Data No. 41 |
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伊豆 天城山
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伊豆半島の最高峰へ 「天城」という名前・地名は、とても有名だが、「天城山」という山は、意外と知られていない。湘南海岸や東海道線から伊豆半島を眺めても、特段目立つ山は無く、茫洋とした山地にしか見えない。10年ほど前に購入した東京周辺のハイキングガイドにも、天城山は紹介されていないほどだ。しかし、深田久弥氏が「日本百名山」に選んだ山だから、何かしら魅力のある山に違いない。 4月15日朝、東京から新幹線こだまで熱海へ。時折陽は射すものの、雲の流れが速く、予報された低気圧の接近は間違いない。西の空は雲に覆われていた。熱海から伊東線に乗り換え、8:47伊東着。すぐに天城高原ゴルフ場行のバスに乗車。穏やかな起伏の伊豆山地を縫うように登り、10:01にゴルフ場に到着。かなり標高が上がったので風が冷たい。雲は更に厚くなり、相模湾と雲の境目も判らないほど。天城山もその姿はすっかり雲の中である。下車したのは全て登山客で、ゴルフ客は皆無。まあ、こんなボロバスに乗ってゴルフに来る客などいないか。 当然ゴルフ場のクラブハウスに登山客など入れないので、汚い公衆便所で水を補給し、10時過ぎ登山道に踏み込む。薄暗い林の中をしばらく歩くと、15分程でほっとするような広い場所に出る。そこから道は二手に別れ、左に折れる万二郎岳への登山道に進む。ゴルフ場の玉を打つ音を左手に聞きながら、ブナ林の中の緩やかな道を登る。6月頃はツツジの綺麗な場所らしい。次第に急な登りになってきたが、思ったよりも短時間で、ひょっこりと万二郎岳(1,300m)山頂に飛び出た。11時丁度、すっかり雲に巻かれ、全く展望は無し。雨が来ない内に先を急ぎたく、ほとんど素通りする。 急坂を下ると、緩やかな「馬ノ背」と呼ばれる尾根道。自然林のトンネルで、気持の良い所だ。雲間から大きな山が見え隠れする。あれが目指す伊豆半島最高峰の万三郎岳か。程なく道はその万三郎岳の登りにかかる。木の根に掴まりながらの急登を30分で、万三郎岳(標高1,405.6m)の山頂に到着。11:52。周囲を灌木に覆われた頂上には、5名の先客が居た。雨が降らずにいてくれたので、展望が無いことの不満は止めておこう。簡単に昼食をとり、先はまだ長いので早目に距離を稼ぐ。12:10に腰を上げ、天城峠への縦走路に入る。 天城峠への縦走 万三郎岳の急降下を終えると、縦走路は起伏の少ない道を延々と歩かされる。この道は新緑や紅葉の頃のんびり歩けば素晴らしいだろう。しかし今日は今にも泣き出しそうな空模様で、自然と足の動きも速くなる。片瀬峠、戸塚峠、白田峠など幾つか峠を越えて天城峠を目指す。とうとう雨がポツリポツリと当たってきた。いい加減に単調な道の歩きに飽きてきた頃、ようやく八丁池の畔に着いた。 八丁池は別名「伊豆の瞳」と呼ばれ、標高が1,170mの天城山中真っ只中の池だ。周囲が八丁(870m)あることから命名されたという。雨が本降りになり、対岸が霞んで見えないので結構大きな池に見える。湖畔の東屋は高校生の団体で一杯だったが、場所を少し譲ってもらい、コーヒーを沸かして飲む。キャンピング・ガスの装置は高校生達に異常なほどに注目された。彼らはやがて雨の中を列を組んで元気に出発して行った。ガランとした東屋はしんしんと冷えてきたが、団体の後ろを歩くのは鬱陶しいので、しばらく間をおいて出発とする。 池をぐるりと回り込むように歩いて行くと、僅かに登りとなり、砂利敷きの車道に出る。そこに高校生を引率する先生達の車が停まっていた。先生だけ車で楽をしようなんてずるいものだ。天城峠へは、車道から別れて右手に下って行く。再び起伏の少ない道を延々と歩く。山の中腹を横断する道は、所々崩れかけており、大雨の後には少し怖い。右下の沢には伊豆名物のわさび田が清澄な流れの中に見え隠れする。 変化の無い道の歩きに飽き飽きしてきた頃、ようやく天城峠からの下降点に入り、急降下僅かで旧天城隧道に出た。「踊り子トンネル」とも呼ばれるこの隧道は、殆ど車が通らず、観光名所となっている。先刻の高校生の団体がトンネル内で雨宿りしていた。騒々しい若者達が占領していると、伊豆の踊り子情緒など味わうべくも無い。バスの通う新しい天城トンネルは、ここから更に5分程下った所だ。 ごうごうと頻繁に車が通る天城トンネルの出口にあるバス停は雨を避ける屋根どころか、ベンチさえも無い無愛想なもの。降りしきる雨の中、傘をさして立ったままバスを待つ。幸い、修善寺行のバスは15分程でやって来た。バスに揺られ、湯ヶ島温泉で下車。予約しておいた「千勝閣」に投宿。旅館に入る前に泥だらけになった靴を玄関前で洗い流す。 久し振りにゆったりと温泉旅館に泊まった。狩野川の流れに面した部屋は眺めも良く、清流の音も心地良い。ここが舞台となった井上靖の小説「しろばんば」を思い出しながら一晩を過ごす。温泉大浴場は、深さが120cmもあり、プールのように広くて泳ぎたくなるよう。後半は雨に祟られた天城縦走は、距離も長く、決して楽なものではなかった。それだけに、この温泉旅館の一泊は本当に快適で極楽気分であった。夕食時のビールもご馳走も、疲れた身体の五臓六腑に染み渡った。■
伊豆天城山縦走行程 4月15日(土曜) 4月16日(日曜) |