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Data No. 38 & 39

データ:
登頂日: 1988年10月9日〜10日
仙丈岳標高 3,032.7m
甲斐駒ケ岳標高 2,965.6m
場所: 山梨・長野県境 (南アルプス)
天候: 快晴
登頂時の年齢: 34歳
同行者: 単独行

 

南アルプス

仙丈岳
 

甲斐駒ヶ岳

 


10月9日(日曜)    
【青空の南アルプスへ】
 
  6月からずっと梅雨空が続き、9月の日照時間が観測史上最低だった関東地方に、ようやくズバリ晴れの予報が出た連休、待ってましたとばかり繰り出した登山者達で、上諏訪行夜行は超満員で甲府まで立ちっぱなしを強いられた。

  3時、甲府到着。大変な人出で、合計6台の広河原行バスは全部満席。私は4台目のバスの先頭近くだったので、背もたれの高い最後部座席に落ち着くことが出来た。普通の乗合いバス車両なので、カーブの連続する山道では頭を落ち着かせることが出来ない辛さは前回で懲りている。立ちっぱなしの夜行列車の疲労で、広河原までの2時間、死んだように眠った。

  まだ真っ暗な5:00、広河原到着。非常食を齧って直ぐに北沢峠に向かう。バスで来た道を僅かに戻り車止めのゲートを通過し南アルプス・スーパー林道に入る。登山客の大半は直ぐに左に折れて北岳方面に向かう。その分岐を過ぎると他に誰も居なくなった。この秋の連休に、人が少な過ぎるといぶかしんだが、道は間違っていない。星の瞬く空が、次第に明るくなり、左手奥には凄まじく高い北岳の三角形の頂が黒々と威圧するように聳えている。

      帰路に使ったバス乗車券。この林道を往路は歩く。
 

  野呂川に沿ったスーパー林道は長く、辛く、退屈だ。早足で歩いたが、カーブを曲がる度に、更に奥へと気の遠くなる程に続く林道が見えると、睡眠不足の身に疲れがどっと出る。余程道端にしゃがんで居眠りしようかと思ったが、我慢して頑張る。6:25、北沢橋を通過。更に先に進むと漸く陽が高くなり、林道にも日が当たるようになる。背中に温かい日差しを浴びた瞬間、思わず振り向いてしまった。「やあ、お天道様!本当にお久しぶりです。堪らなく恋しゅうございました!」腐った梅雨空が続いていたので、これほどに太陽と青空が、懐かしく、素晴らしく、有難く思えたことは無い。陽光を浴びると、身体の中のカビが吹き払われて行くようだ。

 

【登山基地、北沢峠から仙丈岳へ】

  甲斐駒ケ岳が右手に顔を見せるようになると北沢峠は近い。最後の緩い坂道をスパートし、7:18に北沢峠到着。漸く数人の人影を見る。しかし、森の静けさは、私がコーヒーを沸かしている間に一変した。信州側の戸台から、マイクロバスが次から次へと6台も到着し、老若男女がどっと降りてきて、大賑わいになった。そういう訳か。道理で広河原から、誰も苦労して歩いて来ないわけだ。こんな大勢の人に先を歩かれたら堪らないと思い、朝食を慌てて済ますが、かなりの人数に先を歩かれてしまった。

  7:40、仙丈岳へ向けて出発。視界の利かない樹林帯の急坂なので、寝不足の身にはつらい。一時間程で大滝の頭に到着。振り返れば、甲斐駒ケ岳が実に堂々としていて素晴らしい。花崗岩で白く化粧した山頂を持つこの山は、周囲のどの山よりも人目を引き異色な姿である。

         仙丈岳を目指して登る

  大滝の頭を過ぎると、漸く前を歩く人も減り、森林限界も過ぎて、陽光を一杯に浴びながらの、ハイマツ帯の登りだ。何という素晴らしい快晴だろう。登る程に空はその青さを増し、中部山岳のあらゆる山々がその姿を白い雲の上に出す。標高2,000m位から下は白い雲に閉ざされ、下界は全く見えず、山々だけがこの世界に存在しているよう。頭上の空には一点の翳りも無い。息の切れる苦しい登りだが、頂上での素晴らしい憩いが約束されているだけに幸せ一杯だ。

  
       青空の真っ只中、小仙丈岳頂上で                氷河圏谷を抱えた仙丈岳山頂部

  傾斜が緩むと小仙丈岳(2,855m)に出る。真正面には小仙丈カールと呼ばれる大きな氷河圏谷を抱く仙丈岳の頂上が見えてきた。頂上へは、この圏谷の縁を辿って行く。睡眠不足に長い林道歩き、そして前半のスパートが効いて、苦しい登りであった。10:25仙丈岳頂上に到着。

