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Data No. 11

データ:
登頂日: 1985年10月19日
標高 2,530m
場所: 長野県(八ヶ岳連峰)
天候: 晴れ
登頂時の年齢: 31歳
同行者: U君


蓼科山

北八ヶ岳池巡り

 


ベテラン登山家との山行

  会社の取引先のU君に誘われて、秋深まった北八ヶ岳、池巡りの旅に出ることになった。U君は私よりも幾つか若いが、ヒマラヤ遠征の経験も持つ山のベテランである。

10月18日(金曜日)19日(土曜日)

  新宿23:55発、夜行の上諏訪行は満員で、我々は席を確保出来ず、通路に新聞紙を敷いてスペースをとった。二人で缶ビールを飲みながら眠気がやってくるのを待つ。夜も更けた車内で、酒に酔った一人の中年男が大声で誰にともなく説教を始めた。皆が迷惑がるほどに調子に乗ってきて声もでかくなる。それが何と、「俺は新潟の長岡から来た」などと宣言したものだから私は思わず赤面した。彼は塩山へ行くとのことだったが、見るに見かねた勇気ある人が、大月を過ぎたあたりの寂しい駅で「おじさん、塩山に着いたよ」と騙したら、素直な越後男児は都合良く信じてくれて、人々の拍手に送られて勇んで下車した。これは最終列車であるが、かの越後男児がその後どうしたかは誰も知る由もない。

  5:40、茅野到着。駅前からピラタス・ロープウェイ行バスに乗車。乗車後いつしか居眠りをしている時にU君に起こされてバスを降りた。しかし、どうも様子が変だと思ったら、案の定彼が間違えてかなり手前の停留所で降りてしまったらしい。仕方無しに車道を黙々と予定外の20分を費やして歩く。下車予定だったロープウェイ入口を通過し、更にビーナスラインを緩く登りながら歩くと、青空の下に目指す蓼科山が均整のとれたコニーデ形の姿を現した。7:40、蓼科山登山口の女神茶屋に到着。ところが此処にある小屋と売店は既に閉鎖されていた。ここで水を確保して朝食をという目論見が狂ってしまった。山に入れば全く水場は無い。仕方無しにチョコレートを齧っただけで、8:00登山道に踏み込む。
 

蓼科山登頂

  U君が先に歩き、私はそのペースに合わせて後ろを歩く。さすがにベテランのU君の歩き方は安定していて、早過ぎず遅過ぎず、後ろを歩く私には楽だった。熊笹に覆われた山の斜面を一本調子で登って行くと、次第に視界が広がり、南アルプスや北アルプスの山々が彼方に高さを競うように連なり、麓には緑に囲まれた白樺湖の水面が光って見える。

        
        高度を稼いでゆくと眼下に白樺湖が見える            途中でひと休み

  頂上が近付くと草木の緑が消え、岩がゴロゴロ堆積したガレ場になる。2時間半の登りの末、10:30、標高2,530mの蓼科山頂上に到着。同じ大きさの岩の欠片を思い切りぶちまけたような蓼科山の頂上は意外と広かった。頭上にはまだ青空が広がっていたが、周囲はガスが湧き出して次第に視界は狭まってきた。それに強い冷たい風が吹き付けるので、記念写真を撮った後、早々に山頂直下の蓼科山荘まで下った。私自身はもう少し山頂で過ごしたかったのだが。

          蓼科山頂上にて

  11時〜12時、蓼科山荘で休憩。ジュースを買い持参のパンで朝食兼昼食とした。外は寒いので山荘の中で、管理人の親父さんと一緒にストーブにあたる。親父さんも私達が来て良い退屈しのぎになったようだが、何故かU君は無口だ。何か気に触ることでもあったのか、それともこういう雰囲気が嫌いなのか...。

  正午、蓼科山と北横岳鞍部にある天祥寺原へ向け急降下開始。標高差500m余りの膝が笑うような急斜面を50分で駆け降りる。計画では、此処から北横岳を登り、山頂小屋に泊って北八ヶ岳を縦走の予定だったが、二人とも何となく疲れたので予定を変更し池巡りに専念する。山と山の間を潜り抜けるように、この北八ヶ岳特有の倒木がやたらと多い熊笹に覆われた道を歩いて行くと、先ず小さな亀甲池が現れる。池が干上がると池の底が亀の甲羅のようにひび割れることから命名されたと言う。しかし、大概の池は干上がればそうなってしまうのではないか。
 

