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Data No. 42

データ:
登頂日: 1989年7月22日
標高 2,164.3m
場所: 群馬県(上信越高原国立公園内)
天候: 晴時々曇り
登頂時の年齢: 35歳
同行者: 

 

草津白根山

 


名湯を生み出す火山

  一念発起し、6月末に車の免許を取得した。免許を取った翌週に中古車を手に入れた。これ迄、マイカーなんて自然破壊の元凶だと信じていたが、都内から郊外に引っ越して以来、上野駅や新宿駅迄1時間以上もかかる。車ならば故郷まで2時間半なのに。私のマンションの近くにはスーパーも無い。そんな訳で次第に免許を取ろうかという気になった。

  さて、車があれば自分にとって一番便利であろうと思われた「山登り」に早速使ってみたい。その第一目標として草津白根山を選んだ。

  7月22日、土曜日の早朝、関越道に乗る。渋川伊香保ICからR17、R353、R145を経て草津へ。目指す白根山は草津温泉街から志賀草津有料道路を登って行く。まだ午前8時。幸いヘアピンカーブの連続する急坂は対向車も少なく、後から追いかけてくる車も無く、初心者には頗る都合が良い。上空は快晴で白根山の中腹が目映いばかりの緑色に輝く。浅間山も黒く大きく、白い噴煙を吐き出す。といっても、山道を初めて運転する私には、景色に見惚れる余裕は無く、手に汗を握る。

  ようやく白根火山駐車場に着く。ほっと肩の力が抜ける。硫黄臭があたりにたちこめ、見事に禿げ上がった白根火山の灰色の山頂の向こうには白い雲が泳ぐ。白根火山は何度も見物しているので、今日の目的は、道路を挟んだ反対側にある「本白根山」だ。

  本白根山は小高い丘(逢ノ峰)の後ろ側にあり、その麓の平坦な車道を歩いて行けば良かったのに、間違えて逢ノ峰の天辺まで登ってしまった。地図を確かめなかった軽率なミスであるが、どうして結構良い眺めの処だ。逢ノ峰の反対側に下り、白根火山ロープウェイ山頂駅付近からようやく登山道に入る。

         逢ノ峰への登りから白根火山を見る

  標識に従って進むと、程なく「イモリ池」に出る。登山道といっても急な登りは無く、散歩道だ。更に奥へ進むと、巨大なスタジアムのような窪地が現れる。昔の火口なのだろう。火山性の砂地に丈の低い草が点在する。晴れていた空には風と共に白い雲が流れ出し、あたかもこれから鎧を着けた兵士達が騎馬レースを行う古代ローマ競技場のようで、風の音が観衆のざわめきだ。

        
                                                 古代競技場のような噴火口跡

  この競技場の「観客席」を登って行くと分岐点が現れる。左は鏡池と表示があるが、「本白根山」の表示は何も無い。地図で見ると頂上は右側であり、明らかに右側の方が登りになっている。訝しい気持で取り敢えず右に登る。柵で区切られた道を登って行くと、これ以上登りが無い地点まで来た。足元に万座温泉の建物が見える。しかし、頂上標識は何処にも無い。周囲を良く見ると、「有毒ガスの危険、立入禁止」と立札のある柵の外側に細い踏み跡があり、明らかにその奥が一番高い。意を決し、笹薮を進むと、ほんの僅かで三角点のある場所に出た。本来居てはいけない場所なので、早々に立ち去る。

          
         本来の山頂と思われるところ              本白根山の標識のあったところ

  遊歩道に戻ると、頂上を探して戸惑っているハイカーが居たので、一応私が行って来た所を伝えたがその後の責任は負わない。

  遊歩道を下ると、「自然監視員」の腕章をつけた老人が居た。高山植物の盗掘を監視していると言う。過去にはコマクサ群生地だったこの山は、心無い人間達の盗掘でコマクサは絶滅の危機に瀕し、群落を復活させるべく人工的に植え付けているのだという。それさえもまた盗掘されたら堪らない、ということで地元有志が無償奉仕で監視しているのだと。

  高山植物は微妙なバランスを保った一定の環境でしか育たない。盗掘して麓で咲かせようとしても咲くものではない。それを何故分って貰えないのかと老人は嘆く。ここは観光客が屯する白根火山駐車場から僅か1時間の場所だ。「下界」に近過ぎるのがこの本白根山の不運なのか。車の便利さを謳歌しようという自分であるが、自然を守る心掛けは失うまい。

  
                     ガスが発生してきた山頂付近                   ひっそりとした鏡池

  分岐から遊歩道を反対側に歩き、鏡池を訪れる。火山性禿げ山の本白根山で、此処だけは丈の低い灌木に囲まれ、小さな池はひっそりと静まり返っていた。晴れていた空はいよいよ霧に閉ざされてきた。小休止後、天候が更に悪化しないうちに帰路につく。

  駐車場迄の帰路、本白根山をこれから目指そうという観光客とのすれ違いが急増してきた。自然監視員の老人は、これから目を離せなくなる。登山姿の人は少ない。静かなうちに本白根山を楽しめて良かった。白根火山駐車場は満杯で、白根火山の縁へと、蟻のように観光客が連なっていた。

  通行量の増えた志賀草津道路を緊張しながら下って行く。アクセルをぐいぐい踏みながらの登りよりも、下りの方が運転は難しく感じる。草津温泉の案内所で安い旅館を紹介してもらい、その晩はゆっくりと、あの本白根山の地底から湧き出す大地の恵みの温泉を堪能した。■


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