 --- 7:25 火口へ2km地点 --- 8:25 浅間山頂上 (2,568.2m) 8:45 --- 9:10火口へ2km地点 --- 9:55峰の茶屋 10:30 === 伊香保温泉入浴 ===(関越道)=== 17:00 入間帰着


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