Data No. 44 & 45 |
データ: |
水晶岳・鷲羽岳 烏帽子岳・野口五郎岳・三俣蓮華岳 他 (北アルプス裏銀座縦走)
|
|
夜行急行アルプスは、背もたれが直角なボックス席車両から簡易リクライニング席の特急用車両に変った。これだけで随分寝るのが楽だ。 5:04、信濃大町到着。5:25のバスで七倉へ。すっかり車中は眠りこけ、気が付いたら終点だった。登山指導センターに登山者カードを提出し、6:05出発。一般車輌は通れない舗装された高瀬川沿いの道を歩くのだが、いきなり長い山ノ神トンネルに突入する。前後を歩く登山者の声がこだまする。旧盆休みとあって、人出が多い。絶好の快晴だ。 トンネルが連続する川沿いの道を緩やかに遡り、約一時間でロックフィル式の高瀬ダム下に到着。このダムの斜面の幅一杯にヘアピン状に4往復する道を登り切ると堰堤の上に出る。静かな湖面を渡る風が快い。頭上には烏帽子岳らしき岩峰が覗いていた。ここから稜線迄は標高差1,200mものアルプス三大急登の一つ「ブナ立尾根」の登りだ。堰堤の上で朝食。 ダムの端からトンネルを潜り、吊橋を渡りキャンプ場を越え、7:50にブナ立尾根取付点到着。水場で水筒を満たす。そして沢沿いのジグザグの道を登る。樹間からは生々しい崩壊した山肌を晒す船窪岳が見える。見上げる稜線は気が遠くなる程の彼方だ。所々休憩に都合の良い平地があるが、なるべく休まず一歩でも二歩でも高度を稼ぐ。評判どおり、情け容赦の無い急登が続く。ブナ林から「権太落しの岩宿」を過ぎると、針葉樹林の尾根道となるが、傾斜は緩まない。ブナ立尾根取付点から3時間を要して、やっと裏銀座の稜線に出た。 稜線から右側に緩く下ると、待望の烏帽子小屋だ。今日はここに泊まるので、小屋前にザックを置き、カメラとオレンジだけ持って烏帽子岳に向かう。ハイマツの間を縫うように、花崗岩の白砂をザクザク踏んで行く道は燕岳を思い出させる。一旦登り切った所は「ニセ烏帽子」と呼ばれる前烏帽子岳で、ここで初めてトンガリハット形の本物の烏帽子岳が姿を見せる。烏帽子岳の後には、残雪を抱いた立山と剣岳が、他山を圧倒する貫禄だ。 烏帽子の登りは針金に頼っての岩登り。しかし登りついた山頂からは、碧空の下、素晴らしいアルプスの大パノラマが展開していた。北は白馬岳から伸びる後立山連峰の稜線が全て見渡せ、南にはこれから辿る裏銀座稜線の山々が大きくうねる。一際目立つのが黒い岩肌から二つの耳を持ち上げ、真っ直ぐに純白の雪渓を落とす水晶岳(別名「黒岳」)だ。垂直に切れ落ちた岩塔の下には、烏帽子四十八池が緑の絨毯の中にキラキラ光る。 小屋では窮屈な思いをせずに済んだ。夕食後、小屋前のベンチで、薬師岳に沈む夕日を眺めて、布団に潜り込む。しかし、疲労し過ぎたのか、なかなか寝付かれない。天井にぶら下がるランプの光がとても邪魔だった。
8月13日(日曜) 4:30起床。今日も好天が続きそう。烏帽子小屋を5:00出発。いよいよ裏銀座の稜線縦走開始だ。 先ずは三ツ岳の登り。朝一番できついが、稜線を吹き渡る風が心地良い。登りの途中で、左手に槍の穂先が見えてきた。三ツ岳は烏帽子から見ると貫禄のある山容だったが、縦走路はこの山の最高地点を通らずに南下する。正面には白茶けた野口五郎岳が待ち構えている。 野口五郎岳迄、誰にも会わなかった。見事な花畑の間を縫う快適な雲上のプロムナードだ。野口五郎岳の2,924.3mの山頂からは大パノラマを楽しむ。槍・穂高の雄大さは言うに及ばず、水晶岳から鷲羽岳に続く稜線の先に、笠ヶ岳がすっくと天を突いている。過去2度歩いた表銀座の稜線も懐かしい。