   
               仙丈岳山頂から北岳を見る                                仙丈岳頂上にて
 

  仙丈岳の標高は3,032.7m。これで5年連続で3,000m峰を登頂した。頂上へ着く迄も、背後に大パノラマが展開していたが、一万尺の頂上からはそのパノラマが倍の360度に広がった。北アルプスの槍ヶ岳から穂高の稜線が一際目立つ。あの尖った槍の穂先と、ノコギリのような穂高岳の稜線は、私にアルプスの素晴らしさを教えてくれた想い出深き山々だ。  

      
                        鋸岳と信州方面の雲海を見下ろす

  山頂のパノラマは、槍・穂高に留まらず、北アルプスの北端、加賀の白山、中央アルプス、八ヶ岳、奥秩父、富士山と限りない。至近距離の南アルプスの山々は言うに及ばず。風の当たらない処で、カップラーメン、パイナップル缶詰、コーヒーでゆったりと食事をし、日向ぼっこがてら昼寝も楽しむ。目が覚めると頂上を占拠していた団体が去り、静かで好もしい雰囲気が戻っていた。

  12:20、山頂出発。下山ルートは直ぐ足元に見えている仙丈山荘から薮沢を下る。薮沢カールの中央へ下ると、快適そうなキャンプ場と粗末な仙丈山荘があり、かなりの賑わいだ。水が豊富な清らかな沢に沿って下って行く。常に甲斐駒ヶ岳が真正面に見えている。更に下ると薮沢小屋があり、大勢の人が休憩していた。

   
                          甲斐駒ケ岳の雄姿、仙丈岳中腹より

   
                      氷河が残した薮沢カール(圏谷)を下ってゆく

  再び樹林帯の下りに突入だが、この時間から登って来る人の多さに驚いた。キャンプ場も小屋も超満員になりそう。この人出を見ると、北沢峠の混雑も思いやられる。早朝の広河原からの淋しい林道歩きが嘘のよう。

  14:45、北沢峠帰着。やっと休めると安心したのも束の間、この近辺は大平山荘以外はフリーでは泊まれない。お陰で「普通」の山小屋である大平山荘は超満員になった。夕食が希望者全員に行き渡るのに8時半までかかり、それから漸く布団を出してもらい、身体を横に出来たのは9時を回った。しかし小屋の親父の手際良い指示で合理的に布団を並べ、混雑の割に、眠るスペースは充分だった。ポケットウィスキーの快い酔いが疲労困憊の身体を温め、明日も引き続き快晴に恵まれることを信じて眠りにつく。

 

10月10日(月曜、祝日)   
【念願の甲斐駒ケ岳も快晴の空の下に】

  周囲のガサゴソ音で、予定の4:30に目が覚めた。一晩中ストーブが燃えていたので、寒さに凍えることも無く、朝の出発の支度が出来たのは有難い。ストーブに載っていた薬缶の湯をもらい、朝食は楽に済ませた。昨日のような混雑はイヤだから、早く出発してマイペースで登りたい。

  5:25、小屋を出発。北沢峠に登り返し、北沢長衛小屋の脇からヘッドランプを灯して甲斐駒ケ岳登山道に入る。最初からジグザグの急登だ。早く出発したのは正解で、前後に歩く人の姿は見えず、マイペースで歩けるのが嬉しい。暗い樹林帯の登りだったが、背後には次第に昨日登った仙丈岳と北岳が樹間に見えてくる。今日も素晴らしい快晴となり、ヘッドランプが不要の明るさになると、頭上には澄んだ青空がいっぱいに広がった。

       
                      雪化粧したような甲斐駒ケ岳山頂部を仰ぐ
 

  6:45、最初のピークである双子山に到着。行く手には駒津峰を隔てて、甲斐駒ケ岳本峰がどっしりした姿を見せる。そして北岳を始めとする南アルプスの展望も一気に開けた。気持良い場所だが、休まずに通過。双子山を一旦緩く下ると、ハイマツの間を縫う駒津峰へのきつい登りが待っていた。六根清浄を心で唱えながら頑張る。 

  7:20、標高2,740mの駒津峰に到着。ここで仙水峠からの道が合流し、私より早く出発した人達が大勢休憩していた。ジュースを取り出し、今日初めての休憩をとる。仰ぐ甲斐駒ケ岳は急峻な岩山で、一体何処を通っていけばあの山頂に立てるのだろうと、私を脅かす。

  駒津峰からは痩せた岩稜を伝って本峰に取り付く。ルートは途中で摩利支天への巻き道と直登の道に分かれる。私は直登ルートに挑戦。ペンキの矢印に従って、大きな岩を乗り越したり巻いたりするスリルに満ちた登りだ。昨日の仙丈岳には無かった岩場の連続だ。頂上に近付くと、遠くからは雪を被っているように見える花崗岩の白砂斜面となり、滑らないよう、一歩一歩を踏みしめて絶頂を目指す。そして、8:25、日本中に数多い駒ヶ岳の王者、標高2,966mの甲斐駒ケ岳山頂を踏む。      

