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Data No. 128

 データ:
 登頂日: 1995年11月11日
 標高: 2,112m
 場所: 長野県
 天候: 晴れ
 登頂時の年齢: 41歳
 同行者: FKさん、MOさん

 
 佐久の幽山
 

 御座山(おぐらやま)
 


忘れられなかった山

  御座山と書いて「おぐらやま」とは読めないし、有名な山でもない。しかし、この山の名前は知っていた。520名もの犠牲者を出した1985年の日本航空ジャンボ機墜落事故の際、当初この御座山に墜落したと誤報されていたからだ。実際の大惨事の現場は、ここより東側の群馬県上野村の御巣鷹山fだった。

         
                            独特な姿の御座山

  その後、すっかり御座山という存在は忘れていたが、2年前、小海線沿いの国道を車で走っている時、道を間違えて変な方向に迷い込んでしまった。その時、ひと気の無い田舎道の真正面に奇怪な岩山を見た。甲斐駒ケ岳のミニ版とでも言おうか。まるで僧侶のように、山裾には深い緑の樹林帯の法衣をまとい、頂上付近は見事に禿げて、白い巨大な岩塊が絶壁となってそそり立っている。このまま進んでしまったら、不気味な世界に迷い込んでしまうのではないかと背筋が寒くなり、慌てて車をUターンさせた。これが、御座山との私の初めての出会いであった。

  関東からこの山に行くには、大変な遠回りを強いられる。埼玉県から群馬県西部を経て長野県にかけての地域には、奥秩父山塊がどっしりと横たわり、この山塊を車で通り抜けられる道は無いに等しい。入間からR299は諏訪まで通じているが、山中が未整備の悪路だ。従って、関越道〜上信越道佐久ICを経て、小海線に沿って南下する。小海駅付近から北相木村方面に左折して山懐に進む。金曜日の夜、月明かりが仄かに照らし出す山々は、狼の遠吠えが聞こえてきそうな、心細く冷たい雰囲気が漂っていた。北相木村から、「御座山」という道路標識を頼りに右折し、狭い山道を登ると、車が3〜4台停まれる森の中の駐車場に着いた。ここで、車中仮眠して朝を待つ。
 

強烈な寒気の山頂へ

  朝方はかなり冷えこんだ。青空が見えているが、雲の流れが早い。朝食をとり、仕度を整えた頃、何とポツポツと雨が当りだし、やがてパラパラと霰が降ってきた。カーラジオの天気予報では、今日の関東地方は良く晴れる、信越地方も回復に向かうということなので、信用して、7:05に出発する。

  幸い、歩き始めると天候は持ち直した。しかし、「御座山」という標識に従って行くと、車が何とか通れそうな林道はまだ延々と続いていた。ガイドブックに出ていた登山口が、まだこの奥にあるとすると、余分に歩くことになるが、今更引き返すのも馬鹿馬鹿しい。「対向車が来たらすれ違えないね」、「車の腹をこするかもね」とお互いに慰めあって納得する。結局、林道を30分も歩いた処で、ようやく本来の登山道が現れた。登山所要時間が30分延びたということか....。

  登山道には全く人気が無かった。まだ、いくらか紅葉でも楽しめるか、という期待はすっかり裏切られ、樹林帯はすっかり冬支度を始めていた。しかし、オレンジ色に染まった落葉松林の中は、枯れ落ちた松葉が厚く積もって、クッションのように足裏に気持ち良い。所々胸の高さまで伸びた笹薮が道を隠しているので、顔や手を切らないように、泳ぐように進む。どうも管理の悪い道だ、本当にこの道で良いのか、と疑問に思うが、「御座山」という道標は所々にある。

  ほとんど水の流れていない沢に沿って登って行く。鬱蒼とした雰囲気がいつまでも続いた。やはり、おかしい。予定では、尾根道を登り、登山口から一時間もすれば北面が開ける展望台に着く筈なのに、そんな気配はまるで無い。ひたすら、ジグザグも切っていない急斜面をいつまでも登らされた。