大天井岳がピラミッド形の大きな根張りを見せ、こんなにスマートな山だったのかと目を見張る。 野口五郎岳から深い鞍部を隔てて聳える水晶岳を目指す。黒い岩肌、純白の雪渓、そして緑の斜面に包まれた水晶岳は実に美しい。滑り易いザレ状の斜面を下り、東沢乗越に降り立ち、水晶岳の登りにかかる。途中、信州側が激しく崩壊した斜面を見せる。頭上に見える水晶小屋迄が、この日一番きつい登りだ。9:10、バテ気味で水晶小屋に到着。小休止後、縦走路から外れている水晶岳の頂上を目指す。 頂上は小屋から約30分。緩く登る穏やかな尾根道は頂上近くではゴツゴツした岩稜になった。水晶岳又は黒岳と呼ばれるその名の通り、黒っぽい砂利道にキラキラと輝くものが混じっている。同じ稜線伝いでありながら、烏帽子岳は白い花崗岩の山、野口五郎岳は灰色の砂の山、そしてこの水晶岳は光る岩の破片の混じる黒い岩肌と、面白く不思議な変化を見せる。 標高2,986mの水晶岳頂上からは、南の黒部五郎岳が私の目を惹いた。黒っぽい岩山が、ザクッとスプーンで抉り取られたような圏谷を抱き、連なる山々からは完全に独立して青空の下に聳えていた。誠に絵になる立派な山だ。是非近い内に、あの頂上に立ってみたい。その手前には、雲ノ平の緑の絨毯が広がる。此処で、北アルプスの全体構造が理解できる。まだ未登頂の山々のほとんどを、今ここではっきりと視認し、それぞれがどのように繋がり、どんな姿でどんな大きさかを理解した。ここは北アルプスで一番奥深い所だと言われる。どちらを向いても山、山、そして山、人里が全く見えないアルプス真っ只中だ。 絶景を楽しんだ後、水晶小屋へ戻り、更に南へ縦走を続ける。鷲羽岳への稜線は、起伏が少なくて楽そうに見える。実際、これまでの稜線よりも歩き易い道だった。水晶小屋から緩やかに下り、ワリモ乗越から雲ノ平への道を右に見送り、きれいな花畑を通過し、縦走路は巻き道になっているが、好天に気を良くしてワリモ岳の山頂も踏む。槍の穂先がいよいよ大きい。 鷲羽岳頂上は、ワリモ岳から約30分だった。標高2,924.2mの鷲羽岳頂上で、パノラマを満喫しながら大休止。カップラーメン、コーヒー、そしてオレンジが極上の味。行く手の足元には赤い屋根の三俣山荘が早くおいでと誘惑する。槍ヶ岳は次第に近付いている筈だが、登るに辛そうな険しい西鎌尾根が全貌を現すと、かえって遠のいてしまったよう。 一万尺の稜線近くで水を湛える鷲羽池 たっぷり1時間鷲羽岳頂上で休憩後、三俣山荘へ急降下する。一万尺の稜線では珍しい満々と水を湛えた鷲羽池を左に見て、また北アルプスでは珍しい火山性の荒々しい硫黄岳の姿を眺めつつ歩く。堅固な岩で構成された北アルプス真っ只中で、硫黄臭を漂わせる硫黄岳の存在は異色であり、驚きだ。下り切った広い平原にある三俣山荘は、大きな小屋で二階には展望レストランもある。本来はのんびり一泊したいところだが、双六小屋迄何とか頑張ろう。ここは雲ノ平探訪の時に、再訪のチャンスがあるだろう。 双六小屋迄は、三俣蓮華岳、双六岳の頂上を経由するコースと、完全に山腹を巻いて行くコースがある。雨の心配は無さそうなので、三俣蓮華岳の頂上を目指す。長い縦走の後だけに辛い登りだったが、途中で振り返って見た鷲羽岳の美しさには思わず息を呑んだ。北側の稜線からは単なる一つの峰にしか見えなかった鷲羽岳は、見事なまでに均整のとれた裾を引き、誇らしげに天に突き上げている。鷲が羽根を広げたような山ということで鷲羽岳か。この山も日本百名山のひとつだが、私は充分に納得した。 疲れた足を引き摺りながら小屋を目指す。槍ヶ岳は正面に大きく、他を圧して高い。流れる灰色の雲のそのまた上に見え隠れする槍の穂先は、おとぎの国の魔の山のよう。