Data No. 179 |
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秘湯本沢温泉を訪ねて
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当日まで、私自身は、「ホッとする薪ストーブと檜の展望風呂」のオーレン小屋に、のんびりと宿泊することが主目的で、登山をあまり考えてはいなかったのだが、数日前までの予報に反して、宿泊翌日も、日本晴れが約束されていた。そのため、根石岳登頂と秘湯本沢温泉探訪へ、急遽HN氏に同行することにした。 檜の展望風呂とホッとする薪ストーブのオーレン小屋 5月16日午後、八ヶ岳の核心部、桜平駐車場までは途中から舗装されていない狭い山道を、ホコリにまみれながら、先導する岳さんの車に必死について行く。車高の高い我が愛車では、上半身をかなり揺さぶられてのドライブだ。一般車はゲートのある桜平でシャットアウト。しかしこの日は、岳さんの特別なサービスで、夏沢鉱泉の少し先まで四駆の車に乗せていただいた。四駆でもなければ、腹をこすったり天井に頭をぶつけそうな、オフロードに近い道を、遊園地の乗り物を楽しむような気持ちで、HNさんとはしゃぎながら、ぐんぐん高度を稼いでいった。 やがてオフロード車でも通れない本格的な山道の手前で車を降り、新緑の芽吹く山間をリュックサックを担いで登ってゆく。川沿いの山間だけに、ほとんどの行程は雪の上だった。それでも何とかアイゼンは装着せずに約50分頑張る。これで平年より雪が少ないとのこと。 オーレン小屋は、明るく森が開け、硫黄岳が見渡せる、心地良い場所に佇んでいた。かなり大きな小屋である。岳さんの伯父様である「おやっさん」が屋外で作業をしながら出迎えてくれた。聞くと、今日の宿泊は我々二人だけらしい。高い山は、5月中旬では、まだまだシーズンオフなのだ。 荷物を降ろし、早速「檜の展望風呂」で汗を流す。5〜6人は楽に入れそうな大きさ。山小屋に泊って風呂に入れるなんて夢のよう。窓の外は、メルヘンの世界のような静かな森。山小屋なので、もちろん石鹸やシャンプーは使えないが、心身ともに、温泉旅館に泊った気分で、サッパリする。 到着がやや遅めだったので、夕食は本来17:30だったのを、18:00からにしていただいた。泊りは我々二人だけだったので、食堂ではなく、薪ストーブのそばにセットしていただき、岳さんと3人でゆっくりいただく。メニューは、馬肉のスキヤキ(桜鍋)だ。馬肉は信州各地の名物料理であり、普通の牛や豚と遜色ないほど柔らかく、美味しくて、ビールや日本酒を飲みながら、たらふくいただいた。至福のひととき。 腹が満ちた後は、おやっさんも参加されて、薪ストーブを囲んで、しばらく語らいのひとときを楽しむ。煌々と燃え盛る薪ストーブの熱がとても心地良く、郷愁をかきたてる。 オーレン小屋は、ヒマラヤ山脈の麓、ネパールとも関係が深く、慈善事業にも携われていて、小屋の従業員の皆さんの研修もネパールで行うことがあるそうな。料理が好きで、お掃除の好きな60歳位までのご婦人を、従業員募集されていたので、これが目に留まって関心のある方は、コンタクトされてみては。 心地良い寝床、満天の星空 もう35年以上山歩きをしているが、山小屋では熟睡したためしがない。窮屈で硬い寝床、湿っぽい布団、人いきれ、普段の生活とは全く違う就寝・起床時間...。この日も、午後8:30頃に消灯し、一旦は寝入ったが、深夜0時頃にトイレに起きてからは全く寝られなくなった。窓の外は、ここ数年見たことも無い、吸い込まれてしまいそうな、満天の星空だ。 こんな誰もいない山中の森でUFOが突然出現して、さらわれてしまったら、キャー怖い...。(ジュク年のおっさんなんて、誰もさらわないってば!) オーレン小屋の寝床は、敷布団も掛け布団もふかふかで、良く乾いており、自宅の寝床よりもずっと快適だ。熟睡できなかったのは、毎日、深夜0時前に布団に入ることなど滅多に無い私自身の生活習慣のせいだ...。 いざ八ヶ岳の稜線へ 5月17日、5:30、薪ストーブの傍で朝食。山小屋とは思えないメニューで、とても美味しくて、二人でおかずもご飯も何も残さず平らげた。 6:20、HN氏と支度をして山へ出発。今日は八ヶ岳の稜線に登って、根石岳を登頂し、夏沢峠を経て本沢温泉に下り、露天風呂に入浴後、夏沢峠に登り返し、オーレン小屋〜夏沢鉱泉〜桜平へと戻る行程だ。本沢温泉は、稜線の反対側なので、帰路の登り返しは仕方ない。以前より、テレビ番組でも時折紹介されていた、歩いてしか行けない山中の秘湯で、温泉フリークの私自身もチャンスを長年うかがっていたものだ。 