静かな双子池ヒュッテの一夜

  14:20、雄池と雌池に挟まれた双子池ヒュッテに到着。ここに泊って午後をのんびり過ごすことにした。ヒュッテの番人である老夫婦は、私の故郷と全く同じ方言を話す優しい人達で、とても好感が持てた。小屋はガラ空きだったが、二階の大部屋に充分なスペースを確保してから、下のストーブ脇で過ごす。水は雄池からいくらでも汲めるので、ふんだんに水を使って飲食をする。U君持参のガスコンロで湯を沸かし、先ずはコーヒーとウィスキーのお湯割りを楽しむ。U君はかなりな酒豪で、私が酔ってうとうとしながら時々目を覚ますと、常にウィスキーのキャップでストレートをちびちびやっていた。夕食はレトルトパウチのカレーライスと牛肉の缶詰等を腹一杯食べた。宿泊者は少ないが、ストーブの周りは眠る前のひと時を過ごす人達で賑やかになった。その夜、湿気た重たい布団にくるまり、近年経験したことが無い快眠を味わった。

    
          亀甲池にて                            紅葉の白樺林


ゆっくりと北八ヶ岳池巡り

10月20日(日曜日)

  とてもぐっすり眠った。7時頃目が覚めても、この気持ち良い布団からなかなか抜け出ようという勇気が出ない。U君はとっくに起きていて、下のストーブの所に居た。昨夜の残りのおかずで朝飯とする。

  8:07、双子池を出発。山の麓を巻くように付けられているが、落石多発の為廃道となった車道を50分程歩き、森の中にひっそり佇む雨池に着く。今日は生憎の曇天で、人気も無く一人で訪れたらきっと泣きたくなってしまう程の寂しい所だ。耳鳴りがする程静かで、対岸の人の話し声まで聞こえてくる。

  雨池を後に、笹に覆われたぬかるんだ道を一時間歩くと、忽然と舗装された車道に出くわし、麦草峠に出る。更に車道と付かず離れず30分程も苔むした林の中を歩くと白駒池に着いた。11:05から12:15迄休憩。車道から近い為、老若男女が大勢居た。池の畔には二軒の小屋があり、どちらも賑わっている。池にはボートが浮かび華やいだ声が聞こえ、これまで歩いてきた寂しい池とは違う俗世間の臭いがする。しかし、静かな山々と原生林に囲まれたこの白駒池の雰囲気は好もしい。白駒荘という小屋の前で餅入りラーメンを作って昼食とする。

   雰囲気の良い白駒池

  腹ごしらえが済み、いよいよ最終目的地である稲子湯への下山にかかる。今迄歩いて来た池巡りコースは車道も近くを通っていたこともあり、それ程人里から離れた処だという気がしなかったが、標高はずっと2,000mを下らなかったのだ。だから、稲子湯への下りが結構急で距離も長かったのに少し驚いた。それが証拠に、標高の高い池巡りコースでは既に終わりかけていた紅葉が、麓に近付くと鮮やかに色付いているのが目立つようになる。白樺の尾根道もきれいだった。

  ウンザリするほど下った14:20、待望の稲子湯に到着。ここで450円を払って温泉に浸かり、二日間の汗を流す。熱いが気持ちの良い湯だった。バス待ちの時間をロビーでビールを飲みながら過ごす。

     山行の終点、稲子湯で

  バスで小海線の松原湖駅に出て小諸に向かう。とっぷり日が暮れた小諸から17:51発の特急あさま26号に乗車。混雑のため座れなかったが、我々が立っている傍に座っていた親子連れがわざわざ「高崎で降りますよ」と教えてくれた。横川駅で峠の釜飯とビールを仕入れ、高崎到着を待って食べる。やはり、たとえ1時間でも座れると楽である。立っている時間は長く感じられたが、座ってしまうと大宮にはあっという間に着いてしまった。

  19:52、大宮で下車。U君と別れ武蔵野線経由で21:40帰宅。■


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