平坦な道から急降下に転じ、漸く今宵の宿、双六小屋である 小屋は大繁盛だ。玄関前にはベンチとテーブルが沢山並べられ、おでん屋が店を開き、ラーメンもカレーも飲み物も売っている。まるで祭の屋台村。先ず宿泊申し込みをしたが、既に満杯状態らしく夕食が終る迄狭い控え部屋のような所に大勢で押し込められた。こんな所で横になって疲れを取りようもなく、玄関前のベンチでおでんと缶ビールを注文して時間を潰す。その間も続々登山客が到着する。相当な混雑になるのか。 夕食が終わり、とっぷり日が暮れた午後7時過ぎにようやく寝場所が提供された。既に他の客が安心しきって占領している部屋に押し込められる。ところが詰めてもらえば大して窮屈でもない。こんなことなら、何故こんな時間まで控え室のような所に缶詰にされたのか。先客の露骨に迷惑そうな視線を浴びて割り込ませてもらうのは、非常に不愉快なもの。 今迄私が泊まった山小屋では、到着後直ぐに最小限の場所をあてがわれ、最終的に余裕が出来たら、その分だけ数人が別の場所に移動するのが常識だった。この小屋のやり方は納得出来ない。まあ、お金を払ったのだから、先に来ようが後に来ようが権利は一緒なので、下手な遠慮は損だ。応分のスペースは取らせてもらい眠りにつく。 天気予報では、好天は今日迄で、明日は台風接近で荒れ模様だとか...。 8月14日(月曜) 雨はまだ降っていないが、今にも泣き出しそうな空模様。西の鷲羽岳方面はまだ視界が利いているものの、槍ヶ岳方面は厚い雲の中。それでも続々と槍を目指す登山者達が蟻の行列のように西鎌尾根に向かう。大いに未練は残ったが、下山を決意した。 朝食後、5:25出発。新穂高温泉を目指す。天候が下り坂でも、これから登って来る人はとても多い。槍ヶ岳の姿を映す池が売り物の鏡平山荘に6:40到着。しかし、今日は灰色の雲を鈍く映すだけ。下るに連れて雲は更に低くなり、とうとう雨が降り出した。傘をさし、草いきれの強くなった坂道をひたすら下る。この雨を見て、私の判断は正解かな、と自己満足。 蒲田川沿いの「小池新道」と呼ばれる山道はやがて終わり、車道歩きになる。ワサビ平小屋で、ビール大瓶を飲み干し、傘をさして更に1時間歩くと温泉旅館が立ち並ぶ新穂高温泉に到着。時間は9:40。都合良く一日一便しかない松本駅直行バスが10:30に出るのでそれに乗る。何と、バス停傍に無料の温泉浴場があったのに、気が付いたのがバス発車直前だったので、汗を流せなかったのが残念至極だ。 バスはデラックス車両で快適だったが、平湯を過ぎ、安房峠にさしかかると大変な渋滞に巻き込まれてしまった。ヘアピンカーブの連続する狭い峠道では、対向車がいると大型バスは曲がれないのが原因だ。旧盆休みの真っ只中、カーブの都度バスの車掌が走り回って対向車を止める。こんな繰り返しで、安房峠の通過に5時間も要し、車内では寅さん映画のビデオを2本も上映した。釜トンネル手前で新島々へ通じる道に出てからはホッとしたように渋滞を抜けたが、松本到着はバス発車後、6時間近くも経った16:10だった。 松本から、あずさに乗ればまだ充分帰宅出来る時間だったが、折角の夏休みにさっさと帰りたくはない。駅前のホテルに部屋を取る。山の汗を流し、街に出て、名物石挽そばを食べ、ラーメンを食べ、山小屋よりもずっと安くて冷えたビールを存分に飲み、エアコンの効いた快適な部屋で、裏銀座の豪快な山々、稜線の花畑とそよ風の余韻をかみしめながらぐっすり眠った。■
北アルプス裏銀座縦走行程 8月11日(金曜) 8月12日(土曜) 8月13日(日曜) 8月14日(月曜) 8月15日(火曜) |