稜線への登りは、最初から残雪豊富な樹林帯の中だった。岳さんはアイゼンは不要と言っていたが、それは山のベテランの場合であって、我々はアイゼンを装着していなかったら、途中でギブアップしていたであろう。登山道は、残雪が固く締まったところと、ズボッと膝までもぐってしまう所が、ときどき目では判別できない。それで結構、体力と時間を消耗する。 約1時間の登りで樹林帯に覆われた箕冠山に到着し、根石小屋のある鞍部に一旦下り、残雪の完全に消えた露地でアイゼンを外して根石岳に登る。標高2,683mの山頂では、素晴らしい大展望が待っていた。 背比べをする八ヶ岳最高峰の赤岳や阿弥陀岳、北アルプスの槍穂高連峰、中央アルプス、南アルプス、浅間山、奥秩父山塊、ヘタな解説をするよりも、ヘタな写真を紹介します。 硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳が背比べ
根石岳から本沢温泉への直接ルートは、まだ通行禁止のため、再び箕冠山に登り返して、夏沢峠に下り、そこから急斜面を延々とジグザグに下って、本沢温泉を目指す。根石岳から見下ろした本沢温泉は、ゲゲッ!と思うほどはるか下の谷底だった。行きは良い良い、帰りは...O。(-。-;)! 以前、硫黄岳の山頂から眺めた本沢温泉は、急峻な爆裂火口の真下にあり、大地震や豪雨などで山の斜面が崩れたら、ひとたまりもないのでは、と思わせる場所に見えていたのを記憶している。そんなことが無いことを切望するが、安全なうちに、ぜひとも憧れの秘湯を私は体験したい。 日が昇るに連れて、残雪はところどころ緩み、下り坂で体重をかけると、しばしば膝までズボッとくる。1時間弱で、私の大好きな硫黄の香りが漂う本沢温泉旅館に到着した。時間はまだ午前9時過ぎ。旅館のフロントで山バッジを数個購入し、缶ビールを買い、入浴料金(600円)を支払って、露天風呂に行く。露天風呂は旅館の手前にあったのだが、有料なので、一旦通過して、下の旅館フロントで料金を払ってから登り返していかなければならない。本沢温泉は、旅館内の内湯と露天風呂は湯質が異なり、できれば両方入りたいが、内湯は800円、露天風呂は600円の別料金で、両方入ると1,400円もの出費になる。まあ、今回は露天風呂だけにしておこう。 露天風呂は硫黄岳から流れる渓流の傍にあり、木製のテラスがあるだけで、脱衣場もなければ目隠しも無い。まあ、何も無いのが「秘湯」の魅力なのか。しかし、湯温はズバリ私にとってはのんびり長湯のできる、ぬるめの適温に管理されていた。HN氏と、童心に返ってセルフタイマーで写真を撮ったりして、完全貸切の露天風呂を、しばし楽しむ。 露天風呂を存分に楽しんだ後で、木製のテラスで缶ビールをいただく(浴槽内では飲食禁止です!)。硫黄岳の爆裂斜面が凄い迫力だ。本当に今ここで大地震が発生して、斜面が崩れてこないことを願う。思いのほか、ここでのんびり時間をつぶした。できれば、もっとのんびりしたいのが本心。 ビールを飲んだその後、夏沢峠へ急斜面の1時間強の登り返しが辛くてバテバテになったことは言うまでもない。しかし、私にとって、長年憧れていた山中の秘湯を、やっと探訪できた満足感は大きかった。 夏沢峠からオーレン小屋は、わずか20分足らずの下り。正午過ぎに帰着。おやっさんは外で日向ぼっこを兼ねてお昼寝されていた。岳さんは、お仕事のため、既に下山されていた。おやっさんや宿の皆さんにお礼を述べ、のんびりと山を下る。 憂き世を離れた山での生活なんていいな...。なあんて、実際はそんな甘いものじゃなくて、黙っていて客が来るものでもない。岳さんは本当に毎日忙しそう。営業活動も、小屋の管理も、客の管理も本当は大変だってことは想像できます。でも、やっぱりギスギスした都会での仕事や人間関係に疲れた時には、薪ストーブの熱で身も心も温まり、銀河鉄道で旅しているような満天の星空を眺め、喧しいテレビも無く、携帯電話も圏外、こんな山小屋でのひとときが、何物にも替えがたい「癒し」になりそう。 北アルプスや南アルプスの山小屋は、ピークシーズンには凄まじい混雑で、疲れを癒すどころではない場合がしばしばだが、八ヶ岳の場合は、稜線から離れた山小屋はピークシーズンでも比較的ゆったりと泊れるそうな。私自身も是非また行ってみたいし、他の人にもオススメしたいリフレッシュ法です。■
今回訪ねた場所の詳細は、下記をご参照ください: |
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