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Data No. 27

データ:
登頂日: 1987年8月23日
標高 3,026.3m
場所: 長野・岐阜県境 (北アルプス)
天候: 濃霧
登頂時の年齢: 33歳
同行者: 単独行

 


    北アルプス

乗鞍岳
 

 


 夏の終わりの寂しさを感じた山

  北アルプスの山々の頂上から、「俺は君たちの仲間じゃないぞ」とでも言いたげに、木曽御岳と並び、北アルプスの稜線から独立して聳えている3,000m峰を何度見たことだろう。長い裾野を引き、頂上に幾つもの起伏を見せている、その乗鞍岳にバス登山を試みた。

8月23日(日曜)

  前日松本で一泊後、松本電鉄の初電に乗って終点の新島々を目指す。新島々からは乗鞍岳畳平行のバスに乗り込む。生憎天気は良くない。空にはどんよりとした雲が低く垂れ込めていて、いつ雨が降ってもおかしくないようだ。

  バスの行程は結構長い。上高地への道を左に折れ、乗鞍高原を経てヘアピンカーブの連続する道を延々と登る。車酔いした客も居る。新島々から2時間半もかけて乗鞍岳頂上直下の畳平に到着。やれやれ、やっと外の空気を吸える...などと呑気に構えていられる天気ではなかった。辺り一面真っ白なガスに閉ざされていて、何も見えない。そして2,704mの空気は真夏といえどもゾクッとする程に寒い。

     乗鞍岳畳平にて

  さて、こんな天気の日に頂上を目指すべきか、すっぱり諦めて麓に降りて美味しいものでも食べるか、と迷う。前者の場合、これからの天気が不安である。後者の場合、交通費やホテル代まで使ってやって来たのがバカみたい。約1時間暖房の効いたレストハウスの中で思案しながら外の様子を伺った。天気はそれより良くも悪くもならなかったが、後から到着した親子連れが「何を迷うことなどあるものか」とでも言いたげに、せっせと登山の支度をしているのを見て、私も重い腰を上げる。

  高山植物見本園となっている湿原を渡り、白い霧の中を、広い砂利道の車道を歩く。この畳平にはコロナ観測所や山小屋もある。道を間違えなければ何とかなるだろう。いつでも引き返す気持でいれば良い。

  車道伝いに歩いて行くと、コロナ観測所の大きな建物が霧の中に現れる。人の気配は全く無かった。その周囲には肩の小屋、その先には宇宙船観測所などの建物もある。こんな天気でも時折他の登山者の姿が見える。車道は、この付近で終わり、「剣ヶ峰」を目指して登山道に入る。

  岩がゴロゴロした稜線のような処を歩いているのだが、景色は全く見えない。足元の登山道だけが頼りだ。息を切らせるような急登もそれほど無くて、やがて乗鞍岳頂上小屋の前に出る。そこを素通りして更に登って行くと「乗鞍本宮」という標柱と神社の建物がボーッと浮かんできた。剣ヶ峰頂上に到着した。いずれも単独行らしい男が二人居ただけで、私が到着と同時に降りて行った。

         乗鞍岳山頂にて

  何の展望もない3,026mの頂上だった。畳平から約50分の歩き。晴れていれば北アルプスの大展望が待っていたであろうに、今日は近くの外輪山さえも見えない。まあ、人生にはこんなことも多々あるだろう。無事に頂上を踏ませてもらったお礼を込めて神社にお参りし、早々に下山する。

          乗鞍岳頂上小屋で一服休憩

  頂上小屋でバッヂを買う。小屋の番人は人が少なくて淋しいのか、しきりにお茶を飲んで行けと誘うので一杯ご馳走になる。8月も中旬までは、この山も相当な賑わいを見せるのだが、下旬になるとめっきり人出が減るそうだ。今日のような天気の日には、何も考えず、こんな静かな山小屋で憂き世を忘れて、酒でも飲みながらゴロゴロするのも楽しいだろう。

  畳平に近付くと、それでも折角の日曜日なので、これから頂上を目指すハイカーとのすれ違いが多くなった。あの小屋の番人も、話し相手が出来て喜ぶだろう。

  バスに乗って往路を戻る。畳平の駐車場は夥しい数のマイカーで埋め尽くされ、バスが回転するのもやっとだ。松本帰着後、乗鞍岳登頂祝いに駅前の食堂でステーキを食べ、ワインを飲み、特急あずさの自由席に身体を沈める。たった今降りてきた、霧の山の寒さの記憶に、夏の終りの淋しさを感じつつ。■



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