  
      甲斐駒山頂から昨日登った仙丈岳を見る                 尾根続きの鋸岳方面を見る

  展望はそれは素晴らしいものであった。一点の翳りも無く澄み切った秋の空の下、標高2,000mを越す山々だけが雲海に浮かんでいる。鳳凰三山の彼方には、富士山が砂漠の中のピラミッドのよう。八ヶ岳も、北アルプスも意外と近く見える。正しく山の展覧会だ。足元の鋸岳や仙丈岳の中腹は、山火事でも発生しているかのような鮮やかさで黄葉紅葉に染まっている。

     
          甲斐駒ケ岳山頂にて                        鳳凰山の彼方にピラミッドのような富士

  「開山威力不動尊」が祀られる頂上は、信仰の山という雰囲気は乏しく、老若男女が屈託無く憩いのひとときを楽しんでいた。私も不動尊の横に腰を下ろし、湯を沸かしてインスタント雑煮やコーヒーを腹に入れる。なるべく早く下って帰ろうと思っていたが、そんな気持は消えうせ、ハイピッチで登って節約した分、ゆっくり過ごす。何年も前から憧れていたが、なかなか登頂を果たせなかった山なので、「あぁ、やっと来ることが出来たぁ!」と小声で独り言を呟いたら、近くの若い女性が怪訝そうな顔で私を見た。変なオジさんとでも思ったのだろうが、私の今の感動や感慨を他人に分ってもらえる必要など無いことだ。

      
                            遠く木曽御岳を望む 

 9:45、去り難き頂上を後にする。足元にゲンコツのようにそそり立っている摩利支天峰を目掛けて、白砂の斜面をザクザク踏んで行く。雪山を歩いているような雰囲気だ。駒津峰に出て、其処からは登りに使った道とは90度南に分れる仙水峠への道を下る。雑木林の中の急斜面を膝がガクガクするほどに下り、40分程で早川尾根との鞍部にある見晴らしの良い仙水峠に出る。振り返ると摩利支天が本峰と同じ高さに見える。仙水峠は、甲斐駒登山の人だけではなく、家族連れ等のハイキングの目的地としても人気があるようで、かなりの賑わいだ。

    
                        仙水峠から仰ぐ甲斐駒ケ岳と摩利支天(右)

    
                          素晴らしい紅葉に染まった中腹

  仙水峠からは、もう急な下りは無く、浅間の鬼押出園のような溶岩台地を緩く下り、キャンプ場を経て12:40に北沢峠に帰着。峠は信州側の戸台方面、甲州側の広河原方面の双方へのバスを待つ登山者で大変な人出だ。戸台方面へのマイクロバスはスムースに来るのに、広河原行のバスは30分も遅れてやってきた。マイカーを締め出した林道なので、いい殿様商売だ。往路は2時間も苦労して歩いた林道は、マイクロバスに乗ってしまえばあっけない25分の道程だった。

  広河原でバスを乗り換え甲府に戻る。初めて明るい日中に通る道だ。傾いた太陽を背にした北岳がとても眩しくて、南アルプスの王者の貫禄を見せて、鷹揚に私を見送ってくれた。■

 

仙丈岳と甲斐駒ケ岳登山行程

10月8日(土曜)〜9日(日曜)
入間市23:10 === 所沢、国分寺 === 立川 0:33 ===(中央線夜行)=== 3:00 甲府 3:15 ==(バス)== 5:00 広河原 5:05 --- 6:25 北沢橋 --- 7:18 北沢峠 7:40 --- 8:20 三合目 --- 8:40 大滝の頭 --- 9:30 小仙丈岳(2,855m) 9:40 --- 10:25 仙丈岳(3,033m) 12:20 --- 12:35 仙丈小屋 --- 13:00 馬ノ背ヒュッテ 13:30 --- 14:45 大平小屋 --- 15:00 北沢峠 --- 15:10 大平小屋(宿泊)

登山ルート略図(筆者自筆)

10月10日(月曜、体育の日)
大平小屋 5:15 --- 5:25 北沢峠 --- 6:45 双子山(2,643.6m) --- 7:20 駒津峰(2,740m) 7:25 --- 8:25 甲斐駒ケ岳(2,966m) 9:45 --- 10:25駒津峰 10:30 --- 11:10 仙水峠 11:40 --- 12:40北沢峠 13:45 ==(バス)== 14:10広河原 15:00 ==(バス)== 17:00甲府 18:18 ===(特急かいじ90号)=== 19:35 立川  ==国分寺、所沢=== 20:30 入間


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