           
                        冬型の気圧配置で、八ヶ岳は雲の中

  視界の利かない鬱陶しい急登は結局2時間も続き、行く手左側の頭上に、垂直に切り立った岩の塊が現れ、頭上が明るくなって登りつめると、ようやく尾根道に出た。そこを左に曲がり、僅かに登ると荒れた避難小屋が現れて、小屋の裏を回って行くと、待望の山頂であった。

  すごい山頂だ。両側のスパッと切れ落ちた狭い岩場が長く伸びていて、そこを渡ると「御座山 2,112m」と書かれた立て札がある。MOさんは恐くてへっぴり腰になっている。「こんな姿は絶対ジジババには見られたくないな」とぼやく。素晴らしい高度感と恐怖感を味わえる頂上からは360度の展望が広がっていた。しかし、冬型気圧配置の今日、北西方向の高山は山頂付近を完全に雲に隠していた。南東の関東方面は良く晴れている。奥秩父の山々は良く見え、鋸の歯のような両神山、岩の塊が突き出た二子山が一際目立つ。すぐ其処に見えるあの山々は地元の埼玉県なのに、何と遠回りをさせられたのだろう...。足元の野辺山高原から八ヶ岳山麓は紅葉がきれいだ。

   
            麓の紅葉はきれいだが、ちょっぴり怖い御座山山頂

 奥秩父の両神山はすぐ近くに見える 

  避難小屋へ下り食事をとる。ゴアテックスのジャケットを着たが、汗が引くと強烈に寒くなった。フライパンで焼き立ての熱い肉を食べて身体を温めるが、寒さはそれを上回る。ビールを飲んでも冷たい液体が内臓を冷やすだけ。最後のフカヒレスープが一番身体を温めてくれた。寒い筈である。上空の雲は薄いものの、乾いた雪がチラホラ舞い落ちてくる。気温が氷点下であることは間違い無い。

  凡そ2時間粘ったがそれ以上展望が広がることもなく、寒さに耐え兼ねて下山を開始。往路をそのまま下った。歩き始めたら、身体はもちろん暖かくなったが、酒の酔いが今になって急激に回ってきた。顔がほてり眠くなる。その酔いも2時間の下りで、何とか醒めてくれた。駐車場に帰着すると、車は一台増えているだけだ。今日、行き会った人は、たったの3人である。

     御座山山頂部をズームアップ 

    下山後、御座山を振り返る


  北相木村に向けて車を進めると、御座山の全景が綺麗に見渡せる。すっかり秋の色に山裾を覆われ、あの岩山は優美に聳え立つ。「幽山」という雰囲気だ。寒さに凍えた山頂であったが、こうして振り返ってみると、なかなか立派な姿の山だ。

  帰路、佐久の美笹温泉センターで冷えきった体を十分に暖め、山の汗を流す。今年は久し振りに沢山の山に登ったが、2,000mを越す山は、もう来年の初夏までは無理だ。晩秋の夕暮れは早い。陽が落ちて山際がシルエットに浮かぶ夜道をドライブしながら、来年はこのメンバーで、穂高岳を目指そうという話が持ち上がった。

  帰宅後、地図を色々調べたが、我々が登ったルートは、やはりガイドブックの紹介するルートとは明らかに違っていた。しかし、地図を良く見ても、我々が歩いたルートに該当するようなものが無いのだ。「御座山」という道標は沢山出ていて、実際に山頂には立ったのだが、どうもキツネにつままれたような、釈然としない気持ちが、一週間を過ぎた今でも私には残っている。■

 

御座山登山行程

11月10日(金曜)〜11日(土曜)
入間20:50===小手指21:15==(関越・上信越道)==佐久==小海==0:30北相木村
登山口駐車場7:05---7:35林道・登山口分岐---9:40稜線---9:50御座山11:45---13:15林道分岐---13:45駐車場14:00==(途中で食事)===15:30美笹温泉17:00===(往路を戻る)===19:30入間帰着

 
   
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